第1話 八尺様
pppp…
携帯のアラームが鳴っている。
時刻は8時ジャスト。
重たい瞼を擦り、伸びをする。
「おーい早く起きないと遅刻するぞー」
下の階から父親の声がする。
そうだった、今日は祖父の家に遊びに行く予定だった。
急いで身支度を整え、出発する準備をする。
「事故には気をつけてな」
「おじいちゃん達に宜しくね」
今日は免許を取って初めてバイクで遠出をする。
外はいい天気だし、絶好のツーリング日和だ。
「それじゃあ、行ってくるよ」
祖父の家には自分が思っていたよりもあっという間に着いた。
天気も良かったので少し散歩してから顔を出そうと、家の周りを彷徨くことにした。
「ぽぽっ、…ぽっ…ぽぽっ…」
そろそろ帰ろうかと思った時、変な音が聞こえてきた。
濁音とも半濁音とも、どちらにも取れるような感じの音、いや、声だろうか。
何だろうと思っていると、庭の生垣の上に帽子があるのを見つけた。
帽子がそのまま、垣根の切れ目まで移動すると白のワンピースを着た女性が見えた。
(なんだ、帽子はあの人が被ってたんだな)
しかし、生垣の高さは二メートルくらいある。その生垣から頭を出せるなんてどれだけ背の高い人なんだと驚いていると、
女性はまた移動して視界から消えた。帽子も消えていた。
そして、いつのまにか「ぽぽぽ」という音も無くなっていた。
「ただいま、久しぶりー」
「遠い所をよく来たね、上がりなさい」
祖父も祖母も喜んで迎え入れてくれた。
「バイクで来たんだってね、怪我はしなかったかい?」
「大丈夫だよ」
祖母は相変わらず心配症で、
「なーに、男なら怪我の一つや二つしてもいいさ」
「いや、怪我はしたくないなぁ」
祖父も相変わらず能天気だった。
「そういえば、今日美味しいお魚を頂いたんでした。」
「そいつはいい!お前も魚好きだったじゃろ?」
基本的に、魚はあまり好きではないが、
祖母ならなんでも美味しく調理してくれるので頷いた。
「それにしても大きくなったのう…」
「身長はもうおじいちゃんを超えちゃったね」
「はっはっは、もっとどんどん大きくなってくれ」
おじいちゃんとちゃぶ台を囲んでたわいない話をしていたら、
先程、散歩中に見たあの女性の話になった。
「そういえばさ、大きくなったで思い出したんだけど」
祖父はニコニコと話を聞いていた。
「さっき、僕よりも身長の高い女の人がいてさびっくりしたんだよねぇ」
「はて、お前より身長の高い女性なんてこの辺りにいたかのう…」
「垣根より背が高くてさ、ぽぽぽって言ってた。変だよね」
そう僕が言った途端、先程まで笑顔だった祖父の顔が凍りついた。
台所では、何かが落ちるような音。
すると、祖父はその事について詳細に質問すると黙り込んで携帯を取り出し、電話をかけに外に出た。
祖父の初めて見る表情に、唖然としていた僕は台所で震えている祖母を見た。
祖母は酷く怯えているようだった。
電話を終えたのか祖父は戻ってくるやいなや、
「今日は泊まっていきなさい。」と言った。
祖父の表情、祖母の怯えた態度。
何か只事ではないことが起こっているとは理解できる。
何か僕は悪いことをしたのだろうか。
だがしかし、僕は思い当たる節が無かった。
「ばあさん、後を頼む。儂は迎えに行ってくるから」
そう言い残して祖父は軽トラックでどこかに出かけてしまった。
語旅〈カタリタビ〉 中野唯 @yuinaka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。語旅〈カタリタビ〉の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます