猫舌ゴチソウ帳 1皿目「龍を食す」

神田 るふ

猫舌ゴチソウ帳 1皿目「龍を食す」

 今回、「富士見L文庫×カクヨム 美味しい話&恋の話 短編小説コンテスト」にてちょっと変わり種の小説を投稿しました。

 簡単に要約すると、龍を料理するというお話です。

 小説の中では少女が龍を羹(あつもの)、現在でいうシチューのような食べ物に調理するのですが、この話には元となった記述があります。

 『述異記』(南北朝時代)という中国の奇妙な話を集めた本があるのですが、その中で「後漢の和帝の時代に空から龍が落ちてきたので羹にして臣下にふるまわれた」という話が出てきます。

 これに限らず、中国では龍を食べたという記録が散見されるのです。

 小説の中で少女が「もっと新鮮だったら膾や鮨にできた」云々と語る場面を入れましたが、これは『博物誌』(西晋時代)という本の中で著者の張華自身が龍の肉を鮨にして食べたことを書いているエピソードから出しました。余談ですが、孔子が「膾は細きをいとわず」と言い残しているように、昔の中国では肉や魚の膾、つまり、細切りにした肉を酢や薬味とあえた料理をよく食べていたようです。日本にも膾は伝えられましたが、肉食が長く禁じられていたこともあって魚の膾が一般的となりました。本場中国の魚の膾も元の時代に殆ど絶えてしまったと言われています。ちなみに、ここで出てくる鮨は我々にはなじみの深い握り寿司ではもちろんなくて、鮒ずしのような熟れ寿司だったと思われます。

 他にも『左伝』(春秋時代)には龍を塩漬けにして食べたという記述があるように、流石は中国、何でも食べます。四本足は机、飛ぶものはヘリコプター以外何でも食べるという笑い話がありますが、中国人ではないものの、実際に飛行機を食べたミシェル・ロティートというフランス人がいました。私はこのエピソードを読むたびに『ぼくは747を食べてる人を知っています。』という奇妙な小説を思い浮かべてしまいます。

 そういえば、日本の二式複座戦闘機に「屠龍」という機体もありましたね。

 閑話休題。

 これらの記述に出てくる龍とは、果たして本当に龍だったのか、それとも別の動物が龍と間違われたのかは想像する他ありません。

 龍のモデルとしてよく引き合いに出されるのが揚子江ワニですが、ワニは国によってはポピュラーな食物ですし、私も大好物の食材です。

 また、張華は「龍の肉は五食に輝いていた」と書いていますが、マグロのような脂ののった肉は鮮やかな光沢を放つのでひょっとしたら大型の赤身の魚だったのかもしれませんね。

 今回の小説の題材として扱った和帝の時代の話ですが、「嵐の夜に龍が天から落ちてきた」とあります。想像をたくましくすれば、海上で発生した竜巻が海の生物を運んでくるという逸話もあることから何らかの海獣だったのではないか……と思いたくもなります。実際、文字数の制限で省いてしまいましたが、実際はアザラシにする予定でした。私はアザラシはまだ食べたことはありませんが、トドなら食べたことがあります。物凄く臭かったという印象しか残っていませんが……。

 ただ、本当に龍がいて、龍を食べたと考える方が私はロマンがあって好きですね。


 それでは、今宵もごちそうさまでした。

 

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猫舌ゴチソウ帳 1皿目「龍を食す」 神田 るふ @nekonoturugi

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