第9話 「謎解きと男嫌いな彼女」

「あの・・・・・・ 5番だよね?」


  俺はサヤカの前に行き、自分の引いたクジを見せる。


「あ、えっと・・・・・・うん」


  彼女は少し微妙な返事をする。

  でも、その少し微妙な部分に注目することは、今の僕には考えられなかった。


「じゃあ、ペアごとに紙を配るね〜」


  担任から何か書かれた紙が回ってくる。


『図仲良く書く室』


  図仲良く書く室?

  そこには、訳の分からない言葉が書かれていた。


「なんだよこれ〜」

「訳わかんない〜」


  クラスから様々な言葉が飛び交う。


「静かにして〜」


  担任は少しばかり声を張り上げ、ざわつくクラスを静止させる。


「それが宝のある部屋を示した暗号だからペアでしっかり考えてみてね〜」

「あ、あと一番に見つけたペアには景品があるからね〜」


  担任は、その訳の分からない言葉の説明をし、そそくさと教室を出ていく。


「景品だって〜」

「何かな? 何かな?」


  教室は、その後に発せられた言葉によって再びざわつき始めた。

  それから、各ペアで話し合いを始める。


「あの、どう思う・・・・・・?」


  サヤカはというと、何故か先程から返事をせず、会釈をするだけだ。

  それだけでなく、目線させこちらに向けてくれない。


「とりあえず名前だけ書こうか」


  プリントに自分の名前を書き、彼女に渡す。

  やはり彼女は、こちらを向くことはなく、黙々と自分の名前を書く。

  名前を書き終え、彼女はシャーペンをペンケースに納める。

  その時、彼女の手がペンケースに強く当たり中身がこぼれる。


「あっ」

「手伝うよ」


  彼女のシャーペンに手を伸ばす。


「いやっっ!」


  その瞬間、同じ物を拾おうとした彼女の手に少しだけ触れてしまった。

  すると、彼女が今までにないくらいの大声で俺を拒絶した。


「えっ・・・・・・」


  俺は伸ばした手を即座に引っ込める。

  彼女は急いで落としたペンを全て拾いペンケースに納めた。

  それからというもの、ざわつくクラスとは真逆に俺たち二人の間では沈黙が続いた。

  先程、物凄い勢いで拒絶されたこともあり、こちらから話しかけることも出来ない。


「あ、あの・・・・・・これ・・・・・・」

「えっ、あっ、何?」

 

  前方から物凄く小さな声が聞こえてくる。

  その声の持ち主から一枚の紙を受け取る。


「さっきは大きな声を出してごめんなさい。前にいた学校は女子校だったから男子と話すことに慣れてなくて・・・・・・」


  そこには、彼女の本心?が書かれていた。


「なんだ・・・・・・そういう事か・・・・・・」


  俺は少しほっとした。

  自分が嫌われていたわけではないとわかって。


「無理に話さなくてもいいから、少しずつでいいから、暗号だけ考えてみよ?」

「うん・・・・・・」


  始めて彼女から返事がもらえた。

  たった二文字だけど、それが本当に嬉しかった。

  これから、仲良くなって少しずつでも距離を縮められれば・・・・・・

  ん?

  仲良くなって距離を縮める?


「そういう事かっ!」


  つい、大きな声を出してしまった。

  目の前のサヤカの体がビクンと震える。


「あ、ご、ごめん。暗号が解けたよ」

「えっ、ホント?」


  少しだけ彼女の声のテンションが上がった。

  気のせいかもしれないけど・・・・・・

 

  俺は、サヤカに暗号の解き方を説明した。


「図仲良く書く室」


  この暗号の『仲良く』という部分に注目するんだ。

  仲良くってのは距離を縮めるだったり、お近づきになるっていう感じだろ?

  だから、仲良くの前後の距離を縮めてやるんだ。

  そうすれば・・・・・・


『図書く室』


  ってことで、この『く』ってのを省いて、図書室ってわけだ。


「その・・・・・・『く』ってどうして省けるの?」

「それはだな・・・・・・」


  ここで、作者の頭が回らなかったなどという訳のわからないことは言えまい。


「それは、多分先生が間違えたんだと思うよ」

「そっか・・・・・・」


  彼女の腑に落ちない、その返事はあえて、ここではスルーしよう。


「行ってみよっか図書室」

「そうだね」


  席を立ち、教室の扉を開ける。

  サヤカも僕にちゃんと着いてきてくれている。

  気のせいか、少しずつだけど俺の目を見て話してくれている気がする。


『お兄ちゃん!』


  完璧で俺のことを溺愛していた『あの』サヤカとは違う。

  でも、ここには確かにサヤカがいて・・・・・・


  俺達は教室を出て図書室へと足を進める。

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一人っ子の俺と三人の妹候補たち ゆうぼう @yuki0086

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