回り回って。

@IrisforU

第1話 揺蕩う心の何とやら。

はた,と目が覚め,ぼんやりした意識の中,

少しの倦怠感と腰辺りの重みと,人肌の温もりを感じた。

ぼやけた視界を晴らそうと眼鏡へ手を伸ばし少し身を捩り手を伸ばすと,

ぐい,と引き寄せられて,腕の中へ戻された。

-どこへ行くの?

とどこか寂しげな,甘えるようなハスキーボイスが聞こえて,昨夜の出来事を思い出した。


その日は会社で嫌なことがあった。

今日は金曜日、

一人暮らしの私には家で待つ家族もいない。

人肌が恋しかったのかもしない。

私はいわゆる「セクシャルマイノリティ」

というやつで、会社では絶対にバレないようにしているが、恋愛をする対象は性別をいとわない、「バイセクシャル」。

それが同僚へバレてしまったのである。

«ヤケ酒でも飲もう。»

そんな気分だった私は、

職場から少し離れ、

家と反対方向の未踏の地へ足を進めていた。

ふと、目に付いたのは

おしゃれな外観のバーだった。


-からんころん


と、小気味よい音がして

私の足を奥へと勧めた。


__いらっしゃい。

どこでも好きなところへ座って頂戴。


そう声をかけられた私は、小さくぺこ、

とお辞儀をするとカウンター席へ腰掛けると

少しキツめのをひとつ、と注文の声を上げた

__初めまして..

と、少し掠れたハスキーボイスが聞こえ、

そちらに顔を向けると、

黒髪のセミロングくらいの髪を後ろで結った柔らかい笑顔のガタイのいい男性がこちらへひらり、

と小さく手を振っていた。


«可愛い人だなぁ...»


心ではそう思っていていたが、

こんばんは、おひとりなんですか?と彼に聞こえる程度の声で一言返した。


__ええ、今夜は約束も無いので1人ですね、


私は少し哀しそうな顔をした彼をじぃ、

と見つめていたらしく、


__何かついてます?


と、恥ずかしそうに頬を撫でた。


__なんで笑うんです、もう。


ぷく、と頬を膨らませた彼の言葉で、

私は笑っていたんだ、と気づいた。

上司のミスを擦り付けられ、挙句自分のセクシャルをカムアウトする暇もなくバレた事にため息をついていたのが嘘のようだった。

«ありがとう»と一言告げると、

心底不思議そうな顔をして、

__どういたしまして、?

とよく分からないと言った顔をしていた。

彼とは長い間話をした。

彼は実はトランスジェンダーで

心は女なのだという事や、

先日彼氏と別れたなどと言う話をした。

家も近くだということを知った。

仕事で嫌なことがあったという事の経緯を話すと、自分の事のように悔しがってくれた。

私はバイセクシャルで、

あなたの事が気になっている。

という旨を告げるとまた驚いた顔をして、

__実は私も...

と呟いていた。

バーのマスターは驚いたような顔をしたが、

ようやく出会えたのかもね、と優し笑顔で祝福の意を伝えていた。


そして意識は冒頭へ戻る。

下着はつけておらずバスローブを着ている。

隣を見ると、

彼が気持ちよさそうに寝ている。

腰に抱きついてむにゃ、と声を上げる,

笑顔の彼を起こす様なことは私には出来なかった。

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