終わりの始まり
昔、パパと兄と3人で行った河原で
とても大きなくじら雲を見た。
小学校の教科書で読んだくじら雲を思い出して
私はぴょんぴょんと飛んびはしゃいでいた。
パパは必死に携帯のカメラにおさめていた。
兄はどんな顔をしていたか覚えていない。
今思えば、3人でどこかに行ったのはあれが最後だった気がする。
小学5年生に上がってすぐ、ママとパパは離婚をした。
ママはネットで知り合った水戸に住むおじさんと再婚をするから、
私について来てほしいと言った。
兄は中学校に上がったばかりで
引っ越すのは嫌だからと、パパについて行くことになった。
私は少し迷ったけれど、
「あっちに行ったら一軒家に住めるのよ。
もしかしたら犬を飼ってもらえるかも」
なんてママが言った誘惑に10歳だった私はまんまとひっかかり
ママと一緒に水戸に行くことになった。
引っ越しの日まであっという間に時間は流れていった。
引っ越し当日、見送りに来た結愛は泣いていた。
パパは最後まで笑顔だった。
兄は見送りには来なかった。
「ママのことよろしくね」と、パパはいつもの優しい手で私の頭を撫でた。
駅にはネットで知り合ったあのおじさんが待っていた。
今日からこの人がお父さん。
「今からママのことはお母さん、この人のことはお父さんって呼ぼうか」
そうママは言った。
もう、ママではなくなっていた。
「お母さん…お父さん…うん!わかった!」
お母さんもお父さんも私も笑顔だった。
2005年5月、まだ肌寒い湿った風が吹いていた。
終わりが始まった瞬間だった。
ちいさいころのおはなし。 humu @humu0519
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