閑話

「あのー、真季の旦那。あっしは何故正座をさせられているのでしょう?」

「お前、コヨイに俺の情報を売ったらしいな」

「ギクッ。あー、いえ、ですがね、真季の旦那。それがあっしの商売でして、それを咎められたら、あっしは明日からどうやって生きていけば良いんでさあ。さめざめ」

「情報とは伝え方によって、その意味を変えるものだ。お前、コヨイに俺の事をなんて伝えた?」

「……あー、そのぉ、真季の旦那は霧島篤の浮気調査をしていると」

「それで?」

「そ、そのぉ、浮気とは何かとコヨイっちに聞かれやしてね。あっしは、えー、家庭を崩壊させる悪の所業と伝えたんでさあ。そ、そしたら、コヨイっちは、何を勘違いしたのか、真季の旦那こそが霧島夫婦の家庭を破壊する悪の権化であると思い込んだようでして……ま、まあ、コヨイっちは世間に疎い所がありやすんで、許してやってくだせえ」

「ああ、分かっている」

「ほっ……」

「お前は許さんがな」

「うおおお~ん! お許しを! どうかご慈悲を! 悪気はなかったんでさあ!」

「お前のせいで、ウチの事務所の備品がいくつもダメになった」

「も、もちろん、弁償させて頂きやす!」

「それに俺は命を狙われた」

「そ、それにつきましても、責任は取らせて頂きやす。ですから、この命だけはどうか、どうか……!」

「待て、お前は俺をなんだと思っているんだ?」

「え、金の為なら人をも殺す冷血漢かと」

「そうか。……実は最近、銃を使う機会がなくて腕が鈍っていてな」

「なーんて言うのは風の噂で、あっしは真季の旦那の事を聖人君子その人と、常日頃から尊敬しているんでさあ!」

「フ、分かっているなら良い」

「あの~、ところで朱美の姐さんの姿が見えないんですが、もしかして先日、廃ビルを破壊してしまったことに関係あるんですか?」

「ああ」

「あちゃ~。建造物損壊どころか全壊ですもんねぇ。でも幸い、破壊したのは使われていない廃ビルでしたし、朱美の姐さんも故意的に破壊したわけではないですから、その辺りの酌量込み込みがあれば、あっしのポケットマネーでもなんとか……」

「いや、そこは気にする必要はない。朱美が破壊した廃ビルの管理者にはがあってな。あれは解体工事によるものであり、故に朱美には一切の責任が及ばないように脅し……手を回してもらった。もちろん、向こうのでな」

「うわぁ……流石は真季の旦那でさあ。あれ、じゃあ朱美の姐さんは一体?」

「それを朱美に話したら『それじゃ向こうに悪い』と言いだしてな。今、直接謝りに行っている」

「へぇ~。朱美の姐さん、律儀っすねぇ」

「頑固なだけだ。……噂をすれば帰ってきたな」

「マッキー、ただいまー! あ、ナギさんもこんにちは!」

「どうも、お邪魔してやす。ところで朱美の姐さん、その両手一杯の菓子袋はどうしたんですか?」

「あ、うん。この前あたしね、力加減間違えて廃ビルを壊しちゃったんだよね。そのことで管理者さんに謝りに行ってたんだけど、そしたら何故か逆に感激されちゃって。それで帰りにこんなに沢山、お菓子を貰ったんだ。あまりの勢いに断り切れなくて……あはは」

「あー、まあ、真季の旦那の冷徹非情な脅迫の後に、朱美の姐さんの明るさは、さぞかし心に沁みたでしょうね……って、真季の旦那。銃に手を回すのはやめてくだせぇ!」

「まったく……。そうだ朱美。せっかく菓子を貰ったんだ、皿を出せ。俺はコーヒーを用意する」

「はーい!」

「あ、あっしも手伝いやす、朱美の姐さん!」

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黒瀬特訪探偵事務所~探偵と脳筋超能力女子高生と宇宙人妻~ たいちよ @Taitiyo

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