宿


「汗ベタベタ過ぎて気持ち悪い………。」


「ねー、私もはやくお風呂入りたいです。」


「ほら、お前らの荷物受け取れ。女の荷物は重くてかなわねぇ」


無事に宿へ辿り着いた私達は男女別々の部屋に入り、荷物を置いて少し休憩。


部屋は10畳の和室。

真ん中にテーブルとポットとお煎餅、座布団が2つと窓が1つ。

壁にはよく分からない絵が飾ってある。

エジプトの壁画にも似てる、神々しさを感じる不思議な絵。

二つの頭に一つの身体。

どこかの国の神話に出てくる神様みたい。

よく見ると絵の中に『?た??り』と隣に説明分が書かれていたが所々風化してが掠れていて読めない。


少し気にはなったが一日中歩いた体の方が気になり、とりあえずお風呂に入ることにした。

お風呂といっても部屋に備え付けられているシャワーなんだけれど…。


(無いよりはマシか…。)


「詩久葉ぁ、最初お風呂頂くね〜。」


詩久葉は絵を見つめている。

文字の解読でもしてるのかなしら。


「あ!ごゆっくりどうぞ〜。」


一番風呂を頂いた私は早々に服を脱ぎ、

錆び付いて固くなった蛇口を力任せに捻った。


日避けの何も無い道を長時間歩いたせいか、シャワーを当てる度腕にピリピリとした刺激が走る。


「あ〜日焼けしたかな〜今年は絶対焼かないって決めてたのに。」


道中、結構な頻度で塗り直してたけどダメだったか。


痛みを我慢しながら一通り体を洗い流してお風呂を出た。


「詩久葉、次いいよ。……?さっきからどうしたの?」


私がシャワーを浴びている間も絵の前から動かず、ずっと見ていたらしい。


「ううん、何でもないの。ただこの絵がちょっと気になって。なんだか、懐かしい感じがする…。」


「何だか不思議な絵だよね…この村の守り神か何かかな…。」


そういえば村に来たのはいいけど

歴史研究の題材を考えていなかったかも。


「じゃあさ、この絵のことを研究のテーマにしようよ!絵が飾ってあるってことは、この村と根深い結びつきとかあるんだろうし。」


「それいいですね!さっそく男子達にも伝えましょう。」


「夜ご飯食べるがてら、明日のこと話し合いましょうかー。」


田舎の夜にそぐわないはしゃぎ声が宿に響き渡る。

まるで新しいおもちゃを見つけたように好奇心と知識欲が湧いて、なんだか楽しくなってきた。


数少ない判断材料で田舎に来て良かったかも…なんて、思っちゃったりして。



* * *



それから詩久葉がシャワー浴び終わるのを待って(詩久葉もやっぱり日焼けしてた)

男子と合流し、食堂で野菜多めのご飯を食べた。


落ち着いたところで不思議な絵の話をした。

男子部屋にもその絵が飾ってあったらしく、スムーズに研究テーマが決まった。


研究テーマは『この村の守り神、言い伝えについて』

結構オカルトチックになったけど夏だし丁度いいよね。


「まず調べるなら村人に聞き込み調査だな。その方が手っ取り早いし。」


「お、祐介にしては真面目なこと言う」


「祐介さんって意外と勉強に真面目なのですね。」


祐介のにやけ顔、見るに堪えないからあまり褒めないで詩久葉。


「調べるなら神社とかも探してみよう。守り神なら絶対にあるはずだし。あと地形だね。発表会には地図を掲示して説明した方がわかりやすいんじゃないかな。」


忘れた地図の事を気にしているのだろうか、ここで挽回するぞと研太は意気込んでいる。



「それもありですね、では明日は聞き込みと神社を探しに行きましょうか。地図は釜瀬君に任せても良いですか?」


「地図作りは得意だからね。任せてください!」


「それでは明日のために今日はもう寝ましょうか。」


「そうね、私も眠いし、また明日頑張りましょっか。」


「おう、じゃあまた明日な。」


「おやすみなさい希子、詩久葉さん。」


今日最後の挨拶を交わしそれぞれの部屋に戻ると、布団の用意がされてあった。

宿のばあさん、愛想悪くてもちゃんとサービスはしてくれるんだなと関心したさなか

部屋になにか違和感があった。

ぐるぐると部屋を見渡してみるが、何が違うのか見当もつかない。


詩久葉は気づいていないようで眠たそうに歯を磨いている。


「まぁ、いいか。」


ちょっと考えたけど、やめた。眠いし。


違和感を気のせいにして、私は詩久葉の次に歯を磨いて布団に潜り眠りについた。



夜は蛙や虫の声と共に静かに更けていく。


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