語旅〈カタリタビ〉
中野唯
プロローグ
夢を見た。
夢の中で僕は、一人の女の子と川で遊んでいた。
森は青々と生い茂り、空には入道雲と飛行機雲。
普段の都市の生活では見ることの出来ない光景は懐かしさを感じさせる。
ずっと見ていたいような、でもこの先は見てはいけないような不思議な感覚に襲われた。
目が覚めると先程までの和やかな雰囲気は消え失せていた。
辺り一面真っ暗で何も見えない。
すると、僕の周りだけスポットライトを当てたかのように明るくなった。
なるほど、僕は椅子に座らされていたのか。
周りを見渡すと、椅子を囲むようにしていくつもの扉があった。
それぞれネームプレートのようなものが貼ってあったが、暗くてよく見えなかった。
ここが何処なのかもわからず、
何故ここにいるのかもわからない。
途方に暮れた僕はとりあえず、椅子に座って考えることにした。
ギィッ
何処かの扉から何かが入ってくる。
それはコツコツと音を立てて僕の前に現れた。
それは、「ようこそ」と一礼すると、
「何か聞きたいことはございませんか?」と尋ねた。
「ここはどこで、僕はなぜここに連れてこられたんだ?」
暗闇から出てきた人物はフードを取り、一歩近づいた。
黒のショートヘアの女の子だった。
年齢は高校生くらいだろうか。
「ここは夢と現実の狭間。どこでもないけど、どこでもある場所。今から貴方にはいくつもの不思議な体験をしてもらいます。」
「不思議な体験?」
「大丈夫。貴方ならきっと生き残れるでしょう」
僕にはこいつの言ってることがまったく理解出来なかった。
「まずはこちらの扉から、どうぞ」
そう言うと少女はいくつもある内の一つの扉のノブを回した。
「さっきからあんたが何言ってるかわからないんだけど」
「とりあえず、扉に入ってください。貴方が再びここに戻って来ることが出来ればその時はお教えしますので」
そして、少女は扉を開いた。
扉の向こうも同じく真っ暗で何も見えない。
(この部屋から出る手がかりがない以上、言われた通りにするのが一番か…)
僕はなされるがままに扉の中に入って行った。
その時ちらっと見えたあの子の顔は、
とても悲しそうな複雑そうな顔をしていた。
「貴方には、知ってもらわなければならない…いえ、知って欲しいのです。私達の、彼らのことを。」
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