Game2『MMO』
第5話「戦場の次はサバイバルですか?」
「おいおいおい、スライムじゃん」
「かわいいですね。うわ、ぶにょぶにょしてますよ」
いや、そういうことじゃねえよ。
どうなっているんだ? ドロップアイテムの本を開いたと思ったらわけわからん森に飛ばされちまったぞ。
しかも謎の生物までいるし。
「残念ですね。ぶにょぶにょしているせいでクッションとしては使えません」
「いやいやいや、お前まずこの状況に驚けよ。なんか突然変な森にきちゃったんだぞ」
「えー、もうさっきのランホーさんの襲撃で驚くことに飽きちゃいました」
こいつ、大物だな。
俺は驚きっぱなしだよ。
「ていうか、なんかサハポンの頭の上に緑と青のバーとLV1っていう文章が浮いてるぞ。
元女神のなんかの技か?」
「わ、本当だ。でもこれ女神関係ないですよ。ていうか柚木さんも全く同じのが浮いていますよ」
「え、まじ? うわ本当だ。バーになんか数値も書いてあるな。緑が50で青が10……」
「うっわ~。柚木さん低いですね。私、200と3800ですよ!」
「べ、別に、こんな意味の分からん数値で負けた所でなんも悔しくないし!」
本当だもん。悔しくないもん。
……でも、本当に意味の分からない数値だったらな。
『ゲームクリア、次のゲームへ』と書かれた本を見た途端この変な生物が生息する森に飛ばされた。
そしてこの緑のバーと青のバー、LV1という表記ってまさか……。
「きゃあ!」
突然サハポンが衝撃音と共にこっちに吹っ飛んできた。
「どうしたサハポン!」
「いたた……。スライムとじゃれていたら突然体当たりしてきました……」
「確かに、なんかスライム怒っているな……。迫力ないけど」
「騙されてはいけません。結構痛かったですよ!」
まじか。さっきのランホーに比べて余りにも弱そうだから油断していた。
って、サハポンの緑のゲージが減少している?
「おいサハポン、緑のゲージがちょっとだけど減っているぞ」
「わ、本当です。5だけ数値が減っていますね」
おいおいやっぱりここってまさか……。
「これ、MMOの世界なんじゃないの……?」
「はい? えむえむおー? 」
「知らねえのかよ。MMOってのはな」
説明しようとしたその時だった、
「グルルル……」
「かわいい……オオカミさんですね」
「いや、全然可愛くねえよ! めちゃくちゃ狂暴そうだよ!」
ははは、こいつはヤバイ。そういえば俺はまだパンツ一丁のままでこの状況。
「サハポン、そーっと逃げよう。そーっと」
「そ、そうですね」
そうやって足音を立てず、刺激しないようにオオカミから距離をとろうとした。
しかし、FPSワールドから俺たちが何も食べていなくてお腹が空いているいるように、オオカミさんもまたお腹が空いていたのであろう。
「いただきまーす」と言わんばかりに口を開きながら走ってきた。
「ギャアアアア! きたあああ!」
「サハポン、いつものやつ!」
「あ、はい!」
サハポンは例のごとく、唯一の得意技である『ただその場で光る』を発動した。
彼女曰く『後光』らしいが、残念ながら女神スキルの没収の弊害で一瞬しか光れない。
しかし、なんとかこの場を潜り抜けるには効果はあったようだ。
オオカミは突然の光に目をやられその場で悶えている。
「ナイス! サハポン! いや、フラッシュバン!」
「誰がフラッシュバンですか! とにかく、逃げましょう!」
俺たちは逃げた。
森の中にはたくさんの獣や、謎の生物が潜んでいた。
足跡や木々をかき分ける音、鳴き声などを柚木が捉えて、なるべく生物の近くに行かないように進んだが、その数が多すぎてどうしても遭遇してしまう。
その度にサハポンの出番だ。
「いまだ! サハポン、フラッシュバン!」
「はいっ!」
「次、右から十秒後に飛び出してくるぞ。 3、2、1……今!」
「それきたっ!」
サハポンは光る。光り続けた。
その光で敵が寄ってきているような気もしたが、これしか手段がないので仕方がない。
そして、俺たちは行くあてもなく森を歩き続けた。
「お腹が空きました……。いつまで歩けばいいんでしょう……」
「俺もお腹ぺこぺこだよ! しかも、パンツ一丁だから日が落ちてきて寒いし!」
「光るのにはカロリーがいるんですよ! その分私のほうがペコペコです!」
「そういう仕組みなのかよ。なんか神秘的なやつじゃねえのかよ」
お互い空腹や疲労、精神的な疲れもあるだろう。
そのせいでピリピリしている。
「餓死なんて死に方だけは嫌です~」
「縁起でもないこと言うなよ……」
本当にその死に方だけは嫌だ。
こうなったらさっきのオオカミをなんとか捉えて食べるしかないか?
「柚木さん! あっちの遠くの方見てください! 木の上に家がありますよ!」
「うお、マジ! どこだ!」
本当だ。しかも一軒なんてもんじゃないぞ。
よく見るといっぱい建物が木の上やその周りに乱立している。
「助かった! 街っぽいぞ!」
柚木一行はなんとか森の中にある街にボロボロになりながらも到着した。
しかし、あまり歓迎はされなかったようだ。
彼はパンツ一丁なのである。
「きゃあああ! 変態よー!」
「魔導士さん達、この変態を捉えてー!」
「ま、まってくれ! これには深いわけが! それよりも飯を食わせてくれ!」
「変態乞食がいるわよ! しかもいたいけな女の子まで捉えているわ!」
「ぷぷぷ、柚木さん。……いえ、変態乞食さん熱烈な歓迎ですね」
突然わけわからん森にワープさせられて、死ぬ思いで辿り着いた結果がこれかよ。
神は俺を見捨てたようだ。
「これはなんの騒ぎだ? ……むむむ、なんで君はパンツ一丁なのだ!」
「いや、これにはそれはそれは深い訳があるんです」
「ていうより、君たちレベル1じゃないか! 何故こんなところにいる? どうなっているんだ?」
「とにかく、色々聞かねばならないようだな。 そんな恰好でここに居られても困るのでとりあえず魔法聖堂まで来てもらおう」
魔法聖堂ねえ……。やっぱりここはMMOの世界で間違いなさそうだ。
まあ、そんなことよりとりあえず、服と飯が欲しいなあ……。
「何から聞いていけばいいのやら……とりあえずその魔導服を着てくれ」
俺とサハポンはその魔導士を名乗るおっさんに付いていき何やら神殿みたいな場所に通された。
「ありがとうございます。あと、聞くもなにも、俺たち何も分からなくて」
「とりあえず、エリニア……といっても分からんかな、この街に辿り着くまでの経緯を教えてくれ」
「そうですね、どこから話しましょうか。まずはこのふざけた元女神のダーツ事件からですかね」
俺はゲームが原因の過労死した所からこの街に辿り着いた所までの経緯を話した。
「信じられん……。一日でこのムリゲー世界の1つのゲームをクリアするなんて……。でも確かにこれはゲームクリアの書だ」
「それでLV1でこのエリニアに異動してきたということか」
「やはり、ここはMMOの世界なのでしょうか?」
「その通りだ。そしてプレイヤーはLV10になり職業につくまで初心者の街を抜けることはできないシステムになっている」
「ここはエリニアといって、魔法職に就いた者が学びにくる場所なのだ」
グルルルルル……。
「お腹すいたあ……」
「サハポン!今、飯よりも大事な情報を集めているときだ!黙れ!」
「ハッハッハ、今夜は私が夕飯を奢ろう。食べながらでも話はできるだろ」
「でも、これからどうするんだい?お金もない、装備もない、LV1だからスキルもない」
「ピンチだね、君たち。いや1日で他のゲームを攻略した者だから余裕かな?」
「確かに、そうかもしれませんね。柚木さん、転生前ゲームばかりやってたそうですし、この世界でもうまくやれますよね!」
「いや俺FPSゲーマーだから、MMOはやったことないわ」
「え……じゃあこの先どうするんですか!!?」
どうするんだろうね。本当に。
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