第23話「ポンコツぽぽちゃん」
「たんぽぽちゃん、とりあえず、こんにちは」
ぽぽちゃんの放ったメガトンパンチに面食らい、まるで永遠のように感じた一瞬の静寂。
なんとかそれをかき消したのは、俺の彼女(役)の瀬川さんだった。
「え、あ……、こんにちは部長。……じゃなくて、サスガノサンヲ、タラシコミヤガッタ、コノアクマメー」
はは、なんて棒読み。
手筈通りだよぽぽちゃん。でもな、タイミングも悪いし、何よりなんて大根役者だ。
「……佐須駕野くん。この子は一体誰だね? どうやら君にとても好意を寄せているように見えるが……」
ヒューゲルさんは俺にそう問う。
ほんとか? 本当にそう見えているのか?
この三文芝居は、さすがに無理があると俺は思うけど、ここは手筈通りいくしかない。
「ええと、この女の子は葵 蒲公英といって、その、僕の友人です」
「ハイ、ワタシハ、サッスガー……、サスガノサンノユウジンデ、サスガノサンヲ、アイシテイマス」
頼む、そのロボットみたいな喋り方をやめてくれ。
最初はもうちょいましだったのに、どんどん感情を失っていっている。
そんなに嫌か? 俺に片思いしているという役は!
……嫌だよなあ。
「……失礼だが、本当に君は佐須賀野くんに好意があるのかね? 様子が変だが……」
やばいよ。秒でばれ出してるよ。
演技下手すぎだよぽぽちゃん。
まず登場からおかしかったもんな。なんで今から映画を見るってこと知ってるの?
しかも映画の種類までさ。
確かにこの後そういう段取りだけどさ、もうちょい頭使ってくれよ!
◆◆◆
「絶対いやです! なんで私がサッスガーノを好きなんて振りをしなきゃいけないんですか!?」
さて、時はまたまた巻き戻り、部室にて作戦会議の時。
彼女役に瀬川さん、サポート役に香菜、そして足跡部最後の部員にも、もちろん役目が与えられた。
ぽぽちゃんの役目は『俺に片思いする女の子』。しかし、当然ぽぽちゃんはそれを拒否。
「考えてもみてよたんぽぽちゃん。不登校から一転、彼女ができたっていうのはすごいけど、もしかしたらマグレでそうなるかもしれないよね? でも、さらにもう一人、さすがの君を思う女の子がいたとしたら? ……それはもう、さすがの君の実力と認めるしかないよね」
「……そうなんですか? 部長がそういうならそんな気がします」
「そうなんだよ。ぽぽちゃんの役目はこの作戦の言わば、ダメ押し! いっしょに香菜ちゃんのピンチを救うんだよ!」
「うう……、香菜さんのためならがんばるしかないかもしれません……」
弱ェ! 簡単に瀬川さんに丸め込まれてやがる!
いやならもっと抵抗しろよ! この狂った作戦を止める人間は誰もいないのか!
しかたない。ここは俺が出張るか。
「ちょっとまった瀬川さん。ぽぽちゃんが俺のこと好きなんて振りをできると思うか? 絶対ボロがでる。危険だ」
「ムム! サッスガーノの癖に失礼ですね! できますよそのくらい。確かにサッスガーノのことなんてこれっぽっちも好きじゃありませんが、香菜さんのためならば、どんなこともできるのが私です!」
おい、せっかく助け船をだしてやったのに、お前が突っかかって来るのかよ。
これだから香菜狂は!
「たんぽぽさん、気持ちはうれしいですけど、何でもというのはさすがに申し訳ないです。本当に嫌なら無理しないでいただきたいのですが……」
「うう……香菜さん、なんて優しい。でも大丈夫です。私も香菜さんの役にたちたいんです!」
なんなんだよこいつ。
さっきまで絶対嫌とか言ってたくせに、その発言のほんの数分後には、絶対やってやるみたいな意気込みになってるよ。
「さすがだねたんぽぽちゃん。それでこそ足跡部の一員だよ。よし、じゃあ具体的にたんぽぽちゃんの役目を説明するね」
◆◆◆
そのとき与えられた役目をぽぽちゃんは今こうして果たしている。
果たしてはいるのだが……下手くそすぎだよ……。
「たんぽぽちゃん、部室で私がさすがの君と話してたデートプランを覚えてるなんてさすがだね」
く、苦しい、苦しいがナイスフォロー瀬川さん。
これで開口一番に、この後の俺と瀬川さんの予定を的中させるという、違和感バリバリな発言にも一応
説明はつく。……つくけどもさあ。
部室で、片思いしてる女の子を目の前にして、カップル同士がデートプランを話してるって、それどんな状況なんだ?
「むむむ……君達一体どんな関係なんだ?」
まあ、そう思うよね。違和感しかないよね。
どうするんだ? このままだと、全てがばれそうだぞ。
そうなったら、どうなるかなあ……やっぱり、アディオス香菜ということになるのかなあ?
「おっと一正さんに夏芽さんに、たんぽぽさん。それにヒューゲルさんまでいるじゃないですか。偶然ですね」
ここまで来てしまったら、もうどうにでもなれということなのだろうか。
事態はさらにカオスになっていく。
登場したのはさっきのフードを深く被った女の子にして我がメイドの香菜だった。
「わあ、香菜さん! いつもと全然違う服装だったので、気づきませんでした! こんにちは!」
さっきまでの感情を失っていたぽぽちゃんとは一転、ぱあっと明るい顔になって香菜の登場に喜ぶぽぽちゃん。
お前のへまのせいで、こんなことになってるのに、呑気なもんだな!
なんて、突っ込みができるほど冷静にはなれない。
ついに香菜まで出張って来たぞ。足跡部、全員集合じゃねえか。
「こんにちは、たんぽぽさん。たまたま買い物をしてたら皆さんに出会うなんて。何やってるんですかー?」
急展開についていけない俺を差し置いて、香菜と瀬川さんの即興アドリブが開始する。
「えっとね、一正くんとデートしてたら丁度たんぽぽちゃんと出会ったところだよ。そうだ、せっかく香菜ちゃんとも合流できたことだし、こうなったら足跡部みんなで映画見ようか?」
「わあ、映画ですか? いいですね! 足跡部四人全員でなんて素晴らしいです」
「お、香菜ちゃんさすがノリがいいねー! たんぽぽちゃんと、一正くんもそれでいい?」
「お、おう……」
突然の展開に俺は生返事で応えるしかなかった。
「もちろんですー! 香菜さんと……イッセイサントエイガミレルナンテ、ウレシイデス」
ぽぽちゃん、急に役を思い出してロボットに戻るのやめてくれ。
もうお前は無理するな。
「さあ、そういうことなんでヒューゲルさん。ぼく達は失礼させてもらいます。さあ皆さん行きましょう」
そう言い残すと香菜は、俺達を急かしてさっさとヒューゲルさんの前から退散させた。
……なるほどなあ。香菜が出てきたときはやけくそかなと思った。
そうじゃなくて、考えてもやばい状況だったから、力業でうやむやにしに来たわけかあ。
「ナイス香菜ちゃん。さすがに私も終わったかと思ったよ。ナイスフォロー!」
「いえいえ、夏芽さんのアドリブのおかげですよ。しかも私達が同じ部ってことをさりげなくヒューゲルさんに伝える辺りさすがです」
「これで、たんぽぽちゃんの違和感マックスの発言に、少しはカバーできてればいいんだけど……」
「ヒューゲルさんは察しのいい人ですので、きっと大丈夫ですよ!」
はー、やっぱりこの二人スペック高えなー。
あんな混乱状態でそこまで考えて行動してたなんてな。
「いやいや、何かよく分かりませんが、何とかなんてよかったです!」
「良かったですじゃねえよぽぽちゃん! ほとんどお前がへましまくったせいだろ!」
そもそもなんで、ヒューゲルさんがいるタイミングで出てきたんだよこのポンコツ!
「ふん、サッスガーノもほとんど何もしてなかったじゃないですか」
「う……まあそうだけど……」
確かに俺もぽぽちゃんが出てきたあたりから、あわあわしてるだけだった……。
この審査はあくまでも、俺がどれだけしっかりできているかを見ている。
これ以上へましてる場合じゃない。
……そんなことより、全員集合で映画見に行くのかあ……。
いつの間にか終わっちゃった俺の人生初デート……。
メイド界からこんにちは! 柚堂ゆゆ @yuzudo_yuyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。メイド界からこんにちは!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます