コズミックスタンダード(読み切り版)

神島竜

第1話

コズミックスタンダード(読み切り版)

森田小春 日本 内閣総理大臣

クラウド・トンプソン アメリカ合衆国 大統領

王 徳賢(ワン ドゥシェン) 中華人民共和国 首席

アルトゥール・モギルニー ロシア連邦大統領

ヒューバート・リック イギリス 首相


日本から飛びだった自家用ジェット機の中で、一人の女性が眠っていた。

肩甲骨まで伸びた髪。145センチ足らずの低身長。日本人特有の童顔もあいまって、遠くから見ればそれは幼い少女のよう。されど、陽の光を浴びていない白い肌、目元に刻まれた薄いクマが、彼女が多忙な日々に身も心も磨耗して生きている一人の成人女性であることを物語っている。

彼女の名は森田小春、日本初の女性総理大臣だ。

小春は疲れ切ったようすでまぶたをとじ、頭を壁によりかからせて眠っている。しかし、深い眠りというわけにもいかず、ときおりうなされた様子で、小さな呻き声をあげ、眉間にしわをよせて眠っていた。

無理もない。ここ数ヶ月、日本は大変な状況にあったのだから。ただ、それは日本だけではなかったわけなのだが……

「小春さま」

自分の名を呼ぶ声がする。小春は、先ほど眠っているのがウソだったかのようにカッと目を見開いた。

声の方向を向くと、そこには自分よりも長身の女性がいる。彼女の名は真田薫、森田小春の秘書だ。

「お時間です」

「ん、ありがとう。今、何時?」

「午前7時でございます」

「そう、会見の時間には間に合いそうね」

「それなのですが……」

小春の言葉に、薫は言い淀むと、見せたほうがはやいと考えたのか、おもむろに備え付けのテレビの電源をつける。

『見てください! このジョン・F・ケネディ国際空港の滑走路内に座りこむ大量の人々! 今日の会見を中止にすべく対宇宙人強硬派が、空港を占拠したのです!』

テレビには空港に渋い顔で占拠する人々の姿が映し出されていた。

「他の空港は使えないの? 」

「他も同じような状況です」

「そう……」

大事な会見が迫っているのに、間に合わないかもしれないと聞き、かなり落胆されているのでは、薫はそう考え、顔を曇らせるも。

「今日だったのね」

と、つぶやく小春の声は明るく、淡々としていた。

まるで、そういえば燃えるゴミの日だったわね、と言いたげな。当たり前の日常的習慣を思い返すかのようなのんきな声だった。

「薫、このままトンプソンタワーの上に行ってくれる?」

「トンプソンタワーですか? お言葉ですが、このジェット機では着陸は不可能かと……」

「だいじょうぶよ、避難用のパラシュートがここにあるでしょ、これ使うから」

「え、スカイダイビングなんて、小春さまはしたことないではありませんか!」

「だいじょうぶ、わたしはすでに知ってるわ」

そう言いながら、小春はスカイダイビングの準備をはじめる。それはまるで、何度もやり慣れているかのようであった。



一人の男が、トンプソンタワーの屋上で空を見上げていた。

中肉中背で、高価そうなスーツも出っ張った腹の膨らみでいささか滑稽じみている。だが立ち姿は自信満々で、堕落しきった大きな腹を、まるで権力者の象徴だと言わんばかりであった。

男の名はクラウド・トンプソン。ニューヨークにある世界一有名なビル、トンプソンタワーの所有者にして、自由の国、アメリカ合衆国の大統領だ。

彼が見上げた先には、大きなジェット機が飛んでいる。そこから飛び降りる一人の女性。飛び降りた女性は、慣れた様子で、パラシュートを開け、ゆっくりとトンプソンタワーの屋上に着地した。

「空からの登場とは驚きだな。まるで忍者じゃないか」

「レディーにはもっと気の利いたことを言ってほしいわね」

「そうかい……たく、せっかく迎えに来てやったというのに」

「あら知ってたの? 奇遇ね、わたしもよ」

小春の言葉にトンプソンは肩をすくめる。

「オレのリムジンに乗るといい、会見の場所まで案内しよう」

そう言いながら、二人はエレベーターに乗り込む。

エレベーターは下へと降りていった。

「久しぶりだな」

「ええ、大統領選挙の時以来ね」

「まだ選挙が終わってもいないのに会いに来てくれたのには驚いたよ」

「あなたが勝つと思っていたわ」

「自信満々に言っても、お前は3番目だがな」

「……いやなひと」

エレベーターが一階で止まる。ロビーにはたくさんの警備員がこちらに敬礼した。

「時に小春、そのスーツはいくらだ」

「えっ? 五万円くらいだけど」

「政治家が、しかも一介の総理大臣が着るにしては安すぎるな」

「高いと文句を言う人がたくさんいるのよ」

「だが、それなら安心だ。このトンプソンタワーは有名人の住居だけじゃない、さまざまな商業施設がある。そこにはお前の気にいる服もたくさんあるだろう」

「それ、どういう意味?」

「こういう意味だ」

トンプソンはドアの前に立つ。自動ドアは開かれ、二人はトンプソンタワーの外へ出た。

べチャリと、遠くからなにかを投げつけられた。

それは卵であった。取り囲まれている警備員の包囲網から今にも飛びかかりそうな勢いで、多数の群衆が森田小春とクラウド・トンプソンを取り囲んでいた。

「地獄へ還れ差別主義者!」

「堕落にふける拝金主義者め!」

「間違った大統領に正義の鉄槌を!」

さまざまな罵詈雑言を浴びせながら投げつけられるホットドッグやアイスに卵。それらを浴びせかけられながらも、いつものことさ、と言わんばかりにリムジンに向かうその姿はまるでゴルゴダの丘をのぼる……いや、この比喩は危険だからよそう。

リムジンに乗り込むと、トンプソンは気さくに言った。

「終わったら、トンプソンタワーの商業施設を案内しよう。好きな服を買ってやるよ。汚した服の弁償がわりだ。もちろん、向こうで今着ているスーツと同じのも用意してやるよ。えーと、マツザキだっけか」

「アオキよ」

小春はため息をついた。

リムジンの備え付けのテレビからはニュースキャスターが怒鳴り声のように叫んでいた!

『見てください! このアメリカ国民の怒りの声を! アメリカ史上、ここまで国民に嫌われたアメリカ大統領がいたでしょうかっ! その男の名こそはクラウド・トンプソン! そう、お前だっ! トンプソン!』

「いただろうが……」

ニュースキャスターの声に、トンプソンはイラだちまじりにツッコむ。

『なぜアメリカの景気が悪いのか! トンプソンのせいだ!

大学で優秀な成績を残した若者が、なぜ雇用につけないのか! トンプソンのせいだ!

なぜ宇宙人がアメリカにやってきて、アメリカ全体が混乱状態にあるのかっ!

すべてはアメリカ大統領、クラウド・トンプソン! お前のせいだっ!

私、マイケル・ベアは偉大なるアメリカのために、クラウド・トンプソンに大統領の辞任を要求するっ!』

ニュースキャスターの言葉を小春は冷めた目で聞いていた。

「その偉大なるアメリカ国民が選んだトップを。わざわざトンプソンタワーの前で待ち伏せして卵をぶつけるって……どういう神経してるのよ」

「あんなの大勢のアメリカの一部にすぎんさ」

そう言って、トンプソンは肩肘をついてボヤく。

「オレに投票してくれた国民は、今のままでいいと考えてるヤツの視界にはうつらなかったような人々だ。今までないがしろにして来た彼らの民意をこんなの許せないとキレてやがるんだ。腹がたつったらありゃしない」

「あなたもたいへんね……」

小春とトンプソンを乗せたリムジンは目的地へと急ぐ。道中、待ち伏せされていたデモ隊に卵や罵詈雑言に浴びせられながらも進むリムジンの走りは、まるでとつぜんの夕立を走るかの如く悠然とした走りであった。彼らも、これが日常的なことだったかのように思いつつあるのだ。

されど、止まない雨はなくて、長い雨のむこうには虹が待っている。その確信を、目的地に向かう各国のトップたちは持っていた。


「おい、アイツ、ドゥシェンじゃないか?」

トンプソンが指をさすと、小春はゲェ、と会いたくないヤツに会ってしまったと言いたげな声をあげた。

リムジンは会見の場所としてトンプソンが用意した場所。トンプソンドームにたどりついた。地下の専用駐車場に続く裏口を通り抜け、リムジンを止めた先には一人の男が立っている。

その男、身長178センチメートル。トンプソンよりも頭一つ半くらい背が高い。顔は美形で微笑めばどんな女性も見惚れるだろうが、いつも戦場にいるかのような険しい顔をしている。服装も、軍服を着ている。

彼の名は王徳賢(ワン ドゥシェン)、中華人民共和国の主席である。

「よう、徳賢! 久しぶりじゃねぇか!」

「む……トンプソンか。久しいな」

リムジンを降りた先で、トンプソンは上機嫌そうに話すも、無愛想なままの徳賢。傍目からみると仲良く見えなさそうな二人であるが。じつは二人で食事に出かけたりすることはよくあり、そのつながりは厚い。

ひとしきり、トンプソンと話すと、徳賢は小春の方に向く。

「久しぶりだな」

「二週間くらいしか立ってないとおもうけど」

「あの後、なに一つ連絡してくれなかったじゃないか」

「しないわよ、ふつう。用があるならかけてくれば」

徳賢は顔を背けて、照れたように言った。

「どうやってかけたらいいか。わからない……」

「今のご時世に、スマホを使えないの?」

「ふだん、電話対応は秘書に任せているんだ……」

その言葉は苦いものをかみ殺すような悲痛そうな面持ちだった。徳賢は中国のかなり有名な大学を出ているが極度の機械音痴であった。

「携帯電話なら使えるんだ。しかしあのスマホというものは……わからなすぎる」

「言っとくが、ガラケーでもiPhoneに電話できるぞ」

「なんだとっ!」

トンプソンの言葉にカッと目を見開く徳賢。小春はくだらないとでも言いたげに足を早めた。

「待て、小春」

「なに?」

「そのなんだ……あの時はありがとう、お前のおかげで俺はとどまることができた」

「気にする必要はないわ。わたしはこう言えば解決するだろうと知っていただけなんだから。なにもしてないのよ。宇宙船への攻撃を止めたのはあなたよ。わたしじゃないわ」

「それでもお礼を言わせてくれ」

にっこりと笑う徳賢。記者、国民は彼がこんなふうに笑うなど知らないだろう。


「ウガァァァ!」

中年男性の甲高い声が響いた。

小春は声の方向を向くと。そこには腰を抜かして尻餅をついたトンプソンがいた。

「どうしたの、 トンプソン?」

「だっ……だれだっ、こんなところにイヌチクショウを連れてきたヤツはっ!」

 トンプソンが指をさして言う。みると、そこには大きな犬が二匹、そこにはいた。

「イヌチクショウとはヒドイな……」

 向こうの扉から、一人の男がやってくる。

 その男、始終猫背で、のそりのそりと背びれのついた怪獣のように歩く。それも致し方のないことなのだ。彼にとって、この室内は狭すぎるのだから。

 身長、200センチ。天井に頭がついてしまう以上、猫背の姿勢で歩かざる負えない。

 目元はくぼんで、死神のようだ。ゆえに、対面すると、天井から見下ろされるため、初対面の人はギョっとしてしまう。

 彼の名はアルトゥール・モギルニー。ロシアの大統領である。

「おい! モギルニー! 犬なんか連れてくんな! 前会った時に言っただろうか! 俺は犬が嫌いだと!」

「ああ、知ってるよ。だからあの時に連れてきたんだしね」

「あの会合に犬を同席させたのはわざとかテメェっ!」

 クマを思わせるような巨大な二頭の犬も彼から見れば小動物であろう。

 モギルニーは足をかがめて、わたしを見下ろす。

「久しぶりだな、小春……」

「といっても、二週間前くらいだったと思うけど」

「それでも会いたかったさ」


「そろそろ時間だな」

 トンプソンは立ち上がる。もう会見の時間だ。

「ちょっと待って、ヒューバートは?」

「アイツは後で合流するそうだ」

 その言葉を合図に、4人の首脳は会場へと向かった。


 トンプソンドームに、4人の首脳陣が立っている。

 左から森田小春、アルトゥール・モギルニー、クラウド・トンプソン、ワン・ドゥシェン。

 この四人が並んで立っている。

「二か月前のあの日、地球の12の国に12の宇宙船がやってきた」

 クラウド・トンプソンは意気揚々と語りだす。

「降り立った宇宙船は、あるメッセージを俺に伝えた。12の地域に存在する宇宙船、一つの宇宙船にはいることができるのは最初の5人だけだと」

「それを聞いた俺、クラウド・トンプソンは真っ先に宇宙船の宇宙人と最初に会って、話をした。

 NASAの学者や軍人、その他の有象無象が先に会わせろと言ったが。まずは俺だ。

 アメリカこそがだれよりも早く、トップが宇宙人と会うべきだと判断した」

「わたし、森田小春もアメリカに続いて、北海道に現れた宇宙船の中に入ったわ。

 さきにネット配信が趣味の歌い手、市長、自衛隊の隊員がはいられた後の4番目だったわ」

 小春の言葉にトンプソンは吹き出す。

「ボク、ロシア連邦大統領、アルトゥール・モギルニーもはいった。3番目だ」

「私、王賢徳も、2番目に入った」

「つまり、宇宙船にはいった人間は地球で60人いるわけだ。彼らのことを俺たちはファーストコンタクターと呼んでいる。彼らは、宇宙船で宇宙人と出会い、その姿に驚き、独自の言語によるコミュニケーションを行い、宇宙船内の異様な環境に戸惑い、宇宙に存在する知的生命体について、ある重大な情報を教えられた」

 クラウド・トンプソンは言う。

「俺たち、地球人類は今まで、一度たりとも地球外生命体に出会うことはなかった。だからこそ、俺たちは宇宙人は存在しない。あるいは俺たちが関わることのできないほどの遠くにいるのだろうと考えていた。だが、それは違った。我々は見守られていたのだ。数多くの惑星の知的生命体たちは俺たちの存在を知っていながら、ある段階に至るまで、地球と関わらない協定を取り決めていたんだ」

「その協定が、もうすぐなくなる」

「それは後、14年後のことだ」

「14年後、たくさんの惑星の地球外生命体が地球にやってくる。ある者は侵略のために。ある者は友好のために。ある者は貿易のために。ある者は宗教のために、わたしたちと関わろうとしてくる」

「その14年までの間に、我々はある力を手に入れなければいけない。その名こそが……」

 その瞬間、会場に爆発音がなる。

 突如、会場内に大量の軍人たちが、4人の首脳陣を取り囲む。

「両手を上げて降伏しろ! 宇宙人に洗脳された売国奴どもめ!」

 軍人の一人が首脳陣たちを怒鳴りつける。

 ロシアの大統領は深いため息をついた。

「対宇宙人強硬派か、まったく14年後に宇宙人がやってくるであろう今、うちうちで争っているヒマなどないというのに……」

「気をつけろ! モギルニーはガチでヤバイ!」

 長身の軍人たちが囲んでいるのに、一人、身体の半分が人ごみから出てきている巨人のような男に銃を持っているというのに軍人たちは威圧感を感じていた。

 そんななか、トンプソンは不快そうな顔で、小春にささやく。

「おい……小春、もしやお前知っていたんじゃないだろうな」

「もちろん……こうなることはすでに知っていたわ」

「女狐め……」

「いいじゃない。全世界で中継される中、テロリストに囲まれる首脳陣。今こそ、あの力をお披露目するいいタイミングじゃない?」

「なるほどね……」

「なに、こそこそしゃべってやがるんだ!」

 軍人の一人が銃を向けて怒鳴る。

 だが、圧倒的優位の中で武器を向けているというのに、その手は小刻みに震えている。

 恐怖しているのだ。

 彼らは武器を持っている。人数も多い。だというのに、彼らの落ち着いた様子はなんなんだ。

「おいおい落ち着けよ」

「へ?」

 軍人はとつぜん背後から肩をたたかれ、おもわずふりかえる。

 そこには金髪の英国人がそこにはいた。

「だれだ! いつのまにそこにいた!」

「おいおい、イギリスの首相に対して、それはねぇんじゃねぇの?」

 やれやれと言いたげに、彼はため息をつく。

 彼の名はヒューバード・リック。イギリスの首相だ。

「だまれぇぇぇぇぇ! 俺に近づくなぁぁぁぁぁ!」

 そう言って、軍人の一人がヒューバード・リックに発砲する。

 一発の銃弾が、ヒューバード・リックの眉間をつらぬく!

「殺った、と思うだろ」

 だが、銃弾に撃たれてもなお、ヒューバード・リックはニヤリと笑う。

「ぐぉう!」

 リックの背後の軍人が呻きながら倒れこむ。

 銃弾は貫いたのではなく、すり抜けていた。すり抜けた弾が、背後の軍人にあたったのだ。

「なんだと!」

 リックはちっちと舌を鳴らしながら、指を振る。

「まだまだだね、コズミックスタンダードの前では銃なんて旧石器時代の技術さ。

 宇宙で求められる戦闘能力、コズミックファイトの前では銃弾なんて紙屑も同然だぜ」

 そういうと、リックは右の拳を左手で包み込み、

「Haっ!」と叫ぶ。

 すると、どうしたことだろうか。

「ガっ!」「グハァっ!」「ゴボォ!」

 リックの周囲にいる軍人たちが、突如フっ飛ばされ、気絶するそれはまるで見えない拳で殴られているかのようである。

「クソ! 一番背の低い日本人を人質にとれ!」

 そう言って、軍人たちは森田小春にとびかかる。

「ふっ……甘いわね」

 軍人たちの動きをかいくぐり、そのうちの一人の頭をつかんで、ささやく。

「その動きはすでに知っていたわ」

「ギィヤァァァァ!」

 突如、小春の周りにいた軍人たちが苦悶の表情で悲鳴を上げた。

「宇宙との交流に置いて、言語というものはもはや意味をなさない。必要なのは自分のイメージを相手に伝える思念の力。これこそが宇宙全体の共通のコミュニケーション手段、コズミックコミュニケーション」

「クソウ! かくなるうえは!」

 そう言って、軍人の一人が小型のカプセルを首脳陣に投げつける。

 カプセルを地面に転がると、紫色の煙がドーム内に広がる。

「アメリカの軍部から盗んだ細菌兵器、俺たちもろとも死んじまえ!」

 そう言って、軍人の一人は高らかに笑う。だが、おかしい。毒の煙を吸い込んだはずなのに。死ねない!

「やれやれ、ダメじゃないか。一つしかない自分の命、大切にしなよ。ボクがウィルスがばらまかれた周囲の環境を支配しなければ、今頃、キミたちは死んでたよ?」

「支配っだと! ひとたびまかれたらアメリカじゅうに死をばらまく殺人ウィルスを支配だと!」

「宇宙には数多くの未知のウィルス、気候、環境がある。そんななかを悠々と歩くための力がある。これこそ宇宙で求められる適応能力。コズミックゾーンだ」

 そんななか、重低音が会場内に響く。

 トンプソンたちが音の方向を振り向くと。そこには巨大な機械がいた。

 巨大な球体に足が生えている。ゆっくりと足を動かしながら、巨大なガトリングをトンプソンたちに向けている。

「フハハハハ! これこそアメリカが秘密裏に研究していた軍用兵器だっ!」

「まったく、今更だが笑えて来るぜ。こんなしょーもない兵器をつくっていた自分にな」

 そう言って、トンプソンは軍用兵器に向かってすたすたと歩きだす。まるでそんなものなどガラクタもどうぜんと言いたげにだ。

「宇宙においては、自身の肉体を拡張させるロボットを誰もが持ち、動かすことができる。ただ動けと念じるだけでな。教えてやる、これこそ宇宙が求める大いなる力、コズミックアームだ!」

 そう言って、トンプソンはこぶしを握り締めて、軍用兵器に向けて、突き出す。すると目の前に巨大な腕が。鋼鉄のロボットパンチが何もないはずの無から生まれ、軍用兵器を貫いた。

「そっ、そんなバカな!」

「おとなしく降参することだな」

 軍人は突如沸いた声にあたりを見回す。そう、その声は大量だった。

 軍人たちは周囲を見回す。そこには大量の人が。王徳賢の姿をしたたくさんの人々が軍人たちを囲んでいた。

「広大な宇宙の中、そのすべての文化、知識を吸収するなら、一人では足りない。宇宙の知的生命体なら誰しもが持つ遠隔操作可能なもう一人の複製された自分。その名はコズミックアバター!」

 軍人たちはめまぐるしく変わる異常な事態に、立ち尽くす。

「ばっ……化け物どもがぁぁぁ!」

 その声は絶望に染められていた。

 その声に、トンプソンたちは肩をすくめる。

「まったく、何を言っているんだ。お前たちもこれをやるんだよ。戦闘技術、コミュニケーション能力、適応能力、ロボット操作、アバター精製。これぞ宇宙で求められる新たな常識、コズミックスタンダード。我々は、14年以内にこの力を十全に使わなければいけないんだよ」

 この時、地球で新たな力が人類全体に伝わった。戦闘技術、コミュニケーション能力、適応能力、ロボット操作、アバター精製、宇宙で求められる5つの能力。宇宙はそれをコズミックスタンダードと呼ぶ!

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コズミックスタンダード(読み切り版) 神島竜 @kamizimaryu

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