そして終章

「まさくーん…」

「うっわ、びっくりしたー。おはよう! どうしたの? たまちゃん」

「おー。はよ、ってか婚前外泊は許さないって言ったのに…」

「ご、ごめん。ごめんってば」

「伏御、外泊じゃない。まさきは城に住むことになったのだから」

「それでもまさくんは家の子です!」


 翌日。目の下に隈をつくりじっとりとした目で見てくる、校門の手前で待ち伏せしていたたまきに。今日は牛車ではなく歩きで登校していた王子さまとまさきはきょとんとする。そういえばそんなこと言ってたなと弓削朔月は顎の下に手を当てる。美羽琴乃はわたわたとそんな2人を見ていて。

 校門の近くで挨拶週間のために挨拶していた犬居湊は、登校してくる生徒たちの注目を集める集団に何事かとそちらを見る。


 王子様に学生服を着た美少女(男)にお世話係たちに校内一の不良である。見ない方がおかしい。

 そして、おもむろに美少女を「まさくん」と呼んだたまきにぎょっと目を剥く。しかも話している内容が「婚前外泊」「城に住む」と言ったある種不穏とも言える単語たちにも。

 まさきたちに近づいてきて、挨拶をする。


「おはようございます、みなさん」

「ちっ」

「あ、おはようございます! 湊兄ちゃん!」

「…おはよう」

「おはようございます」

「おおおおはようです」


 声をかけて、学生服を着た美少女から返ってきた言葉が、「湊兄ちゃん」だったため、あ、この子まさくんだ。さっそく変なのではないものの引っかかっちゃったんだと絶望にも似た気持ちを味わいながらも引きつりそうになった頬をなんとか持ち上げて笑顔を見せる犬居湊。


 そんな犬居湊をじっと見ては不機嫌そうに頬を膨らませた王子さまは昨日まさきが犬居湊に抱きつかれたことをいまだ根に持っているらしい。王子さまは案外嫉妬深かった。だが、ぷうっと膨らんだ白い頬に、可愛い仕草にぼーっと見とれている生徒たちを発見して犬居湊はため息をつきたい気持ちを押し殺しながら王子さまたちに言った。


「おはようございます、予鈴5分前なので教室に急いでください」

「本鈴前に入れりゃいいじゃねーか」

「そういう問題じゃないよたまきくん。本来なら先生が来る前に教室にいるものなんだから」

「そうだよ、たまちゃん。先生待ってなきゃ」

「だよねー、俺もそう思った」


 内心王子さまにまさきを、可愛い弟をとられた気分になっていた犬居湊はそんな顔をしたいのはこちらだと思いながらもそれを口にせず。しかし突っかかってくるたまきにはしっかりと言い含めるものの、まさきの1言であっさり言を翻すたまきに若干イラッとする。今日は朝からストレスフルな日である。


 そのまま校門から学校へと入っていった王子さまたちの背を見ながら、晴れて気持ちの良い青空に。そっとため息をついたのだった。

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王子さまの婚約者は○○○です!? 小雨路 あんづ @a1019a

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