第8話
「それじゃ、行ってきます!」
「気を付けてねー?」
「しろにぃ!行ってらっしゃい!」
翌朝、俺とルウはフィーナとイリアに見送られながらソルティーヤを出た。
冒険には少なからず興味はあったし、今から冒険に出るんだと思うと心無しか足も軽い。
「白。先にギルドに顔を出しましょうか、エイラさんにも挨拶しときましょ」
「そうだな。あの人にも結構世話になったし」
ルウは指をぴんと立てて提案するので素直に乗っておく。
半年前、俺がグリモア認定された時のギルドのお姉さんにはあれ以降かなりお世話になった。
モンスターの情報や冒険者としての基本知識は殆どエイラさんから教わったのだ。
俺はそんな彼女をとっても感謝してるし慕ってる。
「おはようございます」
ギルドのドアを開き、まだ朝早いと言うのにカウンターで一人書類の整理をしていたエイラさんに挨拶する。
「あ、白くんおはよう。今日はどうしたの?」
俺に気づいたエイラさんは手を止めて笑顔で挨拶を返してくれる。
「今日、始めての冒険に出ようと思うんです!」
「え!?もう、冒険に出るの?」
「は、はい。割と魔法も剣も覚えてきたので」
「そっかぁ…白くん。くれぐれも無茶しちゃダメだからね?冒険者は危険な仕事である事をしっかり肝に命じて置くこと!あと…ルウちゃん。白くんのサポート宜しくね?」
「もちろんです!白の思考回路は完璧に理解してますから危険なこともさせません!」
「なら、大丈夫か。街に帰ってきたらギルドに顔だしてね?」
胸を張るルウにエイラさんは安心した様な表情を見せた。
俺達はエイラさんに挨拶をしつつギルドを出た。
ギルドの前の通りを右に真っ直ぐ行くと街の外に出る為の門が見えてくる。
門番さんには要件を伝え、門を通らせて貰う。
「な、ルウ!初めはどこに行ったら良いんだろう」
「子供見たいにテンション高いですね。ハァ、えーっと。まずて始めにゴブリン狩りから始めますか」
ルウはやれやれと言った感じで俺の目の前を飛んでいる。
因みにゴブリンはこの世界で一番弱い部類に分けられるらしい。
「まぁゴブリンなんてどこに居るのか分からないですから適当に散策していきますか。道だけは迷わないようにして」
「おう!」
俺とルウは大きな道を外れて木漏れ日の美しい小さな道を進んでいく。
それにしても本当に綺麗な道だなー。
イリアとかが歩いたらきっと映えるんだろうなぁ。
小一時間歩くと茂みの奥からガサガサと音が聞こえてきた。
「白。あそこに何か居ますね」
「見たいだな」
俺とルウは慎重に音を立てないように覗き込むと一匹のゴブリンが何か動物だった物を貪っていた。
「ひっ…」
「ちょ、白!声出さないでください」
俺の悲鳴に気づいたのかゴブリンはゆっくりとこちらを向き、立ち上がって横に置いてあった剣を手に取った。
「白!一回逃げますよ!」
俺達は全力でその場から離脱した。
もっとも、ゴブリンも全力で追ってくる。
全力で走ってる間、ルウが大声で言ってくる。
「白!身体強化の魔法をまず自分に掛けてください!」
「お、おう!《命じられし血肉よ 湧き踊れ 能力強化》!」
この半年間何度も練習したその魔法の呪文を唱え、強化する脚力などの力に均等に魔力を振り分ける。
すると、体が一瞬淡い青色に包まれる。そして、自分の体とは思えない位に身体能力が上がった。
「白!あの開けた場所で向かい打ちますよ!」
「分かった!」
身体能力強化でスピードも上がったので少しずつ差が開いていく。
開けた場所の中央の辺りまで行き、振り返り、背中に刺していた漆黒の剣を抜き放った。
「さぁ、来ますよ!油断は禁物ですからね!」
「分かってるよ!」
俺はゴブリンに向かって駆け出した。
それに反応しゴブリンも剣を構える。
「おらぁ!」
突っ込んだ勢いをそのままに全力で刺突を繰り出す。あと少しで当たる瞬間にゴブリンは身体を反らし、剣筋から逃れる。
それだけでも驚きなのだがゴブリンは身体をその場で一回転させ、勢いをそのままに切りつけてきた。
「痛って…」
幸いゴブリンの剣は頬を少し切り裂いただけだったがゴブリンはバックステップなどを駆使して俺の鳩尾に頭突きを食らわしてきた。
「ぐっ…この野郎!」
吹っ飛ばされかけた俺は必死で体勢を整え、体に染み付いた動きで剣を振り抜いて行く。
ゴブリンにカスリはするのだが一向に致命傷にはならない。
「なら、これならどうだ!《全てを焼き尽くす 烈火の炎よ 炎帝の牙》!」
炎属性の付加魔法を唱え俺の剣に魔力を流し込む。
漆黒の剣に青色の線が通ったかと思うとその刀身は真っ赤な炎に包まれていく。
「食らえや!このカス野郎が!!」
ゴブリンに肉薄し炎に包まれた剣を斜めに振り下ろす。
しかし、それはゴブリンにカスリもせずに虚空を切り裂いた。
またもバックステップで避けられたのだ。
「何で当たらないんだ!?」
「白―!ゴブリンはスピードに長けてるので攻撃力重視の炎属性は簡単に避けられます。なので、スピードの速い雷属性を使ってください!あと、身体能力強化を脚力に全振りしてください!」
少し離れた所からルウが的確にアドバイスを飛ばしてくれる。
俺は言われた通り身体能力強化の魔力配分を脚力に全振りする。
そして炎の付加魔法を解き、雷属性の付加魔法を唱え始める。
「《天雷を司る 雷神の理》」
黒の刀身に炎の代わりに青色の電気が纏い始める。
雷は炎に比べて攻撃力が劣るもののスピードは格段に上らしい。
俺は切りつけてきたゴブリンの剣を弾いたり避けたりしながら攻撃の隙を伺う。
スピードを上げたため手傷を負うことは少なくなってきた。
長いこと打ち合っていると、少しバテてきたのか一瞬ゴブリンの動きが鈍る。
その隙を見逃すほど俺も落ちぶれてはいない。
「はぁぁぁぉぁぁぁぁぁ!!」
後ろに跳ねた俺は身体を一瞬屈め、バネの要領でゴブリンに向かって突進する。
そして、雷を纏った剣を突き出す。
剣はゴブリンの心臓に吸い込まれるように突き刺さる。
「グ、グギャァァァァァァァア」
ゴブリンは断末魔と共にその場で霧散し、先程までゴブリンが居た所には小さな一つの虹色のエーテルが落ちていた。
「ハァハァハァ。あぁ、疲れた。」
その場で崩れ落ち、肩で息をする俺にルウが近づいてきた。
「お疲れ様です。初めてにしてはなかなか良かったんじゃ無いですか?」
「なぁゴブリンってほんとに最弱モンスターなのか?こいつら知能持ってたっぽいぞ」
初めは分からなかったがゴブリンは打ち合ってるうちに少しずつ俺の剣筋を読んできていたのだ。
「当たり前ですよ。ゴブリンだって生きてるんです。成長だってしますよ」
そう言ってルウは俺の腰のポーチから傷を治すポーションとガーゼを取り出し、少しポーションでガーゼを濡らし頬の傷の治療をしてくれる。
「こんなのじゃ絶対に魔王とか倒せないな」
笑う俺にルウも笑いかける。
「まだ初めてですからね?それに白に課せられたのはイリアの親代わりですから。魔王の討伐は他のチート持ちの召喚者に任せればいいんですよ」
「召喚者?それって転生と何が違うんだ?それにそんなにいっぱい異世界人って居るもんなのか?」
「召喚者って言うのは白の様に死んで転生して来たんでは無くて、生きたままこの世界に召喚された人たちの事です。召喚された人たちはそれぞれ高い魔力や身体能力、時には固有魔法を持ってる事も有るらしいですよ?」
「はー、なるほどねーそりゃチートだな」
どうせなら召喚者としてこの世界に来たかったな。
無双して俺TUEEEEとか男の憧れじゃん?
「あと、異世界人が居るのかって話ですが勿論沢山居ますよ。それも地球以外からも沢山。」
「ち、地球以外?」
ルウはコクリと頷く。
「一つの天界を中心にいくつもの世界に分かれて存在してるんですよ。いわゆるパラレルワールドってやつです。」
「そのパラレルワールド間を移動することは頻繁にある事なのか?」
「そうですねー。割といる方じゃないですかね。この世界のエルフ族とかは元々この世界の種族じゃないですからね」
「まじか!?」
転生者が一族作り上げるとか考えられないな。それぐらいお互いの世界は昔から何かしらの干渉があったのか。
それにしても地球にはそういった人達を見たことないな。
「地球は人数が多すぎるので天使様が転生させるのを躊躇ってるって聞いたことありますよ?」
「お、おう。そうなのか」
久しぶりにルウに考えていることを当てられて少し戸惑う。
「よしっ」と気合を入れ直した俺は立ち上がり、さっきのゴブリンのエーテルを拾い上げる。
虹色に輝くエーテルは小さいながらも引き込まれる魅力を備えている。
「これでいくらぐらいなんだ?」
エーテルをルウに見せる。
「えーっと、この大きさですと…だいたい1000R位ですね」
「あれだけの死闘をしといてたったの1000Rなのか…」
俺はガックリと言った感じで肩を落とす。
「そんなに落ち込まないで下さいよ!次からはゴブリンは素早く狩れると思いますし、モンスターのレベルが上がればエーテルの価値も上がりますから」
落ち込む俺を全力でルウが励ましてくれる。
それから俺とルウは合わせて5体のゴブリンを狩って街に帰ってきた。
エーテルの換金とエイラさんに報告をする為にギルドに顔をだす。
「エイラさん!今帰りました!」
カウンターに居たエイラさんは俺に気づいて奥から出てきてくれた。
「白くん!おかえり。どうだった?初めての冒険は」
エイラさんは素晴らしい笑顔で出迎えてくれる。
「慣れるまで大変ですけどゴブリン位は問題なく対処出来るようになりました!」
「凄いじゃない!初めてでそれは凄いよ!」
まるで自分の事のように喜び、褒めてくれるエイラさん。
この人に出会えて本当に良かった。
「換金まだでしょ?換金所はあれだから行ってらっしゃい?」
「はい!」
エイラさんに従い換金を済ませた俺とルウはエイラさんに挨拶してギルドを出た。
「本当にいい人ですね。彼女は」
ルウもエイラさんの人柄を褒めてる。
「うん。エイラさんが担当してくれて本当に有難いよ」
「新人の教育なんて大変ですのにね。白は恵まれてますね」
ルウはくすくすと笑う。
夕焼けに赤く照らされたその笑顔は半年間ずっと一緒に過ごしてきた俺にも凄く可愛らしく見えた。
「ルウもいつも付き合ってくれてありがとうな」
「そんな、良いですよ。私も好きで白やイリアの傍に居るんですから」
そんなことを話してると見慣れたソルティーヤの看板が見えてくる。
夕方から夜の切り替わりなのでお客さんがじわじわと集まって来てるみたいだ。
「「ただいま〜」です」
ソルティーヤのドアを開けて俺とルウは揃って口を開く。
「おかえりなさーい!」
まだかまだかと待っていたのかイリアが飛びついてきた。
お腹にスリスリと顔を擦り付けてくるイリアを抱き上げ、頭を撫でてあげる。
ほんと、癒される。ラファエル様転生させてくれてありがとう!
「おかえり〜二人共」
いつもの給仕姿のフィーナが笑顔で言ってくれる。
「ただいま。」
俺も笑って答える。
「え、白くん怪我してるじゃん!大丈夫なの!?」
フィーナが頬についた怪我に気づいて心配してくれる。
「そんなに深刻な顔をしなくて大丈夫だよ。ちゃんと治療もしたから」
フィーナがあまりに深刻な顔をしてるので吹き出しそうになりながらフィーナを安心させる。
「荷物置いて風呂入ってくるわな」
そう言って俺は荷物を部屋に運び、イリアとお風呂に入った。
湯船は今日一日の疲れを全てを取ってくれるような感じがしてとっても気持ちがよかった。
そうして、初めての冒険は幕を閉じた。
大変だったけど割と楽しかったな。
夜のソルティーヤはガヤガヤと喧騒に飲まれたままだ。
それからあんな事が起こるなんて俺は考えもつかなかった。
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