今を生きる ③ ※
「ん、はっ……けい、し、さんっ!」
「貴巳、平気?」
延ばされた手を繋ぎながら、啓司は貴巳をうかがう。
明日は貴巳が休みだからと、貴巳を組み敷いたのは啓司だが。
熱に浮かされながら、自分を呼んでくれる貴巳が愛おしいと、改めて啓司は思う。
「ん。平気、だから……」
愛おしいと、その熱に触れたいと、時折こうして貴巳を組み敷いてしまう。
それは貴巳も同じ様で。
啓司が次の日が休みだと、貴巳も啓司を組み敷いてくる時が有る。
だから、その想いは同じなのだと。
時に確認するかの様に。
熱を分かち合って、互いに高め合って。
こうしている時は、本当に一つになれた様で。
だから互いに互いの熱を欲しがる。
「ん、はっ……も、イく、から。ダメ……」
そんな貴巳を見下ろして、愛おしいと瞳に乗せて。
「僕も、だからね。一緒に、ね」
優しく言いながらも、揺さぶる力は強く。
ギシリと鳴るベッドが、激しさを表している様でもあった。
啓司はこんなにも他人を欲する気持ちが有るのだと、貴巳に出会ってわかった。
貴巳も他人に触れたい、触れて欲しいと思う感情が有る事を、啓司に出会って知った。
だから、互いに確かめ合う。
知ってしまえば、お互い離れられなくなる。
けれどそれで良かった。
お互いに必要な相手が、お互いだっただけ。だから、その他の他人は必要無いとは言わないけれど。
もう啓司も貴巳も、お互い以外を必要じゃ無いとは、言わなくなった。
自分だけの世界ではなく、他人もいるから世界が成り立つのだと。
世界は生命が満ちているのだと。わかったから。知ったから。
唯一は有るけれど、その他大勢も必要なのだと。
「はぁ……はぁ……」
まるで全力疾走した後の様に、啓司も貴巳も息荒く、ベッドに二人して寝ころんでいる。
「ごめんね。久々だったから、加減が出来なかった」
受ける側の負担を知っているからこその啓司の言葉。
「ん。俺は明日休みだから、平気。啓司さんはそろそろ休まなきゃ、明日辛くなるよ」
貴巳を腕に抱いたまま、啓司は髪を梳く様に、貴巳の頭をなでている。
「そうだね。でも、お風呂入らないと。貴巳の中に出しちゃったから」
綺麗にしないと、と啓司は言う。
汗もかいてるし、風呂に入るのは異存は無いのだが。
「じ、自分でするから。啓司さん先に入ってきて!」
慌てた貴巳は啓司に強い口調で言う。
ここで流されたら、風呂場でとても恥ずかしい事になるのだ。と貴巳は必至だ。
「まぁ、僕もそうだし。やっぱり、されたくない?」
後始末。ポツリと啓司は呟く。
自分はされたくないのに、貴巳にはしたいと思うのは、貴巳の世話を焼きたいと啓司が思うからだ。
「啓司さんだって、されたくないっていつも言うじゃないか。俺だって、されたくないって理由わかるだろ?」
俺だって、本当は啓司の世話を焼きたいのだと、貴巳は思っている。
それでもさせてくれないのは啓司で。それなのに、自分はさせろという啓司を、ひたと強い瞳で睨みつける。
「うん。そうだね、ごめん。先に入るよ。貴巳が入ってる間に、シーツ変えておくから」
名残惜しいとでも言う様に、さらりと啓司の指が貴巳の体を撫でてから離れた。
※
雨は降り続ける
大地はただただ その雨を受け入れ続ける
恵みの雨は
静かに 静かに
乾いた大地を潤して
生命は 満ちて行く
愛おしいという想いは
潤いを連れてくる
満ち足りて 綺麗に空虚を埋めて行く
色鮮やかな 景色をもたらして
明るい世界を 展望を
見詰める先は 未来か 過去か
……現実か――
叶えられる 多くの事と
叶えられない 多くの事を
見て 聞いて
……そして願う――
今を生きると 誓ったから
人と人の 間に有るべきものを
見ることを止めない
人には 何が有る?
人には 何が無い?
見詰める先は 現実を突き付ける
それもまた 真実である と
唯一が 在れば 他はいらないか?
それには 否 と
強い瞳で 今を生きる彼らは
過去を知り 現実を知り
そして未来を 見届ける
唯一無二の存在と 共に在れば
現実の生き辛さなど どうとでもしてやるのだと
だからこそ
唯一無二の存在は 常に傍らに在る
だからこそ
彼らは 強く生きられる
彼らの見詰める先は
過去か 未来か
……現実か――
降り続く雨は冷たくて 針の様に痛い
乾いた大地は 貪欲に水を吸収する
恵みの雨は 乾いた大地に生命を――
啓司の心は 潤いはじめ
貴巳の心は 雨が緩やかになった
二人が共にいる事で
大きな変化派内
けれど
小さな 小さな 変化をしていく
お互いを知り
お互いをわかり
お互いを慈しみ合う
現実(いま)は それが一番必要であり
一番大切である
だからこの先の未来も
現実(いま)と同じに見ることが
叶っている
見詰める先は 未来か 過去か
……現実か――
僕たちの聖域ーサンクチュアリー 藤野 朔夜 @sakuyatouno
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