君の笑顔と本当の心

『ヒャッハー!魔王である我が現世に蘇ったぞ!フハハハッ、この世界を赤く染め上げてやるわ!!!まずは、この矮小な町を―――』




こうしてイラハンの町で、最初の勇者()の伝説が刻まれた。

監督・脚本・主演男優はレオさん、助演男優・小説執筆は僕という役割分担だ。

二人の絶妙なコンビネーションが世界を震わせる、新本格ミステリーならぬ新本格ファンタジーの開幕。

この町の住民は、観客として前代未聞の事件に遭遇し、圧倒的な衝撃を受けたことだろう。

フッ、僕は今現在とある場所で小説を執筆しているのだが、あの出来事を思い出すだけで体中に火を灯す勢いだ。興奮が何時まで経っても冷めない。

こんな気分は何年ぶりだろうか?僕に宿る魔族の血が本当に目覚めてしまったんではないかと不安に思うぐらいだ。

ふぅ…興奮のあまり執筆が思うようにいかない。筆が乗らないといった感じだ。

ヤレヤレ…これじゃレオさんに怒られてしまうじゃないか。これが『生みの苦しみ』か…。

さて、そろそろいいかな?

前振りは十分だと思うけど、どうだろう?

では、いくよ?

『第一回、勇者と魔王の茶番劇』の感想のお時間だ!


「ふざけんなあああああ!!!」

おっと、僕としたことが感情的になりすぎてしまった。ここはまず落ち着いて―――。

「エイドリアアアアアン!!!」

しまった……また感情が先行して大声を出してしまった。マジで少し大人しくしないと。

いやいや本当、皆さん聞いて下さいよ。マジで!本当に本当に聞いて下さい、お願いしますから。

なんかもう、何でしょうね…この扱いの酷さ!涙すら出てこない程に悲惨ですよ!

『勇者』としてレオさんが、『魔王』をやらされている僕に向かって全力の攻撃ですよ!考えられます!?薄々そんな気はしてましたよ?してましたけど、本当にしてきますかね!?リアルを追求とか臨場感を出すとか意味不明なことレオさん言ってましたけど、本物の勇者と魔王の争いじゃなくて、あくまで茶番であってお芝居なんですよ!偽りの勇者と偽りの魔王の茶番劇でしかないんです!なのにも関わらず、そんなどうでもいい所だけこだわり持ちやがって!僕の体が今どんな状態か分かります?全身アザだらけですよ!!!傷はもちろん色んな箇所が内出血のオンパレード…アザやら傷やらのおかげで魔族っぽくなれて良かったね、ってアホか!!!誰得だよ!!!怪我で全身包帯グルグル状態だから、ちょっとミイラっぽいね…って、五月蝿いわ!!!

僕って何のためにここにいるのでしょう?完全にレオさんに騙された気がするのですが。

今だって、勇者にボコボコにされて監禁されている体で、豚小屋みたいな場所に閉じ込められてるし!ここ何処!?ねぇ、なんで僕はこんな処遇なの!?ねぇ、なんで……。

レオさんは町を危機から救った勇者として、手厚い歓迎をされている最中ですって…。

何、この差は?僕だって頑張ったのに…。いや、僕は決してレオさんと同じような歓迎を受けたいとは言いませんよ?

そこまで図々しくはないんです。ですが、ですが…もう少し何かあったんじゃないかと思うんです。違う選択と別の答えが……。僕何かおかしなこと言ってますかね?正常の感覚と感性を持った人なら理解してくれると思うのですが…そう信じるしかないとも言えますけど。

と、とにかく!こんな悲惨で不憫な扱いに僕は凄く遺憾です。

帝都で流行っているらしい『おこ』という単語なんて、僕からしたら生易しい―――否、生温いんです!もう沸騰しているんです!沸騰しすぎて全身の血が蒸発してしまうほど。


「そのまま存在も蒸発して消えてしまえ!」


謎の言葉に横槍を入れられ、ビクッと体を震わせしまう。

「えっ、何々!?」

空気が急激に冷めていく。謎の恐怖と不安感に駆られ、声のする方へ目線を向けると。


物凄い笑顔でこちらを見ているレオさんが立っていた。


「あっ…」

自分の世界に入りすぎたことに今更ながら気付く。

思っていた以上に深みにはまっていたらしい…小屋の扉が開く音なんて全く耳に入ってこなかった。

「で、言いたいことは終わったか?」

そんなレオさんの言葉に心臓が止まりそうになる。

えっ、ま、まさか…今の聞かれてた…?

「あ、ああの…な、何の、ことでしょうか……?」

咄嗟に僕はシラを切る。完全にレオさんに聞かれているとは限らない訳で、レオさんの得意としている誘導尋問かもしれない。

「(……)」

レオさんは何も言わない。

怖い!余計に怖いよ!!!しかも今もまだ超絶笑顔だし!!!

「えっ、と…あの…?」


「臨死体験って興味あるか?」


「申し訳ありませんでしたあああああ!!!」

聞かれている聞かれていないとか、もう関係無い。理由がなんであれ、謝罪しか僕の手札には存在しない。只でさえボロ雑巾みたいになっているのに、余計にズタボロにされては本当に死んでしまう…オーバーキル状態だ。こんな残念極まりない人生でも僕はまだ死にたくはない。

「すいませんすいませんすいません。本当にごめんなさいです!僕みたいなゴミ以下の価値しかない存在が、好き勝手口を開いてしまって申し訳ないとしか言えません!」

レオさんと目を合わせることが出来ず、ずっと目を瞑ったまま土下座して謝罪する。

死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。

すると―――。


「何をそんなに怖がっているんだ?俺はお前の様子を見に来ただけなんだが」

えっ…あれ…?

「俺が怒っているように見えたんなら謝るよ。日頃の行いが良くないからな、誤解されても仕方がない」

あれあれ?これは……?

「ちょっとハシャぎ過ぎたのは否めないから、お前にも色々思うことがあるだろう。それは尊重しようじゃないか、これからの英雄譚の参考にさせてもらう」

レ、レオさん…あなたは……。

「こんな小汚くて狭い場所に一人でいるのは大変だろうけど、明日の朝にはこの町を出る予定だ。だからそれまで申し訳ないが我慢してはもらえないか?」

あなたって人は……。

「このぐらいで心が折れるような安くて弱いお前じゃないだろ?だから―――」


「お前を信じているぞ」


「これからも精進しますううう!!!僕…僕頑張りますから!!!」

何だかんだでレオさんは、僕を心配してくれていることに心が癒され救われた。

この程度で愚痴をこぼすとか僕もまだまだだな…。ツンデレってこういうことなんだな…もうレオさんは素直じゃないなぁ!




「ホント簡単で助かるよ。バカの感情を掬い上げるのは楽でいい」


初歩的なツンデレに浮かれていた僕は、レオさんの発言を最後まで聞くことは出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偽る君は嘘吐きな僕と 緋月 @bibby0824

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ