第1章1話キオク喪失?
目を覚ますと、草木が生い茂る森のような場所にいた。
木と木の間から眩い光が差し込んでいる。
体を起こして、あたりを見回す。
「何で俺、こんなところにいるんだ?」
いくら思い出そうとしても何も思い出せない。
夢から覚めた時の感覚に似ている。
そして忘れるはずのないことを忘れていることに気づくのだった。
「て言うか俺、誰だっけ?」
*****
見たことあるような無いような道を進んでいくと、集落らしき建物が見えてきた。
外装はレンガのようなもので作られていて、中世ヨーロッパに建っていたような建物が並んでいた。
中世ヨーロッパって何だっけ?
とりあえず、行ってみれば何か思い出すかもしれないと思い、歩き出した。
少し歩いていくと、集落の門が見えてきた。
これもまたレンガのようなもので作られていて、門前には屈強な男が2人ほど立っていた。
「止まれ」
片方の男が俺を止めた。
黒い顎ヒゲを生やしているのが特徴だ。
「見ない顔だな?どこからきた?」
「思い出せないんだ」
「ほう、そうか、それで本当のところ何なんだ?まさか、ルイス王国の奴らか?」
男は明らかな警戒の眼差しで俺を見た。
「ルイス王国?」
俺は首を傾げる。
「嘘をついているようには見えないが、念のためだ」
男はそう言うと、ビー玉のような光り輝く玉を手のひらにおいて、俺に向き直った。
「もう一度聞くぞ?ルイス王国の奴らか?」
「だから何だよそれ」
俺が答え終わると、光り輝くビー玉は青色に変わったのだった。
「おお、どうやら本当らしいな、おーい、門を開けてくれー」
男がそう言うと、もう片方の男が何やらブツブツと言った後、右手を門に触れた。
すると、門は勝手に動き始める。
見た限り、機械的な仕掛けがあるようには思えない。
「す、すげえ力」
「お前、もしかして魔法のことも忘れちまったのか?」
「魔法?」
「ああ、詳しいことは村の中心にあるギルドに行って聞いてくれ、こう見えても俺たちは忙しいんだ」
「そうか、ありがとな」
俺は門を後にして男に言われたギルドを目指して歩き始めた。
村の真ん中に真っ直ぐに惹かれた道なのに、人が全くと言っていいほどに居なかった。
まるでこの世界に俺だけしかいないような錯覚に陥る。
しかし、建物には洗濯物などがかけてあり、生活感を醸し出している。
人気のない大通りを進んでいくと、大きな建物が見えてきた。
よく見るとその建物の入り口付近に人だかりができている。
皆何かを食い入るように凝視していた。
俺も大衆に紛れ、前線へと進む。
ようやく、大衆の半ばほどにきたところで、大衆が凝視しているものが見えた。
それは......
「なんだよ、これ」
そこにあったのは、牛と豚と人を混ぜたかのような生物の死骸だった。
そいつは服をまとっていて、俺の2倍ほどの大きさをしていた。
俺は近くにいた女に声をかける。
「これは一体なんなんだ?」
「魔物よ、魔物。またでたんですってねー、怖いわー。でも、ギルドの人たちが倒してくれたから一安心だわ」
「魔物?」
そんなものがいるのか。
気分が悪くなった俺は、大衆の隙間を縫うように外側へと向かった。
そしてギルドと大きく記載された建物へと入る。
*****
ギルドの中は酒とタバコの匂いが混ざった不快な臭いが漂っていた。
そこにはタバコや酒に似合う屈強な男たちが群れていた。
なぜか俺は生理的にこういう所が嫌いならしい。
奥に進んでいくと、金髪のウエイトレスさんが俺に気がついた。
「いらっしゃいませー!」
「あ、あのー」
「お食事ですか?宿泊ですか?それとも......わ、た、し?」
なにこの人、欲求不満なの?
俺が黙って心の中で突っ込んでいると、横に座っていた大柄な男が話しかけてきた。
「その辺にしときな、エリちゃん、困ってるだろ」
「そうね、ふふっ、ごゆっくりー」
エリちゃんとかいうウエイトレスさんはそう言い残して他の客の元へ食べ物を届けに行った。
残された俺はなんとも気まずい空気の中、思い切ってこの大柄な男に尋ねることにした。
「あ、ありがとうございます」
「そう固くなんな、にいちゃん、俺はアザルってんだ、見た所この辺のもんじゃねぇな?」
「そうなんだよ、実はキオク喪失なんだ」
「そりゃあ大変だな、それで何が知りたいんだ?」
そう言ってアザルは頭を前に出す。
「えっと、魔法について知りたいんだ」
「ほう、それじゃ、街の外れにあるボロ屋を訪ねてみな。ここをでて右に真っ直ぐいくとつくはずだ。ついたらアザルから聞いたとだけ言ってくれ」
「色々とありがとな、お礼といっちゃなんだが、今度何かおごるよ」
「そいつぁ楽しみだな」
アザルは大きな声で笑った後、再び酒を飲み始めた。
俺はギルドを後にして、街の外れにあるボロ屋へと向かった。
*****
「うわぁー」
俺は思わず声をらしてしまった。
ボロ屋と言って、まあ雨漏りがするくらいの建物と思っていたら、もうすでに崩れかけている木造の家だった。
ドアに手をかけて引こうとすると、木と木の擦れ合うなんとも不快な音が響いた。
なんとかドアを開けて、中を覗く。
「すみませーん」
ボロ屋の中は本が山積みにされていて、家というか物置のような空間になっていた。
その山積みにされた本と本の隙間から白銀に輝く髪の毛がのぞいていた。
恐る恐るのぞいて見ると、そこには本の間に敷かれた布団に眠る、少女の姿があった。
白いワンピースを着て、大きな本を抱えて眠っている。
一定のリズムで奏でられる寝息、それだけで俺の心を落ち着かせる。
まるで天使の如きこの少女がこの家の主であるのだろうか。
しばらく見とれていると、少女は大きなあくびを一回して、目を擦りながら目を覚ます。
そして俺の顔を見る。
「うわぁ!」
少女は俺に驚いたのか後ろに倒れてしまった。
「大丈夫か?」
俺は少女の手を掴み起こす。
少女の手は小さくて、柔らかかった。
「えっと、アザルに言われて着たんだが」
少女は少し考えたあと、何かを思いついたように俺に向き直った。
「お腹減りましたー」
おいおい、考えてたんじゃねーのかよ。
仕方なく俺は残りの食材で料理を作ることにした。
*****
「美味しかったです!」
「そりゃ良かった、でも少し食べ過ぎやしないか?」
2、3人分の料理を作ったつもりであったが、少女はそれを数十分もかからずに食べてしまった。
「ところで、貴方はなぜここに居るのですか?」
「ああ、魔法について知りたくてな」
「そうなのですか、では少し待つまっていてください、ご飯を作ってもらった代わりに魔法を教えてあげます!」
少女はそう言っておくの部屋へ走って行ってしまった。
白と黒の異世界伝説 皐月☆良いことある。 @Ryuta
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