3
今日は病室を覗いた瞬間目が合った。昨日のようにいきなり襲いかかってはこなかったが、やはり病的な目つきをしている。
「よう、なにしてたんだよ?」
「そんなことより誠、お菓子は?!」
どうやらそうとう待ちわびているようだ。早く薬が必要なようだし、俺は買い物袋を持ち上げて見せ、早速食堂へ連れて行くことにした。
「食パン……はっ!! フルーツサンド?!」
その手があったか!!
フルーツだったら普通に病室でもカットできる。ホイップなんて絞り器に入ってる出来合いのものを使えばいい。コストはかかるが病院という環境にはピッタリな品ができる。
それだけに、不正解を告げるのは心が痛む。
「すまん。残念ながらフルーツサンドじゃないだ。そんなの考えもしなかった」
「是非もなし……」
意味をわかっているのかいないのか。ウェンディはたまに変な日本語を使う。たぶん典型的な日本かぶれである両親のせいだ。『おふくろ』や『おやじ』呼びもその弊害だな。
ともかく。たいして手間のかかるおやつではないので、トースト時間込みでも二分もかからずできあがった。まるでファストフードだ。
「ピーナッツチョコトースト?」
なんでこんなものを? ウェンディはあからさまにそんな顔をした。そして次に、なにかに気づいたように不思議そうな顔をした。
「コーヒー?」
隠し味で入れたのにあっさりと見破りやがった。いや嗅ぎ分けた?
ウェンディの常人離れした食通さに呆れつつ、トーストを皿に移してウェンディの前にサーブしてやる。
あ、そうだ。せっかくだからこれを言っておこう。
「さあ召し上がれー」
「いただきまーす」
手を合わせて満面の笑みを浮かべたウェンディは、楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうな顔をしていた。そしてそれは、瞬きすることすらもったいないと思えるほど、綺麗だった。
そんな英系美人幼馴染の口から白いモノが伸びる。
「ふぉお!? なんじゃこりゃあっ!?」
それはまるでとろけるチーズの如し。
「ふふふ。求肥だよ。見栄えとサプライズのために、厚切り食パンの中に仕込んでおいたんだ」
「おお、なるほど! 加熱することによってもちもちをとろとろにして、チーズの食感を演出したのね! ピーナッツ、チョコレート、餅。それぞれの甘さが見事に調和して深いコクがある! そして、これをただ甘いだけにしないのが、このコーヒーパウダーね! ほろ苦からの甘々へ移りゆくグラデーションのおかげで何口食べても飽きがこない!」
マジかー。俺はただの香付けのつもりだったんだけど……、まあ、ウェンディが喜んでるからいいか。
「うーん! これこれ! コンビニやスーパーのじゃ得られないしっかりとした味! 甘い! そして濃い! さらに香高い! あたしはまさにこういうのが食べたかったのよ!」
俺はそれに反応はできたけれど避けられなかった。
ウェンディは喝采を上げると同時に襲――、抱きついてきた。おお、すっげえ弾力!!
「ねえ誠。お願いがあるの」
耳元で囁くその声は妙に色っぽくて、俺は自分の顔が一瞬で熱くなるのを感じた。
「いつか、あたしのために毎朝味噌汁を作って」
「え、嫌だよ」
やべぇ。思わず低い声が出た。あとこの言い方だと誤解されるな。それは大変よろしくないので、俺はウェンディの細い腰に腕をまわして続けた。
「味噌汁はお前が作ってくれ。そしたら、たまには俺が、今日みたいになんかうまいもんを作るよ」
言った直後に、俺の勘違いだったらどうしよう、などと不安になったが、どうやら勘違いではなかったらしい。その答えとして、ウェンディはこう言ってくれた。
「うん。それでいいわ。そうさせて。それと――」
ウェンディの能満な胸がさらに圧力を加えてくる。
「ごちそうさま……いいえ」
熱い息が俺の唇を撫でた。
「いただきます」
俺がなにかを言う前に、ウェンディがその口を塞いだ。
終わり
キスはおやつのあとに うぱるーぱ @onyx
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