調査


翌日。5泊6日の2日目。

眩しさで目を覚ました。

キラキラと朝日が埃に反射して余計に明るく部屋に差し込む。

今日は昨日よりも暑くなるかもしれないな、と寝ぼけ眼を擦りながら起き上がろうとした。


「いった!」


布団に擦れた腕が切れるような痛みを覚え眠気が一気にとんだ。

よく見ると日焼けが昨日より悪化している。


「うわぁ…ちゃんと冷やしておけばよかった。」


今日の夜、氷とか食堂に貰いにいこうかな。


「うーん…。」


一つ呻き声をあげて詩久葉も起き上がった。

案の定、半袖から伸びる白い腕はところどころ赤く腫れている。


「おはよう詩久葉。日焼け、ヤバくない?」


「おはようございます。凄く痛いですよね、私なんか日焼け止めのムラが…」


でも、ムラにしては白と赤のコントラストが

私の比では無いくらいハッキリし過ぎている気がする。


「今日は入念に日焼け止め塗らないとですね。顔にシミなんか出来たら大変ですもの。」


痛そうに眉をひそめて笑う詩久葉に

私も苦笑いするしか無かった。



* * *




朝食もそこそこに私達は調査に向かうことにした。


調べてわかったことと言えば、



・この村の人口は約100人ちょっと。


・村人の表情はだれも暗く(宿の従業員含む)

何か質問をしても口が動くことはまず無かった。


・苗字に『二』の文字が入ってるものが多い。

(例えば 二川目フタカワメ二本木ニホンギ二石フタイシ など。)


・やっぱりというか田舎には当たり前のことと言うか、絶対的に年配の方が多い。


メモを見返すと、どれも陰湿な印象を受けることばかりで、なんだか気が滅入る。


『あの絵』のことを聞いてもすぐ家に引きこもっちゃうし…。

案外簡単な事じゃないんだなぁ…。


昨日のわくわく感は一体どこに行ってしまったんだろう。

私の心はもうくじけそうだよ……。


* * *


色々探検してるうちに目の前に大きなお屋敷が現れた。

お屋敷の前の道は他よりキチンと舗装されており、木でできた表札には達筆な字で二頭フタガシラと書かれている。

私達はとりあえず太陽の熱射から逃げるように門の影へ移動した。


「この屋敷、村の代表みたいな感じゃね?ちょっと話きいてみるか?」


「村人達の話だけじゃ情報が少なすぎるものね、このお屋敷の人はコミュ障じゃなければいいんだけど。」


持参のスポーツ飲料もそろそろ無くなりそうだ。涼しい場所で冷たいお茶でも飲みたいよう。


「こらこら、あまりそんなこと言うもんじゃないですよ。ずっと閉鎖された山奥に住んで動物と虫としか接触していない田舎者なんですから、外部の人間は眩しすぎるんでしょう。」


「詩久葉、ちょっとキレてるでしょ。」


ふふふ、と笑う詩久葉。

その綺麗なお顔で笑うとなんだか余計に怖いよ詩久葉様ぁ!



「詩久葉ちゃん…結構毒舌なんだな…、意外な一面を知れて嬉しいよ…。」



「ストーカーにマゾを付加しても犯罪性が増すだけだよ、青木君。」




* * *



ピンポーン…。

呼び鈴を鳴らしたのはこれで3回目。

1回目は10分前、2回目はその5分後、そして今に至る。


「なかなか出てきやがりませんね。詩久葉隊長。」


「えぇ、奴らは怖気づいているのかも知れませんね。希子隊員。」


うだるような暑さに頭をやられて、

よく分からない小芝居を始めた女子組を尻目に、男子組は根気よく呼び鈴を鳴らし続けている。


「縁側の方から微かに声が聞こえてくるから、いないわけでは無さそうなんだがな。」


「お経っぽいよね、声のトーンが。」


「終わるまで待っといた方がいいな。そしたら出てきてくれるかもしれないし。」


「まって、聞き捨てならない言葉が聞こえた。ここで?この暑さの中?まだ待つの?これ以上?もっと…??」


青木はニヤリと気味悪く口の端を吊り上げる。


「疑問符が多すぎるぞ織原。だが答えてやろう。そうだ、ここで、この暑さの中、これ以上ないくらいに、もっと待つぞきっと。」


いつも悪態をつかれる仕返しに、青木は破顔の笑顔だ。魔王の様な笑い声が聞こえてきそう。


「くっそ!快適な環境下ならあいつをボコボコに出来るのに!」


「まぁまぁ希子。僕のスポドリあげるから落ち着いて。」


うなだれる私をよそに太陽は真上を目指して順調に上昇中。

その向上心を私と足して割ったら丁度良くなるだろうに…。


もうすぐ1日で一番暑い時間がくる。

その前になんとか屋内に入りたいものだ。


「連打、いきます?」


「詩久葉さん、話を聞くどころか村から追い出されるよ。」


詩久葉もなかなか限界が来てるらしい。

今、まともな理性が残っているのは研太のみだ。


「分かった、ラストピンポンして出てこないようだったら今日は諦めて帰ろう。みんな、それでいい?」


「賛成。このまま待ってたら日焼けどころか熱中症になっちゃう。」


「右に同じだ。」


「同じです~。」


なんだか研太頼れるし私より1番リーダーらしいな。

少しカッコイイかも………。少しだけね!



ピンポーン…。


研太の指が再び呼び鈴に触れる。

蝉の声と相俟って余計に響いた気がした。


よく耳を澄ますと先ほどのお経らしい声はもう聞こえない。

代わりにガチャンと、重苦しく禍々しい扉の開く音が鼓膜をざわつかせたのであった。


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かたつむり 吉岡 柑奈 @0202K

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