第9話
「エイラさん!そろそろクエスト受けたらダメですか?」
初めて冒険に出た日から実に二週間が経ったある日。
ゴブリン狩りに自信が付いた俺はギルドにてエイラさんにクエストを受けさせて貰えるようにお願いしていた。
「んー、どうしようかな…」
エイラさんはやっぱり渋ってる。
それだけ心配してくれてるのは有難いけど俺だって先に進んでみたい。
「エイラさん。簡単な探索クエストぐらいならこのバカ白にも達成は出来るんじゃないですか?」
「ルウちゃんがそう言うなら……ん、分かった。クエスト受けてもいいよ」
この二週間ずっと傍らで俺の事を見守ってくれていたルウも呆れ気味にも賛成してくれる。
「やったぁ!」
俺はガッツポーズをして喜び、それをルウは少し呆れた笑を浮かべて見つめてる。
「だけど!受けるクエストは私が指定するからね?」
「は、はい!」
そう言うとエイラさんはクエスト掲示板の前に立ち、色々物色し始めた。
「これなら…いや、ここは危険だし。それなら、これ。……ダメか。あっ!これなんて良さそ!」
エイラさんは一枚のクエスト用紙を俺とルウに見せてきた。
「アステカの神殿の調査?」
「うん。ここは出てくるモンスターの危険度も低いし初心者冒険者に探索ポイントなんだよ」
「へぇ〜、じゃこれにします!」
「ん♪」
エイラさんは笑顔を浮かべてクエスト受注の判子を押してくれる。
「くれぐれも無理だけはしないでね?危なくなったらすぐに帰ってくること!」
「分かってますよ!それじゃ、行ってきます!」
俺は元気よくエイラさんに挨拶をしてギルドを出た。
そして、まっすぐ門に向かおうとするとルウにくいくいと服を引っ張られて立ち止まる。
「ん?どした?」
「もし、探索が一日で終わらなかった場合に備えて最低限の食料と野営出来る道具は揃えときましょ?」
ルウがいつに無く不安げな様子だったのでルウに従い干し肉などの食料やサバイバルナイフなどを買い込む。
それらを全て安く買った小さめのリュックサックに詰めて街を後にした。
目的地であるアステカの神殿までは歩いて少なくとも半日はかかるらしいのでソルティーヤに帰れるのは早くて日が変わる頃になりそうだ。
街で買ってきた地図を元にのんびりと歩いているとルウが「うーん、うーん」と唸っているのが横から聞こえてきた。
「なぁ、さっきからどうしたんだ?何が気に食わないんだよ」
「いやぁ、気に食わないと言うか質問何ですけど」
「ん?ルウが俺に質問なんて珍しいな」
するとルウはいきなり俺の前に出て来るので俺は驚いて足を止める。
いや、そんな疑うような目で見ないでよ、何もしてないから…
「白は最近の戦闘で使う付加魔法って雷だけですけど他の水とか風はどうなんですか?」
「え、ええ!?い、いやちゃんと使えるぞ!?」
「それならいいんですが…魔法の使用はその魔法の真髄を理解する事にあるんですからその辺の復習はしておいてくださいよ?」
「は、はい。」
このルウの言う「魔法の真髄」はグリモアにとっては言わば切っては切り離せない存在なんだよ。
グリモアが魔法を使う時アーカイブに記された呪文を読み解き、自分の魔力で生成するんだけど、この生成する時に少しでも魔力の形が違ったり魔力の量が違ったりすると呪文は顕現不可で消滅してしまう。
それに基本の火、水、風、雷の四属性ですら全部日本で言う英語と数学ぐらい性質がかけ離れてるからそこでまた一苦労だ。
ほんとに呪文を一つ口にするだけでとんでもない威力の放てる苦労のくの字もないウィザードは羨ましい。
頭の中で整理をしつつウィザードへの嫉妬を呟いていると右後方から何か音が聞こえできて次第にそれが大きくなってくる。
アオーーーン!
「な、なんだあれ!!?」
俺が突然の出来事に動けず目を丸くする。
「し、白!あれはヤバイです。ブラッドウルフですよ!噛まれたら血も残らないって有名なモンスターです!!」
ルウもかなり焦った様子で手をワチャワチャさせている。
と言うかそんな事より逃げないと!
俺はすぐさま狼達に背を向けて逃げ出した。
「あ!狼が追っかけてるの女の子ですよ!?」
「は!?そんな事知らんわ!この状況で人のこと助けられるほど余裕無いんだよ!!」
ルウの謎の情報を無視して俺は全力で逃げる。
ルウも慌てて俺の胸ポケットに逃げ込み、顔だけ覗かせている。
しかし、その謎の少女+狼の大軍との差は次第に縮まってくる。
「そ、そこのお兄さーーーーん!ちょ、ちょっと助けてくださーーーーーーーい!」
謎の少女が遂に俺に助けを求めてきた。
俺は少女に背を向けたまま大声で叫び返す。
「知るか!!寧ろ俺は被害者だぞ!?自分の事で精一杯だよ!」
「そ、そんなぁ!!」
そういう少女との差はどんどん縮まっていき遂に俺の隣に並んだ。
チラリと横を見ると少女は少しニコリと笑い
「すみませんね?」
「ほんとだよちくしょう!」
半分泣きそうになりながら俺と少女は細い小道を狼に追われながら激走する。
「あ、そうだ!白、水属性の魔法を改変して氷を生み出せばあの狼を足止め出来るかも知れませんよ?」
「その手があったか!」
ルウの提案に従い速攻で水の魔力公式の改変を暗算する。
走りながらだから上手く想像通りに固まらない!
そして、あらかた改変が出来た俺は一旦立ち止まり後ろを振り向いた。
「え!?何で立ち止まるの!?」
少女も驚きを隠せないが俺に合わせて立ち止まる。
「まぁ見てろ!行くぞ《冷えろ 万物の構成 氷晶》!」
そう唱え俺は魔力を右手に集中させバンッと床に付けた。
すると地面はどんどん氷つき俺、少女と狼達の間には氷床が広がる。
そして、氷床に狼が足を踏み入れるとツルンツルンと滑り、ドタバタと次々と転んでいく。
やはりと言うか狼は氷の床に慣れていないらしく足止めは完璧に成功した。
ただ、ここで片付けて置かないと後々怖いからと言う理由で俺は肩掛けの鞘から剣を抜き放った。
そして少女の方に向き直り
「お前も冒険者なら武器を抜け!ここで片付けておくぞ!」
「は、はい!分かりました!」
少女は目付きを真剣な眼差しに変え、腰から剣を抜き放った。
「か、刀!?」
俺は故郷で見た覚えのある懐かしい武器に驚きを隠せない。
なんと少女が構えたのは日本に昔から伝わるあの刀だったのだ。
それも見ただけで分かる名刀だ。なんか放つ輝きやオーラが違う。
「あ!二匹抜けてきますよ!」
いつの外に出ていたルウが狼の動きを知らせてくれる。
俺はすぐさま自分と少女に身体強化魔法をかける。
「うおおおおおお!」
「おりゃあああああ!」
俺と少女は軽くなり、動きやすくなった身体を使って同時にそれぞれ狼に斬りかかった。
しかし俺の剣は寸前でかわされた。
「だから!何でモンスターってのはこう…反射神経ずば抜けて良いんだよ!?」
「もう!もっと相手の動向を読むんですよ!そんな事も出来ないんですか!?」
「あぁ!もうルウうっさい!」
ルウに怒鳴りながら狼の動きを予想して剣を振る。
「うっさいとは何ですか!あっ!ダメですそこは!」
「へ?う、うわぁぁぁぁぁぁ!?」
「え?どうしたの!?」
俺は狼の攻撃を避けたのだがその先に知能の高いモンスターが仕掛けたと思われるトラバサミのような罠に左足を掴まれる。
左足に金属の刃がくい込み血が吹き出し、激しい痛みが襲ってくる。
「う、うぐぁ…いってええええ」
俺が動けないのを好機と思ったらしく狼が襲いかかってくる。
「あ、危ない!!」
少女がすぐさま飛びかかってきた狼を斬り伏せ、凄まじいスピードで俺に襲いかかって来ていた狼に体当たりして弾き飛ばした。
「ありがとっ、っつ!うらぁぁぁぁ!」
俺はその隙にトラバサミの両刃を全力で引っ張り、やっとの思いで抜け出す事に成功した。
「はぁはぁ、と、とにかく。残りの狼を片付けるか」
左足の怪我はかなり深く、身体強化が無かったら立つことも出来ないだろう。
「また襲ってきますよ!私も少しながら手助けします!《増加せよ 万物の力》!」
ルウが唱えてくれた魔法のおかげで俺が使っていた身体能力強化魔法が更に強化される。
剣を構え直した所で残りの四匹の狼が一斉に襲いかかってきた。
「二体は引き受けろよ!」
「貴方こそさっきみたいにヘマふまないでね!?」
俺は痛む左足を我慢しながら慎重に二匹の狼の攻撃を捌いていく。
よし、ここだ!
狼の一匹が一瞬よろめいた所を見逃さなかった俺は狼の心臓を渾身の突きで貫いた。
そして剣を引き抜き、仲間が目の前で息絶えた事に少し動揺し、動きが止まっていた狼を切り裂いた。
少女の方を見ると少女は一体ずつ相手にしている様で割と手間取っていた。
流石にここで見ているだけは酷いと思ったので俺は少女から一体の狼を引き受けた。
「あ、ありがとう!」
「別にいいよ」
少女は額に汗を浮かべながらお礼を言ってくる。
すると少女はいきなりさっきと比べ物にならないくらいの剣さばきで次々と狼に傷を負わせていく。
こちらも負けては居られないと思い、俺も狼を追い詰めていく。
「止めだぁ!」
「くたばれ!」
俺達はほぼ同時にそれぞれの狼を絶命させる。
俺達が倒した計五匹の狼はそれぞれ霧散し、その場にエーテルを残していた。
俺はその場でドカッと座り左足の様子を見た。
「私が応急処置して上げますよ《癒せ 慈悲の光》」
ルウが飛びながら足元に近づき何やら呪文を唱えた。
すると見るに耐えなかった左足の傷はみるみる癒えていき最後には少し後が残るくらいまで回復した。
「おぉ!それが回復魔法か?俺も使いたいなぁ」
初めて見る回復魔法に感動する俺にルウは呆れたように呟く。
「回復魔法は神官特有の魔法ですから…魔法職の魔法ではないのでいくらグリモアだからって使えませんよ」
「あぁーそうなのか。ほんと器用貧乏と言うか」
「文句言っちゃダメですよ」
回復魔法でも完璧に直せた訳じゃ無いためルウは少し残った傷に優しく包帯を巻いてくれる。
「よし、良さそうだな。ありがとうルウ」
「はいはい。あんまりドジ踏まないでくださいよ?」
「いやいや、あんな所にトラバサミがあるなんて誰も予想出来無いだろ」
立ち上がり足の具合が良さそうなのを確認し、荷物を担ぎ直す。
「あ、あの!ありがとうございました」
歩きだそうとすると黙っていた少女に声を掛けられる。
「ん?あぁ…ああ!お前よくも巻き込んでくれたな!」
「す、すいません!」
俺が巻き込んだ事に少しキレると少女は慌てて頭を下げた。
「フゥ、それで?何であんなに追われてたんだ?」
俺が聞くと少女は頬をかきながらゆっくり話し出した。
「えと…ルーラの街を目指してたらブラッドウルフの群れに遭遇しちゃって…近くを歩いてた人が見えたから擦り付けちゃおっかなと」
「おい!?」
「ひっ、す、すいませんでしたぁ!」
すると、ルウがちょいちょいと頬をつついてきた。
「ん?どうかしたか?」
「白。完全に迷いました」
「…………まじで?」
「まじです。」
俺はルウと目を見合わせる。
は、初めてのクエストで迷子とかシャレにならないんですけど…
「ど、どどどどどうしたらいいんだ!?」
「ちょっとは落ち着いて下さいよ」
ルウは腰に手を当ててフゥと息を吐く。
「周りも薄暗くなってきてますから近場で休める所を探しましょうか。夜のモンスターは一段と強さが増すので今の白なら命が幾つあっても足りませんから」
俺は周りを見渡し夜を越せそうな所を探す。
周りは鬱蒼と木々で生い茂っており到底休めそうなところなんて見つかりそうにない。
「ちょっと上から探してみますね」
そう言うとルウはゆっくりと上昇して行った。
「あ!しろー、良さそうな洞窟が見えますよー」
「それじゃあ、そこにするかー」
洞窟を見つけたらしくルウが上空から大声で伝えてくる。
再び降りてきたルウが指さす方向に向かって歩き始める。
しかし背後からそわそわとした視線を感じ一旦立ち止まる。
「はぁ、一緒に来るか?」
俺はさっきからモジモジしている少女にそう尋ねる。
「いいんですか!?」
少女は顔を輝かせながら顔を上げる。
「ここからルーラまでは結構あるし、行き方も分からないんじゃないのか?」
「はい」
少女はコクリと頷き歩き出した俺の隣に並んだ。
「全く白は相変わらず人が良いですね〜」
「うるさいな、そういう性格なんだよ」
ニヤニヤと笑いながらからかってくるルウをジト目で見る。
「それで、名前は?なんて呼べばいい?」
半分照れ隠しの為に少女に名前を尋ねる。
少女は顔だけこちらに向け
「ノア・ルミナスです。ノアって気軽に呼んでください!それで貴方達は?」
「ノアな、よろしく。俺は三奈坂 白だ、普通に白って呼んでくれて良いし敬語も使わなくて良いから」
「私はルウです!お願いしますね」
俺が普通に自己紹介し、ルウは右手だけで敬礼のポーズを取った。
このノアという少女を改めて観察する。
髪の毛は艶の良い黒色のサイドテール。瞳も吸い込まれる様な黒。背丈はフィーナより高い位か、服装は…なんと言うか西洋の騎士と言うより日本の侍に近いデザインの服だし、さっき使ってた剣も刀をモチーフに作られた様なデザインをしていたな。
こいつなんか色々と日本人っぽくないか?
……いやルウによると日本からのこの世界の移住者は圧倒的に召喚者の方が多いらしいし、召喚者ならこんな所で迷ってないだろうし。
「何?さっきからジロジロ見て…ちょっと気持ち悪い」
ノアが両手で身体をかき抱き、嫌悪をあらわにする。
「み、見とらんわ!て言うかノアみたいなお子様ボディ見ても何も感じねぇし?」
「し、失礼なっ!?私これでも16歳何だけど!」
「じゅ、16!?マジかよ俺と二つしか変わらないのか…」
俺はノアの年齢に驚愕し、思わず立ち止まりその可哀想な体付きに思わず悲しくなってくる。
「何でそんな悲しそうな顔をするの!?」
ノアは俺の視線に気づくとプルプルと拳を震わせ、顔を真っ赤に染めた。
「ねぇ、今すっごく白をぶちのめしたい気分だよ」
「わ、悪かった。俺が悪かったから許して。いや、その拳を下ろして下さいお願いします!」
ノアからドス黒いオーラが出始め、俺は全力で謝りつつ距離を取るがノアはゆっくりと近づいてくる。
そしてノアは腕を引き絞り
「悔い改めろ!!」
「グハッ」
思いっきり腹パンを食らわしてきた。
俺はお腹を抱えながら崩れ落ちる。
「ノアさん良いですね〜ナイスパンチ♪」
「イエイ♪」
ルウとノアは何故か嬉しそうに笑顔でハイタッチを交わしてる。
そんなに憎まれてのか?悲しくなるわ。
それからしばらく歩くと目的地の洞窟が見えてくる。
縦横3メートル程度の大きさの横穴なので一夜を過ごすには申し分ないだろう。
「さてと火でも起こした方が良いか」
ドサッと荷物を置いた俺は伸びをしながら言う。
「そうですねー。今の季節は夜は冷えますからね。じゃ早速牧の方よろしくお願いしますね?」
「はぁ相変わらず人使いが荒いこって。じゃあそこら辺で集めて来るわ」
俺はもう日が半分以上沈み暗闇に飲み込まれそうな森の中を牧を求めてさまよった。
10分程で牧を集め帰り俺は焚き木を配る。
そして片手に魔力を集中させ炎の魔術公式を組み立てる。
「《灯れ 昇華の炎》」
俺の掌から小さな炎が生まれ牧を点火させる。
炎は一瞬にして牧を包む。
大きくもなく小さくもないその炎はとても暖かく思えた。
「暖かい」
「ですね」
ルウとノアはパチパチと燃え上がる炎に見とれている。
そんなに珍しい事かな。
「早速料理と行きますか」
俺はカバンから干し肉を数個取り出し串に刺して焚き火の周りに並べた。
ジュワァと焼けていく干し肉の匂いにお腹を空かせた胃が発狂し始める。
俺は焼けた干し肉を二等分し、半分をノアに差し出した。
「ほれ焼けたぞ?」
「え、良いの?」
ノアは差し出された肉を見て驚きの表情を浮かべている。
「ん?何がダメなんだ?」
「だって今日初めて会ったのに、ご飯をくれる筋合いも無いのに」
「はぁ、んな事言ってないではよ食え。別に会ったのが初めてとか関係なくお腹空かしてる奴の目の前で食えるかって話だよ」
俺はノアの手に数本の干し肉を押し付けると受け取った彼女の目は涙で溢れていた。
「え、ええ!?どうしたんだよ」
「いや、嬉しくて…人に優しくしてもらった事なんて殆ど無かったから」
ノアは右手で目を擦り涙を拭う。
そして干し肉にゆっくりと齧り付いた。
俺はルウの方に向き直り干し肉を一本紙皿の置いて挙げた。
「ありがとうございます♪」
ルウも待ってましたとばかりに干し肉に齧り付いた。
俺もよく焼けた干し肉を頬張る。
ノアは初めて会ったハズの女の子なのに物凄く安心出来るような気がした。
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