第2話

 二つ下の咲ちゃんは、昨年の新歓シーズンに俺がこのサークルに引っ張り入れた子だ。一緒に歩いていたとびっきり美人を誘ってくるように先輩に言われ、声をかけたのだ。

 彼女自身は特別美人でもなく、不美人でもない。まぁどちらかというと可愛い方だとは思う。ただ、いつも超美人の友達にくっついているから、彼女の引き立て役になっているのは否めない。

 だけど俺は、そんな二人にさして興味はなかった。美人だろうが可愛かろうが、いたって真面目そうな二人だったから。

 女なんて可愛がって愛でて遊ぶだけでいいと思っていた俺は、ちょっと遊んでる感じの軽い女としかつきあわなかった。後腐れないつきあいができる女たちとへらへら遊んでいるのが楽だった。

 だから真面目ちゃんな彼女との接点なんて、最初の半年はほとんどなかった。勿論同じサークル内にいるんだから、全く話をしないわけではないけど。せいぜい挨拶とか、連絡事項を伝えるくらい。



 そんな咲ちゃんと個人的に言葉を交わすようになったのは、夏合宿の肝試しでたまたま引いたくじの相手が彼女だったから。

 暗がりの中、懐中電灯の灯りを頼りに出発してしばらく歩くと、彼女は急に立ちどまった。


「先輩。後ろから琴音さんが来るの、待ってもいいですか? 彼女、すごい怖がりなんです」

「え? 男女ペアだから大丈夫だろ?」


 って答えたのに、俺の返事を聞くより前に、待つだけじゃなく後ろへと駆けだしていた。仕方なくついて戻ると、懐中電灯の灯りですらわかるほどガチガチに固まっている琴音ちゃん。


「大丈夫だよ。琴。一緒にいるから怖くないよ」


 そう言って咲ちゃんが手を握ると、あからさまにほっとした顔になる琴音ちゃん。


「俺、立つ瀬ないじゃん」


 苦笑しながらペアの相手である俺の悪友、かなめが頭を掻く。


 まぁ確かに、自分が側についているのに、女友達が来た方がほっとした顔をされたんじゃあな。


 それにしても。

 いつも凛としている琴音ちゃんに、おっちょこちょいの咲ちゃんの方がついて回って面倒をみてもらっているんだと思っていたら、なんと咲ちゃんの方が男前だったとは。怖がる琴音ちゃんを守るように歩く姿に驚いた。


「先輩たち、内緒ですよ?」

「何が?」

「琴の弱点、誰にも言わないでくださいよ?」

「怖がりってことか?」

「そ、琴はしっかり者のクールなイメージでいなきゃダメなんですから」

「どうして?」

「いろいろあるんですよ。女子からは可愛い子ぶってるって苛められるし、男子は庇護欲が掻き立てられて、とか言って寄ってくるし」

「でも俺たちは知っちゃったけど……可愛いよねぇ? 琴音ちゃん」


 なんて言ってみると、びしっと指差されてしまった。


たつき先輩はぜぇ~ったいに駄目ですからね?」


 俺は黙って首を竦めてみせた。

 そんな風に軽口をたたきながら歩いていると、琴音ちゃんも少し怖さが紛れるようだった。ぴったり咲ちゃんにひっついてはいたけど。それに対して、咲ちゃんは全く怖いもの知らずのようだ。楽しそうににこにこ笑っておしゃべりしている。人は見かけによらないもんだ。

 だけどそれも彼女の強がりだって途中で気づいた。内緒にしたいみたいだったから黙っていたけど。


 

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