嵐の前の静けさ

いくつもの岩を跳び越えると、眼の前に真っ白な雲が迫ってくる。


「えーい、雲が邪魔で前が見えない!」


カーリンは不機嫌そうにそう叫ぶと、左手に魔力を練り上げ眼前の雲にぶん投げた!


「うおりゃあ!」

バスッ!ちゅどーん!


魔力弾は派手に弾け、爆風が雲を吹き飛ばす。すると、散った雲の向こう側に、平らな巨岩でできた、試練の舞台となる頂上が見えた。


「よーし、頂上が見えた!」


カーリンは、今度は嬉しそうにそう叫ぶと後ろを振り向き、戦いの前に魔法弾を使ったカーリンを、少し呆れ顔で見ていたフィクに、満面の笑みで話しかける。


「ほら、はやくしないと置いていくよ?」

「・・・そこまで僕に差をつけられないだろ。」

「うー、確かにそうだけどさ・・・」

「あと、これ以上魔力を使わないでくれよ?戦いの前に消耗しない方がいいだろうから!」

「・・・はーい。」

「よし!」


フィクは少し怒ったが、内心ではとてもわくわくしていた。




頂上の巨岩に登ると、大きな生き物と1人の男がそこに居た。


「うむ、よくぞここまで登ってきた。リジマッハに登った者で、俺の知っているなかでは、2番目のはやさだったぞ!」


会って突然褒められた。


カーリンは、少し驚きつつ父に聞き返す。

「えっと、そんなにすごいはやさだったかな・・・」

「ああ、とてもはやかった。父さんは感心したぞ!」

「えへへ・・・」

カーリンが、恥ずかしくも嬉しそうに照れ、頭をかいている。が、フィクはなにやら訝しげに首を傾げ、父を見た。

「・・・父さん、そもそもこの山に登った知り合い、そんなにいないだろう?」

「ぎくり。」

「そして、1番はやく山を登った人って、父さんのことでしょ?」

「ぬ・・・バレたか!」

オトロスは手を頭にやり、ヤラレタ!という仕草をしてみせた。


「・・・もう、父さんたら。褒めてくれたと思ったら、ただの自慢話じゃないの!」

「はっはっは、つい、ついな?」


ひととおり話をした後、カーリンは大きな生き物を仰ぎ見る。

「・・・そこにいる生き物が、聖獣なのね?」

「ああ、聖獣ベヒモスだ。」

「大きくて、とても綺麗な生き物だなぁ・・・」

「ふふふ、だってよベヒモス?」

『む・・・なんだか照れるではないか。』


突然、聖獣が喋った!

ベヒモスは、

カーリンとフィクは、驚いて顔を見合わせる。


「あれ?言ってなかったかな・・・。聖獣ベヒモスは、人語を理解するんだよ。」

『むう?驚かせてしまったか。これは済まない。』

ベヒモスは、煌めく一本角を揺らして勇者候補たちを覗き込み、カーリンと目を合わせた。

「・・・!」

カーリンは、喋る聖獣にいきなり目を合わされたためか、驚いて硬直しているようだ。

「・・・へぇ、すごいもんだな。かの勇者の娘、カーリンをビビらせるとはぐふっ!」


フィクがおどけた刹那、するどい突きが飛んできた。


「ビビってないもん・・・」

「わかった。わかったから・・・僕のみぞおちを連打しないで・・・」


この様子を、勇者と聖獣がみていた。勇者は、子供たちを見守る目で。聖獣は、これから戦う相手を見極める目で。


そして、戦いの時は訪れる・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

光と闇の冒険譚 大魔王キーフ @daimaou_keef

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ