第8話 誕生日プレゼント

 和美さんへの誕生日プレゼント。

「特別なプレゼントはいらないよ」

 君はそう言ってくれるけど、僕の気がそうさせてくれない。


 だからせめてどら焼きやケーキとか何かできないかなと画策する。

 いつも甘味はどら焼きだから、そこにケーキも用意したらちょっと多いよね。

 いつも迷う。

 どら焼きにロウソクを立てるわけにもいかない。

 一度、和美さんのいない所で試してみたことがある。大きなどら焼きにロウソクを立てて火をつけてみた。ちょっとシュール。

 世の中にはどら焼きキャンドルなるものもあるらしい。どら焼き好きの人はどこまでもどら焼きが好きなんだなぁと思う。

 よくよく見るとお供え物……、うん。これは無しにしよう。


 結局迷って小っちゃいケーキと、和菓子屋さんのどら焼きを買って帰る。

 そして君は笑って両方ペロリと食べきっちゃうんだ。

「別にいいのに」

 そう言ってるけど、ちょっと嬉しそう。

 そう見えるのは僕の願望なのかな。



 今度は僕の誕生日。

「特別なものはいらないよ」

 和美さんの真似をして同じことを言ってみる。

 そう言うとちょっと口を尖らせてた。

 僕も同じ顔をしていたのかな?


 会社から帰ってきたらご馳走が待っていた。

「別にいいのに」

 そう言いながらも僕の口元は緩い。

 和美さんの手料理は絶品。

 こんなにいっぱい、ありがとうね。

 僕はお腹満腹になって、目がとろんとしてくる。

 いけない、いけない。

 慌ててカバンからどら焼きを取り出す。

 僕の誕生日でもこれだけは譲れない。


「今日は半分こね」

 君は僕の渡したどら焼きを半分に割って僕にくれる。

 誕生日プレゼントかな?

 僕は君からどら焼きを貰うけど、君はちょっと物足りなさそう。

「食べないの?」

 なんだかじっと見つめられてると食べにくいなぁ。

 僕はどら焼きを食べている。

 それを笑って君が見ている。

 どら焼きを食べ終わると

「誕生日プレゼント」

 そう言って手袋を渡してくれた。

「ありがとう。でも、ずるいなぁ」

 僕がちょっと口を尖らせたけど、君はそんなのお構いなし。

 

 好きな人からのプレゼントはやっぱ嬉しい。

 君はプレゼントでズルしたね。

 だからどら焼きを買うのは譲らないよ。

 僕はそう思いながら手袋をはめていた。

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どら焼きのある生活 空音ココロ @HeartSatellite

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