第26話
渡米から半年が経ち、遂に一号井がガス貯蔵層に達するという一報を受け、採掘業者は勿論、日本の商社だけでなく、金融アナリスト、マスコミがイーグルフォード鉱区に集結した。
巨大な鼠色の重機が林立する土漠の中で、轟音を立てながら、地中深くにドリルが進んでいく。
ドリルの先端は既に地下一万フィートに達し、千気圧もの水圧を加えながら岩盤を破砕していった。
豪田は、地中に突き刺さった幾つものドリルを眺めながら、緊張した面持でその状況を見守った。
作業員らは、徐々にドリルの先端を傾け、今度は頁岩層を逸泥しながら水平に掘っていく。
その間も豪田は、表情をひとつ変えることなく、静かに瞑目して息を吐いた。
圧力計の値は振り切っており、物凄い圧力が切削機に掛かっている。
硬い頁岩層のある地中深くは極めて高圧であり、岩盤を砕いてガスを抽出させようと試みても、すぐに裂け目が閉じてしまう。
このような試行錯誤は何度も行われ、その度にドリルが大きく振動する。
まるで地球の怒りを買っているようだ
「油田もシェールガスも一緒だ。俺は何百という油田を掘ってきた。これだけのガスが溜まっているということは、その分、多くの資源が眠っているということだ」
地中のガス圧測定器を眺めながら、昂奮気味にテリーは言った。
長年の研究と開発が、遂に実を結ぶ瞬間。
昂奮しないはずがなかった。
一方で、テリーとは対照的に、豪田は事態を冷静にみていた。
「もうダメです。このままだと破砕機が持ちません。早く抜かないと――」
テリーとともにこの半年間、二人三脚で採掘を進めた豪田は、異常値を示すガス圧計を心配しながら、言った。
ガス田採掘は常に危険が伴い、無理に掘削を進めると、ガスが暴噴し、切削機もろとも吹き飛ばされてしまう。
豪田の表情は徐々に青褪めていったが、そんな豪田の心配を他所に、ドリルはさらに十フィート、二十フィートと掘り進んだ。
「テリー、これ以上は無理だ。岩盤が硬すぎて、ドリルが折れてしまう」
豪田は今にも逃げ出さんばかりに踵を返しかけるが、それを制するように、テリーら現地作業員の腕が、豪田の行末を封じた。
「いや、まだいける。俺様の野太いドリルは、絶対に折れん」
三十フィート、四十フィート…。
「これ以上、奥まで入れると、頁岩層が裂けてしまうぞ」
豪田は腹部を抑えながら、妙な予兆を感じ取り、息を漏らした。
腹の底から、凄まじい勢いで、噴き出るものがあったのだ。
「くそ…」
そして次の瞬間、地鳴りのような轟音とともに、高圧ガスが油井から吹き出した。
「暴噴だ!」
豪田が叫ぶと同時に、泥の混じった茶色い油が、穴から洩れはじめた。
異常ガス圧。緊迫した様子を、周囲の男達は固唾を飲んで見守った。
「やはりこれ以上はダメだ、抜いてくれ」
地下深くからメタンガスが噴出し、大量の泥や地下水が油井穴から流れ出した。
見物人は慌てて逃げるようにして退散し、テリーを含む一部の作業員だけが現場に残った。
「ここまで来て抜けるものか」
テリーは泥水を被り水浸しになりながらも、ドリルを止めようとしなかった。
「違う、駄目なのだ」
豪田は必死に訴えたが、
「俺は掘り屋だ。これまで掘れなかった穴はなかった、俺を信じろ」
と、テリーは一向に聞く耳を持たない。
ドリルの握る腕は既に限界に近く、あまりの衝撃の強さに、豪田はその場に突っ伏した。
「一号井は駄目だ。二号井にもドリルを挿入しよう」
一号井に二本、二号井にもさらに二本、計四本の強固なドリルが、豪田の周囲を囲った。
暴噴が始まって既に十分近くが経過していたが、男達は臆する様子もなく「俺も、俺も」と油井に駆け寄り、ドリルを準備したのであった。
その間も、噴出は鳴り止むことを知らない。
ついには、泥水の混じったガスが、地上高くまで噴出した。
その間、あまりの熱気と男達の勢いに、ついに豪田は気を失ってしまったのだった。
――目が醒めると、そこはとある酒場であった。
バーテーブルに寝かせられた豪田は、気が付くと服を着ておらず、手足は縄で縛られ身動きを封じられていた。
また豪田の周囲には、やはり全裸の男達があり、四つん這いにさせられた豪田は、尻に違和感を抱いた。
「お前、放屁をこきやがって」
聞き覚えのある声に、何事かと振り返ると、そこにはテリーの姿があったのだ。
「オナラじゃないの、本当よ、ちょっと空気が入っただけ」
「たわけ、オナラも尻屁も一緒だ。ガスだけじゃない、地下水もずぶ濡れだぜ」
テリーは、背後から豪田の腰を抱くと、屈強な掘削ドリルを抜き差しした。
「これ以上、駄目だ! 尻が裂けてしまう!」
豪田は、助けを求めるような目で他の男達の顔を見つめたが、
「生意気な口だな、二号井の方にもドリルを入れてやろうか」
と、様子を伺っていた島袋も、いてもたってもいられなくなり、ついには屈強な逸物で豪田の口を封じてみせた。
「こっちの方も既にズブ濡れじゃないか、がはは」
豪田はその夜、オークローンのゲイバーで、荒れ果てるまで屈強なテキサスのレンジャー達に抱かれ続けた。
人事部のジョー episode3(体育会系社員 編) 市川比佐氏 @sandiego
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