第10話

軽く夕食を取った俺たちは対面の壁にもたれ掛かって一息ついた。

パチパチと燃える焚き火越しに見えるノアは心無しか安心しているように見える。

俺は焚き火の温もりを感じながら今日あった事をぼんやりと思い返していた。


ブラッドウルフとの戦闘は予想外の事があったとはいえ割と何とかなった方だな。

それに少しずつだけど身体能力強化の魔法をスムーズに発動できるようになってきた気がする。


そしてノアと共闘してた時のことを思い出して一つ引っかかる事があった。


「なぁノア。一つ聞いても良いか?」


「はい?別に大丈夫だけど」


ノアは小首を傾げるので俺は質問する。


「最後の狼を倒した時さ二匹相手にしてた時より一匹を相手にしてた時の方が動きが良かった気がしたんだけど、何か理由でもあったりするのか?」


「あちゃー、バレちゃったか」


ノアは笑って片手で頭をかく。


「聞いちゃ不味い事だったか?」


「いえ、そういう事じゃないよ。」


ふぅと小さく息をつくとノアはゆっくりと口を開く。


「私は騎士殺し(ナイトブレイク)というスキルのおかげで一体一の勝負なら通常よりも高い戦闘力を発揮する事ができるの」


「スキル?じゃあノアは元はこの世界の住人じゃないのか?」


スキル持ちって事は俺とは違って召喚者としてこの世界に来たのか?

疑問に思って尋ねるがノアは眉をひそめて首を傾げている。


「いや、スキル持ちって事は召喚されたのかなと思って」


「あー白?何もスキル持ちの全員が全員召喚者って訳では無いんですよ?稀ですが普通に持って生まれる事もありますから」


こっちまで疑問符で一杯の所にルウが解説してくれる。

するとノアは「あっ」と突然声を挙げる。


「私のお父さんはその『召喚者』だって言ってたよ。私のスキルもお父さんから教えてもらったんだよ?」


「スキルって人に教えたり出来るのか!?」


もし伝授出来るなら是非とも教えてもらいたいな。ノアのスキルはさっき見た感じからも凄く強そうだし。


「出来ることには出来るんですが血縁関係を持っている者に限りますね。だから今ノアさんが白にスキルを教えたりする事は出来ません」


「そっかー、やっぱそうだよな。世の中そんな都合の良いように行かないよな」


それを聞いた俺は少しも楽させてくれない異世界の待遇にため息をつき、手足をグッと伸ばした。


「私も白に質問してもいい?」


「ん?」


「白はなんで色んな魔法が使えるの?普通のウィザードなら一属性が普通じゃないの?さっきの身体能力強化?もそうだし」


「あぁ、そんな事か。俺は何故かグリモアの職業の適性が出たんだよ。だから色んな属性も使えるし、ウィザードと違って剣も練習したんだよ」


「そうなんだ」と言いたげな顔でノアは目をパチくりさせる。

ピンと来てないなこれは…


「つまり簡単に言いますと。白は滅多に出ない職業を引いた為に普通なら直ぐに使える魔法も勉強しないとダメだったんです。その苦労のおかげでたくさんの魔法が使えるんですよ」


「なるほど!よく分かった♪」


ルウの付け加えた説明にノアは納得がいった顔でサイドテールをふわりと揺らしながら、首を縦にふった。

何故かぐうの音も出ない俺だった。




「くぁ……」


しばらくくだらない談話をしていると、ルウが小さく欠伸をし、眠そうに目を擦っている。


「そろそろ寝るか?」


ルウはふわふわと飛びながらコクリと頷いた。

俺はバッグから毛布を二つ取り出し、一つをノアに投げ渡し、もう一つを二つ折にして胡座をかいている俺の足の上に乗せる。

ルウはもう限界を迎えたらしく、ゆっくりと毛布の上に着地し、そのままスースーと寝息をたてて寝てしまった。


「この毛布私が使っても良いの?」


ノアはふわふわの毛布を抱きしめて気持ちよさそうに表情を緩めている。


「夜は冷えるからなー、風邪でも引いたら大変だろ?」


「白ってさなんでそんなに優しいと言うか面倒見が良いの?」


ノアは毛布に顔を埋め、目だけを覗かせ不思議そうにこちらを見つめてくる。


「ん?なんでだろうな…何故か身体に染み付いてるんだよな」


ノアは半目で眉をへの時に曲げて更に訳が分からないと言いたげな表情をしている。


「あー、もう寝ようぜ?飯食わせてやったんだから明日は俺達のクエストに付き合って貰うからな」


「はーい。頑張るよー」


俺は最後の牧を配てそのまま深い眠りに落ちた。





翌朝いつもと同じ時間に目が覚める。

ルウを見ると体を丸め、羽の力を抜いてスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。

俺はルウのほっぺを軽くつつき、ルウの体を毛布で包んであげてカバンの上に乗せた。


対面で寝ていたハズのノアは既に起きているらしく毛布は綺麗に畳まれて汚れないように荷物の上に置いてある。


ノアを探して洞窟の外に出ると湿っぽい朝霧が全身を包み込む。

左足の傷も大分癒えたみたいで殆ど痛みも無くなった。


(顔を洗いたいな…)


俺は水が無いか近場を散策する事にした。

この前、『精霊』と言う概念についてアーカイブで読んだけど、この森には本当に『精霊』が居るように思えるくらいに清々しく、森も道を作るかの様に分かれている。


小鳥や蝶に導かれるように小道を進んでいくと川原に出た。

昨日は気づかなかったけど、近くに小川が流れていたらしい。


川辺に身を屈め、綺麗な水を両手で掬い上げ、顔をバシャバシャと洗い流す。

よく冷えた川の水は寝ぼけた意識を完全に覚まさせてくれる。


「はっ!せいや!」


顔の水滴を適当に拭い、一息付いていると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

声を頼りに河原を進むと、掛け声と共に剣術の型をとるノアの姿が見えてきた。


ノアの使う剣術は俺が親方から教わった王国剣術とは違い、独特な型をしている。

なんだろう、日本にいた時に見た事がある様な…


「あ、白。おはよう。朝早いんだね?」


俺が来ていた事に気づいたらしいノアが剣をしまって俺に近づいてきた。


「ノアこそ朝早いんだな。それで一つ聞きたいんだけどさ、ノアの剣術って誰から習ったんだ?」


「え?私は全てお父さんから教わったけど?」


ノアは水で濡らしたタオルで汗を拭いとる。


「そのお父さんって確か召喚者だったよな?何処から来たかとか知ってるのか?」


「いや、それだけはお父さんも教えてくれなかったから分からないの」


「そうか」


ノアはタオルを首に掛け、少し申し訳無さそうにしゅんとしている。

ノアのお父さんも出身地を娘に教えなかったのは何か理由があるのだろうか…


「なぁ、ノア。俺と一回手合わせしてくれないか?」


「え?別に良いけど…」


俺はノアの剣術をもっと間近で見たくなったので朝稽古を申し込む。

ノアはいつも使っている刀を引き抜き、ある程度の間合いを取る。

俺も念のためと肩に掛けていた漆黒の剣を引き抜き、右手でいつもの様に構えを取る。


「公正を期す為にお互いスキルとか魔法は禁止で行くか。あと寸止めな?」


ノアは集中した表情のままコクリとと頷く。


「じゃあスタート!」


俺が声を張り上げると同時にノアが前傾姿勢で突っ込んでくる。

そして、一瞬で懐に潜り込んできたノアは居合切りの様に刀を振り抜いてきた。

ギリギリ剣筋が読めた俺は剣を盾にして何とかノアの速攻を防ぐ。


剣を防がれたノアは瞬時に離れ、息をつく間も無く斬りかかってくる。

ノアの集中した神をも射殺す様な目に圧倒されつつも必死にノアの攻撃に付いて行く。


しかし、付いて行けていたのもつかの間。

ノアの刀が意図的に俺の剣の腹を叩き、俺の手から剣を離させる。剣は黒の線を描きながら宙を舞い、傍らに音を立てて落ちる。


ノアは剣を弾き飛ばせた事を確認すると刀を鞘に戻し、深く深呼吸をした。


ノアはお世辞抜きでめちゃくちゃ強かった。

洗練された素早く無駄のない動き。

何処から出ているのか分からない位強い力を上手く使いこなしている。


「めちゃくちゃ強いな。こりゃ勝てないわ」


俺は弾き飛ばされた剣を拾い、肩がけの鞘に戻し、グーッと身体を伸ばした。


「白も見かけに寄らず充分強いじゃない。正直あんなに付いてこられるとは思ってなかったよ」


ノアはトレードマークのサイドテールをふよふよと揺らしながら笑い掛けてくる。


「さてと、洞窟に戻るかー。もうそろそろルウも起きてるだろ」


俺達は元来た道を引き返し洞窟まで戻る。


「白!ノアさん!一体どこ行ってたんですか!?朝起きたら誰も居ないから心配しましたよ!」


既に起きていたらしいルウが俺達の姿を見つけるや否や近寄ってきて大声で怒鳴る。

俺は怒るルウに事情を説明し機嫌を宥める。


そして簡単に朝ごはんを調理し、三人で食べ始める。


「じゃあ白はノアさんにコテンパンにやられたと。男の癖に情けないですね」


「るさい。それだけノアが強かったんだよ…そう言えばノアはルーラに何しに向かってるんだ?」


さらっと嫌味を言ってくるルウを流し、気になったことをノアに尋ねる。


「私…拾ってくれるfamilie(ファミリエ)を探してて…」


「ファミリエ?」


「ファミリエと言うのは言わばパーティの大きい版ですね。冒険者達が集まって一つの集団を作るんですよ。大体の冒険者がこのファミリエに所属してまして、ギルドからの依頼もファミリエ毎にされる様になるんですよ?」


ルウが察してファミリエの説明をしてくれる。

ファミリエは冒険者にとっても良いシステムっぽいな。


「他の街ではファミリエには無かったのか?別にルーラに限った事じゃ無いんじゃないのか?」


するとノアは苦虫を噛み潰した様な表情をしてボソボソと喋る。


「入れてもらえなかったんですよ…私が女で子供だから…」


「うわ…見かけだけで判断されたのか…でもそれってルーラでも例外じゃないだろ」


「そうなんだよ………あっ!どっかに所属してたりするの?」


「いや、ファミリエの存在も今知ったばっかりだし…」


何とも言えない重い空気が朝食の場に流れる。


「それじゃ白が作ったらどうですか?」


「ファミリエを?誰でも作れる物なのか?」


ルウがモグモグと美味しそうにパンを頬張りながら提案してくる。


「勿論ギルドの審査などありますがエイラさんに頼めば多分作れますよ」


「そうなのか、じゃ一つ立ち上げて見るか。俺も他所のファミリエだったらバイトと両立出来ないからな」


「私も入れてくれる?」


ノアは食べかけのパンを両手で持ち若干上目遣いで言ってくる。

その仕草に一瞬ドキッとさせられるが何とか平静を保ちノアの頼みを了承する。


「やったぁ!これでやっと気持ちが軽くなったよ〜」


ノアは相当安心したらしくフゥーと大きく息を吐き、二ヘラと笑った。

ノアの笑顔を見てこちらまで何か肩の荷が降りた気がした。


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