第7話「冒険開始!」
「え? 付いてきてくれるの?」
怒ってたんじゃないのかよ。
「どうしても、付いてきてほしいならね! 仕方なくよ。私は優しいからね」
なんか、少し悔しいが、構っていられない。
他に宛てなんてないので、ここは姫花の気が変わらない内に引き込んでおこう。
「あーもう、是非お願いします。姫花が付いてきてくれたら俺、めちゃくちゃうれしいぜ」
「へえー、そんなに私と一緒に行きたいんだ? 全くしょうがないわね」
「よし、そうと決まれば早くこっちこい!」
「キャッ! なんて強引なの……そんなに私が……」
俺は姫花の手を取り、サハポンの所へ強引に連れて行った。
何か姫花は呟いているが、今は周りの姫花ファンが茫然としている内に逃げるに専念だ。
正気を取り戻すと何をしてくるか分からんからな。
「ということで、こいつが俺たちの新しい仲間、橘 姫花だ。通称フラワープリンセスらしい」
「わあ! 姫花さん! よろしくお願いしますね」
「よろしくね! ……じゃ、ないわよ。この女は誰よ柚木!」
「ああ、こいつはサハなんとかポンド、通称サハポンだ。一応元女神だぞ」
「サハクィエル・ポンドです!」
「そんなことはどうでもいいわ。どういう関係なのって聞いているの!」
「どういう関係って言われてもな。協力関係だよ。この世界を攻略してこいつが女神に戻れたら生き返らせてもらうんだ」
「はあ? あんた正気!? ムリゲーよこの世界」
皆、口を揃えてムリゲーって言うな。
そんなに厳しいのだろうか?
「あの、姫花さんと柚木さんはお知り合いなのでしょうか?」
空気を読まず、サハポンは姫花に対する興味を抑えきれないようだ。
「姫花はな、隣の家に住んでいた幼馴染なんだよ。でも俺たちが15歳の時、交通事故で死んでしまったんだ。まさかこんな所で再開するなんてな」
「この世界に飛ばされたということは姫花さんもゲームが好きだったんですか?」
「そうそう。こいつ、ずっと家でネトゲばっかやってたよ」
「え、柚木知っていたの? こっそりやっていたのに」
「お前、ゲームやるときカーテン閉めろよ。俺の家から丸見えだったぞ」
「うう……。 で、でもそのお陰でこの世界では中々強いわよ!」
どういうことだ? この世界では前世のゲーム時間に強さが依存するのか?
しかし、それならば何故サハポンと俺にこれだけの初期ステータス差があるんだ。
「私、全然ゲームなんてやってないですけど、柚木さんより強いですよ」
「確かに。というかなんであんた達レベル1なの?」
「これは話すと長くなるんだが……」
死因や頭のおかしいダーツ事件、FPS世界をクリアしたこと。
そしてこの世界へ飛ばされたことなどのこれまでの経緯を姫花に話した。
「あ~なるほど。だから初心者の街に逆走したいなんて言っているのね……」
「お前は俺が1日でFPS世界をクリアしたことを驚かないのか?」
「まあ、あんたならねえ……。死ぬ前もFPSばっかりやっていたじゃない。
でも、そのせいでFPS向きの力ばかり手に入れてそんなHPとMPになったのかしら。最低レベルよ」
マジかよ……。最低レベルときたか……。
しかし、この話からすると、俺が優れている能力もあるみたいだ。
そっち方面で成長していけばこの世界でもなんとかなるだろう。
「まあ、仕方がない。攻撃なんて当たらなければHPなんていらないし、銃を利用すればMPなんていらないぜ! 俺はこの世界でもガンマンになるだけだ」
「このMMOの世界に銃なんて見たことないけど」
「嘘だろ……」
「これはいくら私があんたをサポートしても初心者の街まで辿り着くのは困難かもね。
HP50って……下手すると一撃じゃない」
「ぷぷぷ~。 柚木さんザコですからね! 私はHP200でMPなんて3800ですよ! 最初から物が違います」
「でも、サハポンさん? あなたも初心者だからそのMP全く使えないわよ」
「………」
「やっぱり商人とか、そっち系になるしか……」
「ああ、プレイヤーは全員冒険者で商人とかそういうのは全部NPCよ。モンスター倒して稼ぐしか生きる術はないわ。まあ、私くらい可愛ければ別だけど」
やっぱり乞食として生きていくしかないのかなあ……。
「それでも俺は蘇り、本物のゲームがしたいんだあああ」
姫花が今まで姫プレイで蓄えた財産にあやかり、俺とサハポンは宿に泊めさせてもらった。
その晩ゆっくり考えたのだが、この変な森に囲まれた街で乞食として一生を過ごすくらいなら、死ぬ気で職を掴みに冒険へ出る方がマシという結論に行きついた。
「いくぞ、サハポン、姫花! 俺たちは冒険に旅立つのだ」
「待っていました柚木さん! 私も女神に返り咲きたいです。乞食なんて嫌です!」
サハポンは喜んでいる。
辛く、危険な冒険になるだろうが、この笑顔には救われる。
「いくぞ、例え危険や困難が多く降り注ぐ無謀な冒険であろうが、俺たちは超えてみせるぞ!」
「いや、冒険って私、来た道を帰るだけなんだけど……」
「そこ! 水をささない!」
俺とサハポンは姫花のプレゼントコレクションからいくつか武器をもらい、
(しかし、初心者がつけられたのは木の棒としょぼい剣しかなかったが)
ついにエリニアから旅立った。
「いい? この辺りの適正レベルは60前後よ。 しかも本来は魔法耐性も必要なの。
あんた達はレベル1。しかもどんな耐性を持っているのかも初心者の街でもらうはずのステータス確認書がないから分からないし、論外よ」
「ははは、さっそく挫けそうだぞ~」
そういう大事なことは街を出る前に教えろよこのアホ。
と、言いたい気持ちは山々だが付き添ってくれなくなったら困るので言わない。
「兎に角、敵を見つけたら逃げる! 私は攻撃魔法はそんなに得意じゃなくて、耐久勝負型だから戦闘になったらあんた達、その間に死んじゃうからね」
「ふふふ、大丈夫さ。俺たちには必殺フラッシュバンがある」
「は? なにそれ、レベル1で使える技なんてないわよ」
呆れ顔になっている姫花。
ふふふ、俺たちが今まで生き残ってきた術を舐められては困る。
「見せてやるぞサハポン、お前の磨き上げたフラッシュバンを」
「だから、フラッシュバンじゃ無くて、後光です!」
むむ、そんなことを言っている間にこの祭囃子の音……。
10秒後に右方の草むらから敵が!
「今だあ! 右にフラッシュバン!」
「あ、はいっ!」
怒っていたはずなのに、条件反射で光ってしまうのは、悲しい逃亡生活のせいなのだろうか。
早速、その場で瞬く光を発した。
「え、何よその技。どうして使えるの?」
「こいつの元女神の残りカスだよ」
「え、本当に女神だったのね……」
「信じてなかったんですか!」
って、今回のモンスターはすげえ弱かったな。
初めてフラッシュバンだけで倒せちゃったよ。
人型のモンスターが倒れている。
……ん? こいつ、なんかおかしいぞ。
「うう……。ビックリしました。なんですかこの光」
倒れたモンスターは起き上がりながらそう言った。
「なあ、姫花。モンスターってしゃべるのか?」
「いや、今までそんな経験はなかったわ」
モンスターでないならば、こいつはプレイヤーということか?
いや、でもこいつはそれでもプレイヤーってことはないだろう。
だってこいつ、人間の姿をしているけど、明らかにおかしいところがある。
「耳、とんがってるよ。これ、エルフってやつじゃないのか?」
「私もそう見えるわ」
やはり俺の目の錯覚ではないのか。
姫花にもそう見えるか。
「あら、これは珍しい。エルフ族の方じゃないですか!」
サハポンはそう言った。
なんだ? エルフ族って?
Into The Game World!! 柚堂ゆゆ @yuzudo_yuyu
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