ミズナラとクヌギ

しゃかにゃ

ミズナラとクヌギ

冬を前にしたボクはてんてこ舞い。

落ち葉を駆けて、ドングリを探しにミズナラにいく。ほんの数日前までダラダラしてたはずなのに曲が変わって、体よりも先に足が走っていくみたいだ。

ミズナラのドングリは最高とはいえない。クヌギみたいな高級品はボクには手が届かない。そう、むしろ食べ慣れたミズナラがボクにピッタリだ。

きょうもミズナラが待っているあの場所まで走っている。クヌギを横目に、いつかはクヌギで部屋を埋め尽くすんだ、と意気込んで駆け抜けていった。

……今日のドングリはまあまあの出来だ。

大きいものは近くの仲間達が持っていってしまっているので、小さいドングリを口いっぱいに放り込む。こんな所までわざわざ遠くから来ているボクにとっては小さいものをいっぱい運べた方がかえって好都合だ。

「そうかミズナラはキミが育てていたのか」

ふと話しかけてきた彼はここに住んでいるのだろうか、いつもせっせと運ぶ姿を見られている気がして、すこし恥ずかしくなった。

「キミが運んだソレは、小さいながらもこの大きなミズナラの一部だ。たった1粒でいい。キミが住んでいる所で埋めなさい。来年には必ず強くて大きな葉をつけるだろう。」ボクの目は見ずにそう言った彼は「明日もまた来なさい。」と言って帰っていった。

ボクには彼が悪い人には見えなかったので、来年には大きな葉をつけることを期待し木の根元にこっそりと埋め、落ち葉をかき寄せて埋めたドングリの近くで眠ることにした。

いつものようにミズナラを迎えにいく。

彼を見かけることはあれ以来なかったが、明日もまた来なさいという彼のいない言葉にコクリと頷いて、飽きもせずひたすらミズナラに会いに行った。雨の日も風の日もクヌギが大きな音を立てて落ちてきても、せっせと運び続けた。

ボクはふと見上げた。土から双葉がこちらを見ている。ボクはこの気持ちが何を表しているのか、すぐには分からなかった。走っているのはボクで、それを待ってくれている双葉がいる。それはココロがゆっくりと解けていくような、落ち葉にはない温かさで包まれていくような心地がした。


頬に詰め込んだ幸せを、ウチまで運んで生きている。いつか大きくなる温もりを温め続けて春を待とう。








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ミズナラとクヌギ しゃかにゃ @gnaw

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