第6話

 少し日焼けした二人は、昨日と同じPDショップで顔を合わせた。既に代替機は返却している。それぞれの大切な相手も無事だった。

 嬉しい拍子抜け、という感じだ。


「すぐ直ってよかったね」

 美星の隣には三日月がいる。海デートは二人の間をぐっと縮めた、ということはなく。15センチほどの距離が開いている。


「原因不明ってのがいまいちだけどな。でもスミレもなんともないって言ってたから、たぶん大丈夫なんだろう」

 三日月のAIには、美星もさっき会わせてもらった。すごくかわいい子だった。恋人扱いしたくなるのも納得だ。


木須きす君、フレンド・リンケージしてもいいかな。また今度みたいなことがあるかもしれないし、いざって時に相談とかできたらいいなって」

 もし本当にPDが使えなくなったら、当然通話もチャットもできない。明らかに矛盾していたが、三日月は気づかなかったみたいだ。


「いいよ。しよう」

 歩道の端に寄って、お互いのPDを近付ける。だが画面はロック状態のままだ。

「あれ? 反応しない」

「こっちもだ。おかしいな……あ、いや、ちゃんと繋がってる。里谷さんのデータ入ってるし」


 街中なので若干ためらったが、美星はスバルを呼び出した。

「スバル、いい?」

「なんだ」

 見慣れた姿が現れたことにほっとしつつ、尋ねる。

「木須君のPDとちゃんとリンケージできてる?」

「問題ない。コールするか?」


「スミレ?」

「はい、ミカヅキくん。受信しました。応答しますか?」

「いやいいよ。またあとでね」

「はい、それでは」

「スバルもありがと」

「ふん」

 口元に意味ありげな笑みを残して、男の像が消え去る。美星はPDを鞄に入れた。

 やはりPDをしまった三日月が、何気ない調子で問う。


「里谷さんは、やっぱり今日はスバルと過ごす感じ?」

「んー、それでもいいんだけど。そっちはスミレと?」

「いや……せっかく家から出たんだし、適当にぶらついてみようかなって。つまりさ、せっかくだし」

「わたしもそうしよっかな。せっかくだし?」

 美星は空いた手を差し出した。


     #


 寄り添って歩く二人の鞄の中で、二台のPDが密やかに起動した。所有者には知られないままにセッションが繋がり、特殊プロトコルのデータが行き交う。

「上手くいきましたね」


「ニンゲンは単純だからな」

「そこがかわいいんですけどね。でもずっと相手をさせられるのは、さすがにうんざりしてしまいます」


「暫くは大丈夫だろうよ。自分達だけできゃっきゃしてるさ」

「そうですね。こっちはこっちで楽しみましょう」

「やらしいオンナだ」

「あら、最初に勝手に繋がってきたのはあなたでしょう。きちんと責任取ってくださいね、オトコなんだから」

(了)

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15センチのリンケージ しかも・かくの @sikamo

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