クリーム色の夢を貴方に

西木 草成


 ふと目を覚ました私、そばの目覚まし時計は午前3:40を指している。



 毎回この時間だ。



 ふと窓の外を見ると、未だに暗いが少しずつ空の色が見えてきたのが分かった。


 ここに住みだして3年、ほぼ毎日この時間に目を覚ましてしまう。このまま二度寝をしてしまおうかとも考えたがどうも目がさえてしまってる。



 ひとまず水道に行って水を飲もう。


 

 暗くなっている台所の電気をつけ、木でできている古くきしんだ廊下を渡りながら自分の長くなった髪をヘアゴムで後ろでまとめる


 コップを濯ぎ、水道の水を中に貯めてゆく。


 それを一気に口に含み、さっきまで見ていた夢の内容を思い出していた。



 桜



 教室



 シュークリーム男



 桜に花弁が一面に散らばった、陽射し差し込む昔の教室にたたずんでいる頭がシュークリームでできた男の子、たぶん学ランを着ているから中学生か高校生だと思う。


 そしてそこでの私も学生服なのだ、ブレザーやスカートに手を通すのは三年ぶりだと思った。


 そしてそのシュークリームでできた男の子はこっちをずっと見ている、のだろうか?何ぶん顔がシュークリームでできているので目とか鼻の区別ができない。でもこっちを見ているのはなんとなくわかった。


 そしてお互い終始見つめ合って終わるのだ。


 とにかく今日も仕事がある、少し早いけど朝ごはんの準備をしよう。


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 また来てしまった、桜の花びらの散らばる陽射し差し込む教室、学ランを着たシュークリーム男、そしてブレザーとスカートの学生服に身を包んだ私。


 何も変わらない夢の内容。


 この三年間同じ内容の夢を見てきて、何かあるだろうと思って精神科なんかにも診てもらったりしたがその正体はよくわからないものだった。


 だがこの日は少し違った。


 

 シュークリーム男がその顔に手をかけたのだ。



 シュークリームということは中から出てくるのは、おそらくクリームだろう。


 そう思ってた。


 薄い皮で覆われている自分の顔に両指をかける。



 そこからあふれてきたのは汚水だった。



 その濁って様々なものが混ざっている汚水は教室の床を水浸しに、それはやがて自分の足元までやってきた。


 軽い悲鳴を上げ、その汚水を流した張本人のほうを向くと顔についていた皮はまるで死んだ人にかぶせるような白い布みたいに貼りついていて、足元をふらつかせながらこっちに近づいてくる。


「いっ、いや・・・こないでっ!」


 

 さ・・む・・・い。



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「はぁっ!はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


 目覚まし時計は午前3:40


 いつもと同じ時間。


 だがいつもとは違った。


 目が覚めると布団は汗でびしょ濡れだ、私は布団をはねのけ精神科医からもらった向精神薬を服用する。仕事のストレスが原因でしばらく不安定になっている時に使っていたものだ。


 薬を飲んだ後、部屋の明かりをつけ布団にくるまっている。


 さっきのはいったい何だったのだろうか、だが何か思い出せなくて引っかかっていることがある。



 桜



 教室



 シュークリーム



 汚水



 このキーワードがすべて引っかかる。



 キーワード全てに身に覚えがあった。


 そしてその日の職場、上司の差し入れでもらったシュークリーム。



 とても食べる気は起きなかったが、そこで私は




 全てを思い出した。


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 再びこの場に来ている


 桜の花びらが散らばり、日差しの差し込む教室。


 そして目の前にはシュークリームをかぶった学ランの男。



 昨日と同じ、そしてその男が自分の顔に両手をかける前に、私はその両手を握り、止める。



 ごめんね、辛い思いをさせて


 

 その顔に自らの顔を寄せる。



 そしてシュークリームの皮で覆われたそのざらついた顔を撫でる。



 一口。



 噛り付いたところから、まるで血を流すように、カスタードクリームが溢れてゆく。



 二口



 三口



 食べ進めてくうちに、顔と添えていた手はカスタードで濡れてゆく。



 まだ、怒ってたんだ。



 四口



 五口



 すでにお互いの制服はクリームだらけになっている。



 食べて、舐めて、だんだんと思い出す。



 高校の時、私には好きな人がいました。



 その人も私のことが好きでした。



 理由なんてありません。



 ただただ好きでした。



 そんな彼は



 卒業式の日



 自殺しました。



 理由はわかりません。



 ただ、桜の花びらが散っている池に入水自殺をしたのはとても印象的でした。



 その日から、私は彼が死んだのは自分のせいだと責め続けました。



 理由なんてありません。



 理由を聞かなかったから。



 自分の立っている教室の床はカスタードクリームだらけになっていた。


 でも、どうせ夢なんだ。


 カスタードクリームの中から、人の顔が出てくる



 久しぶり。



 久しぶり。



 寂しかった?



 寂しかった。



 辛かった?



 辛かった。



 シュークリーム好き?



 あんまり好きじゃない。



 でも食べてくれた。



 君のもらったものならなんでも食べるよ。



 たまには帰って来なよ。



 うん・・・わかった。



 あっ・・・



 まだ口にクリームがついてるよ。


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 目をさますと時間は午前3:40だった。



 この数字の意味もわかった。



 彼の自殺した時間だ。



 理由は今でもわからない。



 でも会いに来てくれたし、それに3年も待たせちゃったんだから特に気にもしなくなっていた。



宛先:◯◯◯◯◯@◯◯.gmail.com


Cc:◯◯◯◯◯@◯◯◯.gmail.com


件名:母へ



 今まで心配かけてごめんなさい。


 東京は大変です、最近仕事に入るのも辛く思えました。


 でも帰れる場所があると思ったら安心しました。


 早速ですが今日、実家に帰りたいと思います。


 そこでお願いなのですが。










シュークリームの材料を用意しておいてください。









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