今日は病室を覗いた瞬間目が合った。昨日のようにいきなり襲いかかってはこなかったが、やはり病的な目つきをしている。

「よう、なにしてたんだよ?」

「そんなことより誠、お菓子は?!」

 どうやらそうとう待ちわびているようだ。早く薬が必要なようだし、俺は買い物袋を持ち上げて見せ、早速食堂へ連れて行くことにした。

「食パン……はっ!! フルーツサンド?!」

 その手があったか!!

 フルーツだったら普通に病室でもカットできる。ホイップなんて絞り器に入ってる出来合いのものを使えばいい。コストはかかるが病院という環境にはピッタリな品ができる。

 それだけに、不正解を告げるのは心が痛む。

「すまん。残念ながらフルーツサンドじゃないだ。そんなの考えもしなかった」

「是非もなし……」

 意味をわかっているのかいないのか。ウェンディはたまに変な日本語を使う。たぶん典型的な日本かぶれである両親のせいだ。『おふくろ』や『おやじ』呼びもその弊害だな。

 ともかく。たいして手間のかかるおやつではないので、トースト時間込みでも二分もかからずできあがった。まるでファストフードだ。

「ピーナッツチョコトースト?」

 なんでこんなものを? ウェンディはあからさまにそんな顔をした。そして次に、なにかに気づいたように不思議そうな顔をした。

「コーヒー?」

 隠し味で入れたのにあっさりと見破りやがった。いや嗅ぎ分けた?

 ウェンディの常人離れした食通さに呆れつつ、トーストを皿に移してウェンディの前にサーブしてやる。

 あ、そうだ。せっかくだからこれを言っておこう。

「さあ召し上がれー」

「いただきまーす」

 手を合わせて満面の笑みを浮かべたウェンディは、楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうな顔をしていた。そしてそれは、瞬きすることすらもったいないと思えるほど、綺麗だった。

 そんな英系美人幼馴染の口から白いモノが伸びる。

「ふぉお!? なんじゃこりゃあっ!?」

 それはまるでとろけるチーズの如し。

「ふふふ。求肥だよ。見栄えとサプライズのために、厚切り食パンの中に仕込んでおいたんだ」

「おお、なるほど! 加熱することによってもちもちをとろとろにして、チーズの食感を演出したのね! ピーナッツ、チョコレート、餅。それぞれの甘さが見事に調和して深いコクがある! そして、これをただ甘いだけにしないのが、このコーヒーパウダーね! ほろ苦からの甘々へ移りゆくグラデーションのおかげで何口食べても飽きがこない!」

 マジかー。俺はただの香付けのつもりだったんだけど……、まあ、ウェンディが喜んでるからいいか。

「うーん! これこれ! コンビニやスーパーのじゃ得られないしっかりとした味! 甘い! そして濃い! さらに香高い! あたしはまさにこういうのが食べたかったのよ!」

 俺はそれに反応はできたけれど避けられなかった。

 ウェンディは喝采を上げると同時に襲――、抱きついてきた。おお、すっげえ弾力!!

「ねえ誠。お願いがあるの」

 耳元で囁くその声は妙に色っぽくて、俺は自分の顔が一瞬で熱くなるのを感じた。

「いつか、あたしのために毎朝味噌汁を作って」

「え、嫌だよ」

 やべぇ。思わず低い声が出た。あとこの言い方だと誤解されるな。それは大変よろしくないので、俺はウェンディの細い腰に腕をまわして続けた。

「味噌汁はお前が作ってくれ。そしたら、たまには俺が、今日みたいになんかうまいもんを作るよ」

 言った直後に、俺の勘違いだったらどうしよう、などと不安になったが、どうやら勘違いではなかったらしい。その答えとして、ウェンディはこう言ってくれた。

「うん。それでいいわ。そうさせて。それと――」

 ウェンディの能満な胸がさらに圧力を加えてくる。

「ごちそうさま……いいえ」

 熱い息が俺の唇を撫でた。

「いただきます」

 俺がなにかを言う前に、ウェンディがその口を塞いだ。


   終わり

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キスはおやつのあとに うぱるーぱ @onyx

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