E.もう一つの世界

 邦夫たち3人は魔女の世界を飛び回っていた。

「この世界には町はないの?」

 邦夫がアテーナーに問う。

「まだないわよ。これから私たちが作らないといけないの。どんな町がいい?」

「どんな町って君たちが暮らす世界なんだから、君たちがいいと思う町がいいんじゃない?」

「あなたも来る町なんだから、他人事じゃないわよ。」

「そんなこと言われてもな・・・。」

 新しく町を創造するというのがよくわからない。

 少し考えて、郁夫はこう答えた。

「もともとアテーナーたちが住んでいた町を見てみたいな。」

「了解。じゃあ、そういう方向性で行きましょうか。」

 そういうと、アテーナーは地面全体に強大な魔方陣を展開し、“Create”と叫んだ。

 すると、みるみると、まるで魔法陣の下に埋まっていた都市がにょきにょきと生えてくるような感じで町が出現した。

「すごい・・・。」

 邦夫はアテーナーの魔法の威力にただただため息しか出てこなかった。こんな少女が一人で町を生み出していく様を目の当たりにし、不思議な気分になった。日本の神話で、神様が垂らした液から日本列島が生まれたというのがあったが、あれはまんざら嘘じゃないのかもしれないとさえ思った。

 5分もかからずして町が生み出された。それは、中世欧州の町に似た雰囲気だった。

「やっと私たちの家ができたわね、ヘーラー。」

「そうね、これで野宿ともおさらばね。」

 そういいながら、魔女二人は町へ降り立つ。それに続き、邦夫も町へ降り立った。

 当然、この世界の住人は邦夫たち3人しかいないので、町は無人である。

「どれを家にする?」

 アテーナーが邦夫に問う。

「そんなお菓子を選ぶような感じで選んでいいのかい?」

「だって、今住人は私たち3人しかいないのよ。こんなの、早いもの順でしょ。」

 不動産屋もいないし、役人もいない。この町は、今3人が自由に使えるのだ。

「そっか。」

「それとも、邦夫くんは私たちと同棲したいのかしら・・・?」

 突然、アテーナーがにやにやしながら邦夫に聞く。

「ちょっと、そうやって若い男をたぶらかさないの。」

 ヘーラーがアテーナーの行為を戒める。

「そんな目で見ないでよ・・・冗談に決まってるでしょ!」


 邦夫は町の中心にある三角屋根の家を選んだ。日本でいうところの、キャンプ場のバンガローみたいな外見で、バンガローより少し広いくらいの広さだ。

「もっと豪邸とかにすればいいのに・・・」

 貪欲さに欠ける選択をしたとアテーナーは考え、邦夫に言う。

「それぞれにふさわしい広さってものがあるからね。それより、これが自分の所有物であるという目印みたいなのはつけられるの?」

「ああ、それはね・・・。ちょっと私の手を握って」

 邦夫は言われた通り、少し照れながらアテーナーの手を握る。

「いいね、このちょっとドキドキながら女の子の手を握る感じ!男の子って感じね。」

 そんなことをいいながら、アテーナーはステッキを床に突き刺し、こういった。

「白銀の書よ、この家をわが妖精のものとせよ。」

 すると、白い光が家全体に走った。

「はい、これであなたのものになったわ。誰か他人が侵入すれば、攻撃魔法がかけられるようになっているわ。」

 本当にそれが働くのか、半信半疑だった邦夫だが、ここはアテーナーの言葉を信じようと思った。

「じゃ、私たちは自分たちの家を確保して寝るわ。また明日、ここへあなたを迎えに行くから。」

 そういってアテーナーたちが邦夫の家を出ようとした時だった。ものすごい音がした。音圧で家が揺れる。地震が起きたのかというくらい、揺れた気がした。

「何!?」

「邪魔者が来たのよ。ヘーラー、行くわよ。」

 そういって、2人は外へと行く。邦夫も地面から2人の様子を見る。

 それは、何とも言い表せない物体だった。大蛇のような生物。体は黒とピンクの斑点模様。はっきりいって、“ただの気持ち悪い巨大な蛇”と、邦夫の目には映った。

 その蛇のような物体に、果敢に挑む2人。絶え間なく攻撃魔法を打ち込む。相手もなかなか強いのだろうか、そう簡単には倒れない。

 2人は、ひるむことなく戦い続ける。その姿を見て、邦夫は今までとは違う思いを彼女たちに抱いた。

 彼女たちは、自分たちの生きていく世界を、命を懸けて守っている。人間とは会いまみえない存在であるとわかっている。だからこそ、自分たちの世界を生み出し、それを死ぬ気で守っている。人間の世界を駆逐するのではなく。

 別に、魔女は人間に危害を加えたわけではない。人間とは違う能力を持っているだけ。なのに、人間は魔女を受け入れなかった。だけど、魔女は人間から勝手に与えられたレッテルを受け入れ、こうして自分たちの世界を守ろうとしていた。これはゲームなんかじゃない。生き残りをかけた、戦いなのだ。

 邦夫は胸が苦しくなった。なんて自分は生半可な気持ちで、アテーナーのマスターになったのか。邦夫の目には、涙があふれてきた。

 すると、邦夫の隣に白銀の書が来た。白銀の書が邦夫に英語でこう話しかける。

「あれはなかなか厄介な敵です。でも、持っている魔力も大きい。あれを倒せれば、容量は1000増えます。」

「そんなにすごいの?」

「はい。あれを倒せるのは、2人だけでしょうね。」

 戦闘は5分ほどで終わった。最後は、アテーナーが打ち込んだ魔法がとどめとなり、大蛇は消えていった。白銀の書の画面には、“容量1500追加”と表示された。

「思ったより魔力が強大でした。さすが、アテーナー様です。」

 2人が邦夫のもとに帰ってきた。アテーナーは少し疲れた表情を見せていた。

「アテーナー、君が行っていたクエストって、もしかしてこのことなのかい?」

「そうよ。クエストなんて、真っ赤なウソ。実際は、邪魔者が来ればそれを退治するの。私たちの世界を守るためにね。」

 邦夫は白銀の書の、魔法のページを開いた。

 打ち込んだ魔法は、“Recovery”だった。容量1000を使って、追加した。

「邦夫くん・・・」

 邦夫は、アテーナーの手を握り、こういった。

「君たちの世界を守る活動に、僕は全力で協力するよ。僕も、魔女の世界を守りたい。君たちの居場所を守りたい。そのためにできることがあるのなら、僕はなんだってするよ。」

 邦夫は、2人が戦う姿を見て抱いた覚悟を伝えた。その言葉を聞いた瞬間、アテーナーの目からは涙があふれた。

「人間が・・・忌み嫌う存在よ、魔女は。私たちは。それでも、あなたは私たちの味方になるの?」

「なるさ。」

 アテーナーは声を上げて泣き出した。うれしさと、申し訳なさと、いろいろな感情が複雑に混ざった涙だった。

「ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって・・・ごめんね・・・。」

 そういいながら、アテーナーはずっと泣き続けた。


 ここで、読者の皆様は、冒頭のシーンはなんだったのだろうかとお思いだと思う。

 あれは、このゲームを始めてやった時、邦夫が勝手に想像したワンシーンなのである。

 これはゲームなんかではない。

 魔女が自らの世界を守り、再編するプロセスなのである。

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Re: Assemble 柊木まもる @Mamoru_Hiragi

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