第12話 害蟲3
――同日午前〇時、工条装機ファクトリー本社ビル屋上、ここに数人の人影があった。
全員が虫の姿を模(かたど)ったスーツを着用しており、一列に並んでいる。
その列の正面中央に、同じ格好をした者が一人立っていた。その人物が言葉を発した。
『これより我々害蟲(バグズ)は内海菱(りょう)の所有する装機関連のビルに潜入する。目標は装機に関する情報の押収及び不要な情報の抹消。それらが管理されている管理室の位置は先日のミーティングで説明した通りだ。敵兵戦力は無力化しろとのことだ。多少負傷させるのは構わないが殺してはならない。それでは象虫(ウィービル)、今回の班編成を伝えてくれ』
そういって正面中央にいた人物は横に移動した。
副隊長の象虫(ウィービル)が着用している装甲はまるで本物の象虫(ぞうむし)のようで、銃弾でさえ跳ね返す強度がある。
先程話していた人物もまるで蟷螂(かまきり)のような姿の装甲を着用していた。
正面中央へ歩み出た象虫(ウィービル)は隊長の蟷螂(マンティス)に言われた通り、班編成を発表していく。
『まずA(アルファ)だが、俺と蟷螂(マンティス)。次にB(ブラボー)が蛍(ファイアーフライ)と蝉(シカーダ)と亀虫(スティンクバグ)。そしてC(チャーリー)は蜚蠊(コックローチ)と蜘蛛(スパイダー)と蚊(モスキート)。計八名での作戦だ。Aは一階で敵の足止め、BはAの後方支援、Cが主体で行く』
告げ終わると、象虫(ウィービル)は元の位置へ戻り、蟷螂(マンティス)が前に出てくる。
そして作戦開始の宣言をした
『それでは全員行動開始だ』
蟷螂(マンティス)の合図と共に、害蟲(バグズ)はビルの屋上から一斉に飛んだ。
害蟲(バグズ)が距離のある場所を移動する際は飛行する。というのも、害蟲は虫の容姿・特性を模倣(もほう)しているので、飛べる虫の識別名を持つ者の装甲は飛べる作りになっている。
その仕組みは装甲の背部にある吸気口から空気を取り入れ、その空気を肩部の排気口から放出し、排気口の上部にある羽を上下に動作させることで前進することが出来る。
そして羽の動作する角度を調節することで、上昇・下降、左右への移動が可能になる仕組みだ。
また、飛べない虫の装甲を装着している者は、飛べる虫の装甲の者に運んでもらっている。
この編成の中で飛べないのは蜘蛛(スパイダー)だけだ。
よって体格差のある象虫(ウィービル)にぶら下がっている。
「気分はどうだい? 蚊(モスキート)」
蚊はいつの間にか象虫が並んで飛んでいることに気が付いた。
象虫にぶら下がっていた蜘蛛が話しかけてきたからだ。
『どう、というのは?』
蜘蛛の問いに蚊は頭部装甲を開かずに答えた。
蜘蛛は苦笑した。自分が尋ねた問いの意味が、蚊にとっては解りづらいと気付かされたからだったのか、あるいは単にはぐらかされたかのどちらかだ。
蜘蛛はもう少し分かり易(やす)い問い方に変えた。
「二度も現知事を苦しめることになってどういう気分か、ということなのだが」
蚊は「なんだそういうことか」とでもいうように、一度顔を正面に向けて、再度蜘蛛へ顔を向ける。
『一言で言えば複雑です。いろいろと思うところはありますが、今まで隠してきたことがこうして害蟲(われわれ)に潰されるのですから』
蚊の答えに蜘蛛は満足げに頷いた。
蜘蛛の満足の理由は、蚊の返答そのものではなかった。潰されそうではなく、潰されると言ったことに対してだった。
「どの道、知事の地位は今日までってことだ」
そこに蜚蠊(コックローチ)が蚊の反対側から会話に混ざった。
「確かにそうだな。こうして我々が出動したことによって、明日は現知事の退任宣言が聞けるだろうな」
そこに今までただ傍観していただけの象虫までもが加わって来た。
「それは楽しみだぜ! 明日俺らで映像観ながら打ち上げでもするか!」
「そりゃいい! 派手に盛り上げようぜ!」
「てめぇは臭いから除外な亀虫(かめむし)」
更に蝉(シカーダ)と亀虫(スティンクバグ)、蛍(ファイアーフライ)も混ざって来た。
「何だとお前ら! 人のことを臭い臭い言いやがって!」
亀虫が蛍に言われたことに対して反発した。
「お前らって、俺今回はいってないぞ!」
「今回はを強調して言ってもいつもは言ってると認めんだなこんちきしょう!」
蝉の誤解だという発言に対しても亀虫は反発した。
「だって仕方ないでしょ。君か・め・む・し・なんだから」
そこに蛍が理由を述べる。
「亀虫だからって俺が臭いとは限らねぇだろうが!」
「だって亀虫が臭いのは事実じゃん?」
「事実じゃねぇよ! 亀虫が臭いのは事実だけど俺は臭くねぇよ!」
亀虫と蛍の言い合いが続く。
そこに蝉がそういえばと話しを切り出した。
「俺っち昨日、トレーニング終わったあとに亀虫が臭い消しのスプレー使ってたの見たわ」
「そりゃ汗かけば誰でも使うだろ! 昨日お前だって貸してくれって、使ってただろうが!」
「それはだよ、亀虫の臭いが消えるならさぞいいスプレーなのだろうとだな!」
「だから俺は臭くねぇって言ってんだろうが‼」
この三人(トリオ)はよくこうやって言い争いをするが三人の他に同期はおらず、同じ隊に所属していることもあって、じゃれ合っているうちに漫才をするようになった。
「全く、蝉はうるせぇし亀虫は臭いし、大変だな蛍も」
蜚蠊が蛍に同情して言った。
蛍としては、楽しんでやっていることなので別に同情される意味が理解出来ないでいる。
「てめぇまで俺を馬鹿にするかこのGが!」
「人にうるさいとかいうんじゃねぇよこの全人類からの嫌われ者!」
蜚蠊が言ったことに蝉と亀虫が憤怒する。
すると蜚蠊が拳をつくり宙に突き出して言った。
「お前達は言っちゃあ行けないことを言ってしまったようだな。それらの言葉は俺の前では禁句だろうが!」
今度は蜚蠊が二人に対し激怒した。
「やんのかぁコラぁ」
「その拳は宣戦布告ととっていいなコラぁ」
「上等だ。今ここで実力差見せつけてやろうかゴミ虫共」
蛍は「ゴミ虫はお前だ」と蜚蠊に言ってやりたかったが、それを言えば自分も巻き込まれるのが予測出来たので口にはしなかった。
「そこまでだ」
この言い争いを止めたのは部隊長である蟷螂だ。
蜚蠊と蝉、亀虫は食ってかかろうとしたが、蟷螂の目が「これ以上するなら自分が相手になってやろう」と語っていたので三人は大人しく黙り込んだ。
それほどまでに、部隊長蟷螂(マンティス)の実力は高いということだ。
蟷螂は続けて告げる。
「もう少しで目標の建物だ。全員気を引き締めろ。お遊戯はここまでだ」
蟷螂の発言で、先程まで大声を張り上げていた三人でさえ、雰囲気でも分かるほどに集中していた。
蟷螂の影響力も相当なものだ。
隊全体が集中していることを確認し、蟷螂は次の指示を出した。
「ここからは二つの侵入経路に別れる。A(アルファ)とB(ブラボー)は一階の出入り口から、C(チャーリー)は屋上からだ。Aは敵戦力の無力化後一階で待機、Bは一階の敵を無力化した後二階から目標までの階の敵を無力化、Cは目標まで蜘蛛と蜚蠊が蚊の支援及び蚊の護衛だ。命を賭して守れ」
「「「Yes,mom」」」
全員の返答の後、蟷螂は通信を始めた。
「HQ。こちら蟷螂、これより作戦行動に入る」
『こちらHQ。緊急の連絡があります。隊員全員回線を繋いで下さい』
作戦本部からの指示を受け、蟷螂が隊全体に回線を繋ぐように指示を出す。
そして全員が繋ぎ終えたことを確認し、
「全員繋いだ」
『突然ですが、敵戦力に変化があります。事前に伝えていた内容では内海氏の所有会社が契約している護衛部隊だったのですが、今回のことでプロの殺し屋集団を雇いました。戦闘に死傷者が出る可能性を考え、武器の使用が許可されました』
「つまり、ドンパチやっていいってことだな?」
誰かが作戦本部に確認した。
『はい、構いません。こちらからは以上です』
そう言って作戦本部からの回線は切れた。
「聞いての通りだ。作戦を少し変更する」
蟷螂の言おうとしていることに、過激な思考の持ち主達がうずうずしている。
蟷螂は構わず続けて告げる。
「敵戦力の無力化を、敵戦力の殲滅に変更する。だが、そのリーダー各となっている人物は生かして捕らえろ。死なない程度の負傷ならさせても構わない」
蟷螂の発言後、蟷螂と象虫を除き全員の顔が笑っていた。ただ蚊だけはその表情が見えないが、恐らく笑っていないのだろう。
そんな予想を余所(よそ)に、AとBは一階へと降りて行く。
象虫が降りて行くので、蜘蛛は蜚蠊にぶら下がった。
「それじゃあ俺達も行きますか、相棒」
蚊に向かって微笑んだ蜘蛛の発言により、蚊と蜚蠊は上昇して屋上へ向かった。
装機の桃源郷(ロイド・アルカディア) 天宮城スバル @mairu
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