恋愛地雷 on ザわーるど

ちびまるフォイ

地雷回避スキルSSS vs 地雷設置スキルSSS

街にはたくさんの地雷が埋めてあり、足の踏み場もなかった。


「よっ。よっ。ほっ」


「お前、よく器用に地雷かわせるよな。大変じゃないか?」


「地雷踏んでトラブルに巻き込まれるよりはずっと楽さ」


「踏んだ地雷が恋愛地雷だったら悪くないと思うけど」


「恋愛ごときに時間を取られるなんてまっぴらだ」


俺は地雷をかわしながら学校へ行く。

地雷を踏みさえしなければ俺の日常は平穏そのものなのだから。


地雷の埋め方には個性が出る。


相手に気付かれないように設置される地雷。

これは借金地雷とか、そういうあくどいトラブル。


見やすい地雷は恋愛地雷や友達地雷が多い。

寂しい人間がお互いに踏み抜きあって人恋しさをごまかす。


「まったく、地雷のある日常なんてめんどくさいことこの上ないよ」


俺は自分の人生を、自分のためだけに使いたいんだ。

地雷で巻き込まれる波乱万丈なんて求めていない。


俺が地雷さえ踏まなければ、トラブルなんて起きないはずなんだ。


「転校生を紹介するぞ。クラウス・フォンドルフ・ビショウジョ2世ちゃんだ」

「みなさん、ごきげんよう」


担任の先生が転校生地雷を踏んだことで、クラスに金髪の少女が転校してきた。


まぁ、俺には関係ない。

地雷さえ踏まなければ、俺の人生は平穏そのもののはず。


「席は俺君の隣な」

「はい」


クラウスは席につくと、横にいる俺に笑いかけた。



「あなたの地雷、ふんじゃった」



「えっ!?」


「校庭に埋めてあったでしょ? 今日、学校来るときにふんじゃったの」


なんだ。なんの地雷を埋めたんだ。


焦って過去をさかのぼること数秒。

まだ小さいころにふざけて埋めた恋愛地雷を思い出した。


「しまった!! 地雷撤去してなかった!!!」


埋めたことすら忘れていた地雷を今になって踏まれるなんて。


「私、あなたのことが好き。付き合って」


「お断りだ!!!」


俺は逃げ出して友人に助けを求めた。



「話を聞く限り、付き合っちゃえば解決するんじゃないか?」


「絶対にいやだ。付き合ったらどうなるか想像してみろ。

 誕生日にはプレゼントを買わされ、休日にはデートをさせられ……」


「楽しそうじゃん」


「ゲームの時間がなくなるだろうが!!!!」


「うわぁ……」


「俺は自分の人生を自分だけのために生きたいんだ!

 ゴーイングマイウェイ! 他人にかき乱されたくない!」


「おまえ……自分好きすぎるだろ……」


友人に話してもなんら解決しなかったのでそっと教室に戻ることに。

イスには見慣れない座布団が置いてあったので、慌てて尻を浮かせた。


「な、なんだこの座布団……さっきまではなかったぞ」


座布団をよけると下にはクラウスの恋愛地雷が仕掛けてあった。

こいつ、俺の席に地雷を仕掛けるなんて。


「ねぇ、早く私のことを好きになってよ」


「俺は自分の人生を生きたいんだぁ!!」


その日は1日中そんな調子でクラウスに振り回されるばかりだった。


彼女はどこにでも恋愛地雷を仕掛けてくるので、

うっかり踏まないように神経をとぎすませる必要がある。


「あいつは一流の地雷職人だ……。仕掛け方がプロ犯行だ……。

 いままでどれだけの男に恋愛地雷を踏ませたのかわからない」


「深刻っぽく話してるけどさ、女の子にアプローチされて悪い気はしないけどな」


「とにかく、これで家に帰れる……。もう疲れた……ちょっとトイレ寄る」


トイレの個室に入って、腰を沈ませた。

ここが唯一安心できる俺だけのセーフティゾーン。



――カチッ。



嫌な音が聞こえた。


首を限界までまげて見ると、便座には極薄の地雷が仕掛けてある。


「うそだろ……!?」


こんなことができるのは1人しかいない。

最後の最後で、恋愛地雷を踏んでしまうなんて。


「おい、トイレ長すぎだろ。なにしてんだ?」


「助けてくれ!! 地雷を踏んで動けないんだ!!」


「わ、わかった。待ってろ!」


友人は俺を置いてどこかへ行ってしまった。

個室に残された俺はもうここから一歩も動けない。



「ど、どうする……腰を上げれば恋愛地雷が起爆してしまう。

 そうなれば、俺はクラウスの恋愛奴隷になってしまう。そんなのは嫌だ……」


しかも、この態勢だからいくら器用な俺でも地雷解除は難しい。


どれだけ時間がたっただろうか。

ひとり残された俺はふと友人の言葉を思い出した。



"おまえ……自分好きすぎるだろ……"



「そうだ!! 自分で自分の地雷を踏めばいいんだ!!」


クラウスの恋愛地雷で好きになったとしても、

その直後に自分の恋愛地雷を踏めば上書きされるに違いない。


俺の平穏な日常は保たれる。


「よ、よし。地雷をセットしようっ」


座りながら腰を浮かせない無理な態勢で、時間をかけながら地雷をセット。

確実に上書きできるように、強力な恋愛地雷をしかけておいた。


「これでよし。さぁいくぞ」


おそるおそる腰を浮かせようとしたそのとき。

向かいから、ハゲで小太りのおじさんを連れた友人が戻って来た。



「お待たせ! 地雷解除の専門家を連れてきたよ!」




「よせ! よせ!! 来るなぁぁぁぁ!!!!」



おじさんはキレイに俺の仕掛けた地雷を踏み抜いた。

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