創造する物語

「さて、タラタラ歩いて来たはいいが……ここは何処だ?」


僕の故郷であるソフィアンテの村から、北西へ丸一日程歩いてきた結果がこれだ。

完全に迷子コース直行なんですけどっ!?

レオさんが持っていた地図があるのだが、物凄いザックリとした内容になっていたので、大して役に立たなかったのが主な原因である。

「読み解くのではなく、感じるんだ!」

レオさんのこの台詞に感化され、馬鹿みたいに付いて行った僕にも非はある。

しかし元凶のレオさんには、悪びれる仕草が一ミリも無いのは如何なものだろう。

なんなら「お前の勘は当てに出来ないな」って言ってくる始末―――ホントこの人の神経はどうなっているのだろう。凡人の僕には理解不能だ。

「あぁ…暇だな。おい、俺の退屈を凌げ!」

ムチャ振りにも程があった。

「えっ!いや、急に言われても」

「どうせ考える時間を与えたって大したこと出来ねぇだろうが!なら急でも何も変わらないと思わないか?」

「それは確かにそうですけど……」

「だろ?なら早くやれ!」

しまった!やる方向で話が進んでしまった!この人の誘導尋問は自然すぎて分からないよ。

「ほら、どうした!所有主がお待ちだぞ?」

煽らないで!僕のハートはそんな強くないですよ!?会話が得意な訳でもない僕が、そんな要求に簡単に応えられる訳―――。

「三、二、一……」

カウントダウンだと!?

「あぁ!ちょっと待って待って!!!」

相変わらず容赦がなさすぎる。

「じ、じゃあ!『朝が四本、昼が二本、夜が三本、これなんだ?』」

有名にも程があるが、僕にはこれぐらいしか提供出来ないのが現実である。

噺家ではなく只の子供な訳で、知識も大してない妄想空想が好きなだけだ。

そんな僕を知ってか知らずか、レオさんは無表情で答える。

「俺が見事正解したってことにして、答えを教えろ!」

みなさーん、ここにクズがいますよー!

とんだ大人だ、真似出来ないスケールでクズだ…。答える努力ぐらいしましょうよ…。

「…もういいです」

「なんだ、もう終わりか?」

いやいや…僕に付き合う気がないのに、これ以上求められても。

「なら…『空の星々』とかけて『親に説教される子供』と解く、その心は?」

ムチャ振りの割には中々の謎かけが出来たんじゃない?僕頑張ったよ!

「…俺が正解したら一千万寄越せ。それでも良いか?」

「いやいや!割に合わないですよっ!?」

何故こんな暇潰しの謎かけで金銭が動くんですか!エグすぎる…。

「…どうする?」

ヤバい…この人本当に要求してきそうだ…。

「なら、ナシの方向で…」

「ふんっ、お前の暇潰しをアテにした俺が間違いだった」

自分は答えない癖に責任を全て僕に押し付けただと!?なんていう理不尽…まぁ今に始まったことじゃないんだけど…。


そんな不毛な会話を続けながら歩いていると、前方に町らしい風景が広がってきた。

「レオさん、町に着いたみたいですよ!」

「見れば分かる。で、あの町は?」

「レオさんの地図を参考にすると…あれは『イラハンの町』ですかね?」

「ふーん、見れば見るほど田舎だな。なら好都合だ、あの町で最初の英雄譚を創るぞ」

「…本当にやるんですか?」

「内臓の必要な部位を腹から引きずり出すぞ?」

「ヤッホー、英雄譚タノシミダナー」

僕に選択権なんて無かった。


ここイラハンの町は、僕の故郷と同じような人口の小さな町。

老人が大半で後は若い女性がチラホラと…働き手である青年達は平民からしたら高収入である帝国軍の軍人に憧れて町を離れたのが主な原因である。

そんな心地良い静けさが漂うこの町で事件が起きる。

と言っても、その事件は予定調和の茶番劇というオチがあるのだが―――起きる事件ではなく、起こす事件という訳だ。なんとも罪悪感が残る作戦なんだろうか。

そんな不安を抱えた僕とは違い、偽りの勇者レオさんは何食わぬ顔で作戦の内容を語り出す。


「さて、まず最初の俺の英雄譚はこの町で創ろうと思う。反対意見は見事作戦が終わってから聞くことにする」

最初から異論は受け付けてなかった。

「配役は勿論、俺が勇者でお前が魔王。『現代に蘇りし魔王は、魔力を蓄えるため人間の生気を糧にしている。そんな魔王の前に颯爽と登場し、勇敢にもその蛮行を食い止める勇者』…まぁこんな感じだ」

「…はぁ」

言葉にならない。こんな感じと言われても、僕にはレオさんにボコボコにされる未来しか見えない。クーリングオフ出来ないかな…。

「おい、助演男優なんだからもっとやる気を出せ!」

「そう言われても…」

「『木の役』ってのもあるんだが、そっちの方がいいか?枯れ木の如く全身をバキバキに砕いて―――」


「さぁ、レオさん!急いでこの町に伝説を刻み込みましょう!!!」

僕の体に刻み込まれるのは全力で阻止したいお年頃なのだ…。ごめんなさい、町の人達…。

そして―――。




『ヒャッハー!魔王である我が現世に蘇ったぞ!フハハハッ、この世界を赤く染め上げてやるわ!!!まずは、この矮小な町を―――』


もう死にたい……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る