第6話「姫プレイはお好きですか?」
とりあえず、集めた情報を整理しよう。
ここはMMOの世界。
つまりこの世界の死はHPゲージがゼロになること。
そして俺たちは初期状態で何故か中盤マップにいる。
「これからどうすればいいんだ……」
「しっかりして下さいよ。柚木さん!」
柚木達は昨日の親切な魔導士のおじさんにお世話になり一日だけ魔法聖堂に泊めてもらった。
しかし、この先どうしたらいいのだろう。
「すまないな。ここは魔導士のための宿泊施設だから君たちを泊めるのは一日が限界だ」
「いえ、ご飯だけでなく宿まで用意してもらって助かりました」
「とりあえず、魔導士だけでなく冒険者が多く集まる集会所に行ってみるといい。
もしかすると、初心者の街へと逆走してくれる物好きもいるかもしれん」
なるほど、そんな場所があるのか。そこに望みを託すしかない。
「おじさんが付いて来てくださいよ~」
お、サハポンいいぞ。言い出しにくい事を簡単に言ってくれる!
「あ、それは無理。まじで面倒くさいから。そんな人絶対いないわ。
それじゃ」
「…………」
おっさんは突然手の平を返し去って行った。
そんなに、逆走することって面倒なのか。
「サハポン、落ち込むな。いい人はきっといるさ。集会場へいこう」
「そ、そうですね。きっといるはずです!」
柚木達は今いる街、エリニアの案内板を確認しながら集会場に向かった。
しかし、現実はとても厳しい。
「はあ? 初心者の街? いくわけねえだろ」
「お前らレベル1じゃん。どうなってんの? 介護とか無理」
「いくら払ってくれるん? は、ない? 帰れよ」
なんて冷たいんだ。これが現実か。
結局、人というものは自分に利益がない奴とは組まない。
分かっていたことじゃないか。まさに俺がそうだしな。
「サハポン……。この街で一生乞食として生活するのも悪くないよな」
「そんな生活嫌です~!」
レベル10になったら職業に就けると言っていたが農家とか商人なんてものもあるのかな?
もしそうだったら、アルバイトとかすれば生きていけるのか?
……そんな風に、悲しい未来を思案していると、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。
「みんな~今日もこの時間がやってきたわよ~! フラワープリンセス様のヒーリングタイムー!」
「ウオオオオオオオ! フラワープリンセスー!」
「姫~!」
「今日も俺たちにフラワーヒールを~!」
な、なんだあのやばい集団。絶対関わったらいけないやつだ。
「すごい、盛り上がりですね。何かのイベントでしょうか?」
サハポンは興味あり気にツインテールの女の子を囲んで大盛り上がりしている開場を眺めている。
「違うぞ、よく見ていろ。あれは『姫プレイ』とやつだ」
「姫プレイ?」
ツインテールの15歳くらいの女の子は、まるでアイドル張りの愛嬌を男共に振りまいている。
「みんな~。今日も強い強いモンスター達との闘い、お疲れ様!
そんなみんなに、今日も私のかわいいお花パワーの回復魔法をお届けするわ!」
「ありがとう~。姫~」
「いくわよ~。花の女神フローラよ、私に癒しの力を授けん。
フラワーヒーリング~!」
そう唱えると彼女の持つ杖から花が咲くようなエフェクトが発生し周りに群がる男共のHPを回復させた。
「ああ~。気持ちいいんじゃ~。ありがとう姫~。
今日も少ないけどこれを受け取ってくれ~」
回復魔法を受けた男共はフラワープリンセスを名乗る女の子にこれでもかとプレゼントを贈る。
そう、この構図こそまさに『姫プレイ』である。
「みんな、今日もありがとう。また明日ここでヒーリングタイムを行うから絶対くるのよ。
じゃあ今日は解散!」
そうして男共は解散していった。
「な、分かっただろサハポン。ああいうのは絶対に関わるな……って、ん?」
男共が去っていき、その女の子の顔が段々と見えてきたがあいつ、もしかして。
いや、久々で声もほとんど忘れていたが間違いない。
なるほど、それでフラワープリンセスね。単純だな。
「サハポン、ちょっと、俺あの女の子と話してくる。待ってて」
「え? 今、関わるなって言ったばっかりじゃないですか」
「まあまあ、もしかしたら初心者の街まで付いてきてくれるかも」
「マジですか! それは、行ってきてください。ナンパに!」
「ナンパって言うな」
俺は貰ったアイテムをせっせと鞄に詰めているフラワープリンセス様。
いや、橘 姫花(たちばな ひめか)の元へ歩いて行った。
「いや~。フラワープリンセスさん。今日も最高のヒールでしたね」
「なに? 今日はもう終わりよ。ルールは守って。時間外は話しかけないこと」
偉そうに。
アイテムを詰める作業も中断せず、こちらも見ないで返答してきやがる。
こいつも俺の声を忘れちゃったようだな。
「そんなこと言わないで、ちょっと付き合って下さいよ。姫花さん?」
「え、あんた誰? なんで私の真名を? って……柚木!?」
突然本名を呼ばれ、ツインテールを揺らしながらこちらを振り返ってきた。
なんだ、顔を見ればちゃんと覚えているじゃないか。
「よう、お前死んだと思ったら、こんな所で姫プレイしてたんだな」
「え、え……? なんであんたがここにいるの……?」
「まあ、俺も死んじゃってな。色々あって今ここにいるんだよ」
「そ、そう……。ねえ、もしかしてさっきの……見た?」
こいつ、顔真っ赤にしやがって。
なんでばれて恥ずかしい事をやっちゃっていたんだよ。
……まあこんな所で知り合いに会う訳がないと思うのは自然か。
でも、こいつは面白い事になりそうだ。
「見たぞ~。フラワープリンセス様の、フラワーヒール~。
お前、自分の名前が姫花だからってフラワープリンセスは安直だろ」
「う、うるさい!!! よくも、よくも……」
「そうだ姫花、俺さ今困ってるんだよね。レベル1でこんな所に連れてこられて。
よかったら初心者の街まで付いてきてくれね?
いや~、お前いて助かったわ。フラワーヒールで俺のこと守ってくれよ」
「………」
って、あれ?
なんか俯いて喋らなくなっちゃったぞ。
こいつもしかして泣いてね?
「柚木には見られたくなかった……。ぐす……」
その瞬間、俺の肩に明らかに憎しみがこもった力を感じる。
さっきの男共が掴んできやがった。
「なに姫様泣かせとんじゃあ、われえ?」
「一回死んどくか?」
こ、怖えええええ!
これはやばい。目がマジだ。怒らせてはいけないやつらを怒らせてしまった。
「す、すみません! そんなつもりではなかったんです!
姫花もごめん! 俺はもう去るから泣かないでくれ」
「待って」
このやばい場所から一刻も早く逃亡しようと、回れ右をした俺を姫花は服をひっぱり引き留める。
「ど、どうしても……」
「な、なんですか姫花さん。いや、姫」
これ以上、この男共の火をつける発言はやめてほしい。
そんな事を思っていたら予想外の言葉を姫花は俺に言い放った。
「ど、どうしてもって言うなら、付いて行ってあげなくもないんだからね!」
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