第7話
よく晴れた青空。優しく照らす太陽。
このルーラの街もいつもと変わらず活気に満ち溢れていた。
俺がこの世界に転生されてから約半年が経った。
半年間、本当に地獄と呼んでも過言でないくらいの魔法の勉強と武器の鍛錬を積んだ。
魔法職なのになんで武器の鍛錬が必要かと思うだろうけど、グリモアになる為には必須科目らしい。
なんてったって直接攻撃魔法が無いからな。
(因みに剣は昔、王国の騎士だった親方に教えて貰った)
そしてついに!俺は初めての冒険に出ることになったのだ。
ソロでの冒険だから万が一の為にも色々装備しとかないとだめだから、ルウの指示の元色々な店を回っていた。
「白、あとは武器くらいですね」
「そうだなー色々買ったし後はそれぐらいだろうな」
俺は鎧代わりに着ている冒険者用の服に身を包み、見た目の割に沢山の物が入る腰に巻着付けるタイプのカバンに今買った様々なポーションの類をしまっていく。
「白は結局剣とナイフのどっちを使うんですか?」
「んー、将来的にはどっちも装備しておきたいけど今は片手剣で良いかな」
俺とルウは最後の目的地である武器屋に向かって歩き続ける。
しばらくすると、目的の武器屋が見えてくる。
「いらっしゃいませー、今回は何をお探しで?」
店のドアを開けるとオジサンの店主がいきなり声をかけてきた。
「あ、いや。その、片手剣を探しに来たんですが…その安めのヤツを」
少し尻込みながらもそう答えると店主は俺の服装を流し見して一瞬顔をしかめたかと思うと
「すいません。お客様、今安めの物は全て出払ってしまってまして。またのご来店をお待ちしてます」
俺はグイグイと押され、店の外に追い出されてしまった。
「…………………………」
「アレですね。白の服装でお金が無いと判断された見たいですね」
「…………ふざけんなよ!剣が変えなきゃ冒険にすら出られねぇだろうが!!」
「私に当たられてもどうにも出来ないですよ」
さっきの店主の言動にふつふつと苛立ちが湧き上がってくる。
「まぁまぁ、他の武器屋に行きましょ。武器屋はここだけじゃ無いんですから」
ルウがなだめてくれるのを聞いて怒るのもめんどくさくなった俺は頬をパチンと叩いて吹っ切る。
するとそこに一人の気の強そうなお姉さんが近づいて来た。
「あんた得物さがしてんのかい?」
「はい。まぁそうですけど…お姉さんはどなたですか?」
お姉さんはそうだったと言いたげな表情をして
「あたしはメルヴィってんだ。ここの近くで鍛冶屋をやっててな、武器が欲しいんだったらうちに来な」
そう言ってくれる彼女は真紅の髪の毛を胸の辺りまで伸ばし、つり目の瞳が何ともカッコイイ雰囲気を出していて、なお大きな胸を持つその体は鍛治師ならではと言うかとても薄い目に毒な服装をしていた。
するとメルヴィさんは踵を返しスタスタと歩き始めた。
俺とルウも置いてかれない様にメルヴィさんの後に続く。
俺は小声でルウに耳打ちする。
「鍛治師のオーダーメイドって高いんじゃ無いのか?」
「そうですね。相場で言ったら絶対に払えませんね」
「どうすんだよ!ローン組むしか無いじゃねぇか」
「まぁ武器なんて良いのを使った方が良いに決まってるんですから。ローンぐらい問題ないですよ」
そんな事を話してるとメルヴィさんの鍛冶屋に着いたらしくメルヴィさんは荷物を店の奥に放り込んでいた。
「さてと君、名前は?」
「あ、白。三奈坂白です。」
「ふーん。白か。じゃあ白。得物は何が使えるんだい?」
メルヴィさんはハンマーを用意したりと着々と準備を始めていく。
「一応片手剣を使うつもりで…あ、その今そんなに持ち合わせ無いんですけど…」
するとメルヴィさんは振り返って軽く笑顔を見せた。
「お金のことは気にすんな。あんたが働いてるソルティーヤの旦那には昔世話になってね、ある坊主に一本打ってやってくれって頼まれちまったからには手は抜かないし安くしとくよ」
それを聞いて俺とルウは顔を見合わせ、ガッツポーズをする。
「打つのに時間かかるから汚いけど中で待っててくれるかい?」
メルヴィさんがそう言うので俺とルウは店の奥に上がらせてもらう。
店の奥は…うん。綺麗とは言い難い状態だったので俺とルウで手分けして掃除する事にした。
時間もあるし、何より少しでも恩返ししないとだめだからな。
数時間が経って家の中の片付けがあらかた終わった頃、火事場からメルヴィさんの声が聞こえてきた。
表に出ると、机の上に一振りの片刃の片手剣が置かれていた。
「わぁ、これは黒と言うより漆黒ですね」
ルウが言うようにその剣は見たことのない位に黒かった。そして黒い割に鈍く輝き、その存在感を放っていた。
「ほら、軽く振ってみな?」
メルヴィさんに諭され、俺はその漆黒の剣を手に取った。
するとその剣にいきなり1本の青色の線が通った。他の武器を持った時より魔力がスムーズに剣に流れている事が実感できた。
「メルヴィさん。こ、これは?」
「お、成功見たいだね。それはしっかりと魔力が伝わってるって証拠さ。グリモア用に魔力伝導性の高い金属とスピードが出る様に軽めの金属を錬成したんだよ」
「なるほど。ありがとうございます!」
俺はメルヴィさんに深くお辞儀をする。
メルヴィさんは顔を崩し、近づいてきて俺の頭に手を乗せた。
メルヴィさんは結構長身な方なので160後半の俺と少し身長差がある。
「いいってもんさ。また、近々よろしく頼むよ」
俺とルウは剣のお代を精算しソルティーヤへ帰路に着く。
装備も揃った事だしいよいよ明日始めての冒険に出発だ。
背中に斜めがけしてる剣はもはや自分の体の一部の様な気がした。
ソルティーヤに着いた頃、外はもう日が落ち街灯に照らされ昼間とは違った夜の賑わいを見せていた。
「おかえりーーー!!」
ドアを開けた途端イリアが飛びついてきた。
俺はイリアを優しく受け止め、抱き上げる。
「ただいま、いい子にしてたか?」
「うん!」
イリアは満面の笑みで返事をし抱きついてくる。
たった一日とはいえ寂しい思いをさせたかもしれないな、俺も大分寂しかったけど。
イリアの頭を撫でていると奥からいつもの接客姿のフィーナが出てくる。
「おかえりー2人とも!イリアちゃんめちゃくちゃ偉かったんだよー?店のお手伝いも自分からしてくれたし」
フィーナが近寄ってきてフィーナの頭を撫でる。
イリアも気持ち良さそうに目を細めている。
「あ、そうだ。フィーナ、俺とルウで明日初めての冒険に出るからまたイリアの事頼んでもいいか?」
「勿論だよ!イリアちゃん賢いし、可愛いからお客さんのアイドルなんだからね?」
フィーナも嬉しそうに笑みでを作る。
「あんた達ー。もうすぐお客様も来る時間だから先にご飯食べちゃいなさい?」
奥からリサさんが顔を覗かせる。
俺達は親方の美味しい飯を食べてその日は早めに寝る事にした。
コンコン
夜も更けて月明かりが街を照らす頃部屋の中に扉をノックする音が響いた。
「…はーい?」
俺は緊張で眠りが浅かったのでそのノックで少し目が覚めた。
「私、フィーナだけど。今大丈夫?」
俺は眠い目を擦りながら横で寝ているイリアを起こさないようにベットを降り、扉を開けた。
「どうしたんだ?こんな夜更けに…怖い夢でも見たのか?」
「そ、そんなのじゃない!…ちょっと話したかったから」
フィーナは少し俯き加減でそう告げてくる。
ここで追い返すのも可愛いそうなので店の三階にあるベランダに出て話を聞いてあげることにした。
ベランダに出ると冷えた空気が頬を撫でた。
「白くん…明日冒険に出るんだよね」
「まぁね」
フィーナはゆっくりと話し出した。
「私ね実を言うとあんまり白くんには冒険に出て欲しくは無かったんだ」
「ん?」
「だってね、冒険者って一番危ない仕事なんだよ?普段からお店で働いてるから分かるの…時々誰々が亡くなった。とか聞くんだよ。だから、だからっ…」
フィーナは堪えていた涙を我慢出来ずにポロポロと零しだした。
そっとフィーナの頭に手を乗せてやると、フィーナは俺の胸に顔を埋めてきた。
「絶対、絶対っ死なないでね?白くんは…私の、私のお兄ちゃんみたいな人なんだからっ」
「大丈夫だ。俺は絶対に死なないし、死ねない。フィーナやイリアを残して死んだら女神様に怒られちゃうからな」
「ふふっ、白くんそれって死亡フラグって言うんだって聞いたことあるよ?」
「全力で回避する様に頑張るさ」
それから少しの間俺はフィーナの頭を撫でてあげていた。
東の空が薄らと明るみを帯びている。もうすぐ、朝がやってくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます