Interview with Vega ― 織姫かく語りき ―

RAY

Interview with Vega


 元気してる?

 こと座のベガこと織姫よ。

 

 熱中症でダウンしている人はいない?

 気をつけないとダメよ。これからもっと暑くなるんだから。


 あっ、最近、下界から視線を感じると思ったらもうすぐ七夕なんだ。

 牽牛あいつとの「天空デート」の日……すっかり忘れてた。


 えっ? うれしくないのかって?

 それって、人間の暦ではあたしたちが一年に一度しか会えないから?


 もともと寿命が違うからなぁ……。あたしたちの寿命は十億年ぐらいあるけれど、あんたたち人間は長くて百年ぐらい。あたしたちの一千万分の一じゃない?


 一年は「約三千百万秒」。あたしたちには「三秒」ぐらいにしか感じられないの。

 つまり、あたしは牽牛あいつに会ってるってわけ。


 雨が降って天空デートが中止になったとき、「久しぶりの逢瀬だったのに織姫が可哀想」なんて声をよく聞くけれど、そうでもないんだな。だって、三秒後には会えるんだから。


 それから、あたしたちが天の川ミルキーを挟んで十五光年の距離を隔てているのを知って「遠距離恋愛エンキョリ」なんて言う人もいるよね?

 でもね、あたしたちにしてみたら、目と鼻の先なんだな。これが。


 あっ、夢が木端こっぱミジンコ?

 ごめん、ごめん。ぶっちゃけ過ぎちゃった。


 でも、安心して。

 当日は、夢を壊さないように、ロマンチックな逢瀬を演出してア・ゲ・ル。


 ここだけの話だけど、あたしだっていろいろ気を遣ってるのよ。

 例えば、この服。M五十七星雲にある老舗デパート「ギャラクシー・ラファイエット」で買ってきたの。早起きしてバーゲンに並んだのよ。

 髪だって、ほら。行き付けのヘアサロンに行ってパーマ掛け直してきたんだから。だって、抜かりないし。


 地上から覗いているあんたたちには、そんなところまで見えないだろうけれど、見えないところも手を抜かないのがプロってヤツよ。伊達に三億年生きていないんだからね。


 でも、お天気は微妙ね。こればっかりは、どうすることもできないわ。地球の気象の問題だから。


 そこは、あんたたち人間が得意とするで何とかしてちょうだい。

 何て言ったっけ? ええっと……ココロ……ガケ……? そう! 心掛け!

 非論理的で胡散うさん臭いと思いながら、実際、成果が出ているから驚きよね。


 人間って、つくづく不思議な生き物だと思う。

 だって、こんなにちっぽけで弱々しいのに、時として、理解を超えた、強大なパワーを発揮するんだから。


 もし心掛けとやらが功を奏したら、当日の八時頃、会えるね。あんたたちに、それから――牽牛あいつに。


(インタビュー終了)


 な、何、ニヤニヤしてるの!?

 別に、会いたいわけじゃないんだからね!

 何度も言ってるでしょ? 「三秒後には会える」って! 

 は、話を聞け~! インタビューが終わった途端、無視かい!

 う、じゃないっつーの! 誰が上手いこと言えと言った!!



 おしまい

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