「おまえ、何する気だよ」

「ねぇ、めぐみん」




「どうかしましたか? ゆんゆん」




「眠いんですけど」




「まぁ、真夜中ですからね」




「なんで真夜中に、私は文字通りバンバンと叩き起こされなきゃならなかったの?」




「最近募集が張り出されていた、夜中限定のクエストですよ。『湖の水面に浮かぶ、謎の発光体を調査。状況に応じて発光体の除去も許可する』と、書いてありました。

意気揚々と受けたのはいいものの、今回私のパーティーはみな不参加ということで、仕方なく、ゆんゆんを誘ったという次第です。

せっかく誘いに来たのに、熟睡してて起きないものですから、ついやっちゃいました」




「私、部屋に鍵かけてたよ。それから、突然起こされて、何もわからないままこの湖に

連れてこられたんだけど」




「友達と夜遊びもしたことのないゆんゆんが、少し不憫に思いまして。唯一の友達である私が、たまには夜遊びに連れ出してあげようと思ったのです。

まぁ夜遊びといっても、これはクエストなので、少し違いますが。あれです、夜中の散歩を楽しみながら、片手間でクエストを済ませるんだと思ってくださいね。

あ、鍵に関してはノーコメントでお願いします」




「あのね、めぐみん。聞いて。

言いたいことは、たくさんあるの。

怒りたい気持ちも、もちろんある。

……でもね、今は凄く眠いの。お願い、

今からでもいいから帰らせて」




「それは困ります。これから湖に爆裂魔法を放つ予定なのです。動けない私を街まで運んでもらわないと」




「は? なに言ってんの?

こんな時間帯に、大きな音が街に響く爆裂

魔法を? 人のこと叩き起こしてから、更には人一人を担いで帰れって?」




「ゆ、ゆんゆん、目が怖いですよ。

松明の光と月の光しかない暗闇でジワリと

輝く赤い瞳とか、本当に怖いです」




「なにか言うことは?」




「ご、ごめんなさい……」




「……もう、仕方ないなぁ」




「ゆんゆんって、本気で怒ると怖いんですね……」




「普通は誰だって怒るわよ、こんなの。

あのね、次からはちゃんと誘ってほしいな。

その……ね、めぐみんから誘われたの、

嬉しかったんだよ。夜中に街を抜け出して

クエストに行くとか、すごくドキドキする」




「強気なゆんゆんとか、いつものゆんゆんじゃないです。あなた、誰ですか?」




「寝起きで頭がぼーっとしてるせいかもね。

それか、松明の光しかないこの空間で、お互いに顔があまり見えないからかな。

……ねぇ、めぐみん。もしかしてなんだけど、私が友達と夜遅くまで遊びたいって言ってたの、聞いてたの? バニルさんには、

からかわれちゃったんだけど」




「何のことかわかりませんね。訳あって今日は未だに爆裂魔法を放ってなかったので、

日付が変わる前に放ちたかっただけです」




「叩き起こしたのも、照れ隠し?」




「だから違います!」




「ねぇ、めぐみん。私ね、いろいろと伝えたいことがあるんだけど……。

それは、また今度ね」








私はゆんゆんと、夜の爆裂散歩に出かけています。




今までも爆裂散歩には行っていますが、このように、夜中に強引に連れて行ったことはありません。




気恥ずかしいのと、からかってやろうというわずかな嗜虐心から、今回のような不意討ちの爆裂散歩ということにしたのですが……。




「素直になれないめぐみんって、可愛いね。カズマさんが夢中になる気持ち、ようやく

わかったかも」




私の目の前で、クスクスと笑うゆんゆん。

これは、ちょっとおかしいです。

私の知っているゆんゆんは、なんていうか、もう少しこう、受け身なはず。




それがなぜ、今は私が後手に回っているのでしょう。

なにか理由があるはず。




「ゆんゆん」




「なに?」




「あなた、寝酒しました?」




「寝酒じゃないよ~。

んっと、ねぇめぐみん。昨日の夕方は何してたの?」




「え? いや、普通に屋敷にいましたよ」




「アクアさんとカズマさん、いなかったでしょ? じつは昨日、夕方から、ギルドにいる

人だけでお酒を飲んでたの」




「はぁ!? 私、知らされていませんよ!」




「あっという間に始まって、あっという間に終わっちゃったから。

昨日の夕方にね、ギルドに王都から珍しいお酒が届いたの。テキーラっていう、どこか

異国の酒に似せて作った代物なんだって。

でね、たまたまそこにいたカズマさんと

アクアさんが、その酒を買い占めちゃって」




「か、買い占めた……。それで、大方その酒をギルドにいる冒険者全員に振る舞ったと

いうことですか?」




「業者さんは、『コップ一杯のテキーラを、せ~ので喉に流し込む飲み方が、若い人のなかでは流行している』って」




「あ~もう嫌な予感しかしませんよ。

それで、全員が酔い潰れたと」




「私、気づいたときには部屋に帰ってたんだ。帰り道とか、ぜんぜん記憶が無いの。

部屋に帰ってからは、もうお風呂に入る気力もなくてそのまま寝ちゃった」




「ゆんゆんの様子が普段と違うのも、昨日

カズマとアクアが屋敷に戻ってこなかった

理由も理解しました。

そういえば私が屋敷を出る前に、ダクネスが鬼の形相でギルドに向かって行きましたよ」




「ーーアクアさん、カズマさん。味の記憶はありませんが、お酒ごちそうさまでした」




きっと、テキーラなるお酒のせいで動けなくなる酔っぱらいが多発したのでしょう。




金の浪費と、酒を振る舞った主犯格。

明日は、屋敷でダクネス主宰の反省会ですね。




「ていうか、ゆんゆんは普通にお酒が許されているんですね?」




「え? お酒って、自己責任でしょ?」




「私の屋敷では、なぜか私には認められてないのです。子供が早いうちから飲むと、頭がパーになるとかダクネスから言われていまして。

私ももう結婚できる歳なので、そろそろ解禁してもらいたいのですが」




「まぁ、そうだね、めぐみんは、その……」




「ゆんゆん、どうしましたか? 私の身体を

見て、何か言いたいことでも?」




「え、いや、なんでもないよ!」




「そうですか、ならいいんです。

ですが、気をつけてくださいよ。

視線はことばよりも、物事を語ることがあります」




「う、うん。気を付けるよ」




「……そろそろ酔い覚めました?」




「酔いというか、ばっちり眠気は覚めたよ。

この場所で話し始めてから、どのくらい経ったのかな?」




「う~ん、どうでしょう? そろそろ日付も

変わる頃じゃないんですか」




この場所に到着してから、もうかなりの時間が経ったはず。

さすがに雑談も話題が尽きそうになります。




謎の発光体とやらはいまだに現れません。

毎日現れるわけではないのでしょうか?




「ねぇめぐみん。もう帰らない? このままだと朝になっちゃうよ」




「その場合。クエストは失敗ということになっちゃいますね」




「私は楽しかったよ」




「まぁ……そうですね。帰りましょうか」




「うん。ねぇねぇめぐみん。今日、私の部屋に泊まっていかない?」




「んー、どうしましょうかね。深夜のテンションということで、泊まっていってもいいのですが」




「たまにはいいでしょ~。ねぇめぐみ~ん」




「そんなに言うならーー」







「たすけてぇぇぇだれかぁぁぁ!」




ーーえっ? 女性の声!?

突然、何事です⁉




「めぐみん、あれ見て!」




ゆんゆんが指を差す方向。ここから遠い、

湖のほぼ中央に目を向ける。




遠くから微かに聞こえる、バシャバシャという水面を叩く音。

女性は、溺れていた。

湖の水面から、必死な形相が見える。




助けを求める声はしだいに小さくなる。

水中で足掻く音も、弱まってくる。

早く助けなきゃ!




今から飛び込めば間に合うーー





「めぐみん、何する気!?」





ゆんゆんが、湖に駆け寄ろうとした私の腕を掴んだ。





「なぜ引き留めるんですか! 早くしないと

溺れてしまいます!」





振り返ると、松明の光でうっすらと照らされた、ゆんゆんの怒った表情が見える。





ゆんゆんの、本気で怒った表情は先ほど見ている。

でも今の表情は、動揺と不安が入り交じっていた。






「あんた、ちょっと冷静になりなさいよ!

ここから離れていて真っ暗なのに、何であの人の表情がはっきり見えているのよ!」






改めて、見てみる。






すると、あちらも水の中で藻掻くことを止めて、こちらを見つめ始める。






無表情、凝視。






女性が足掻くことを止めたため、水面を叩く音は無くなる。

先ほどまで楽しく会話してたときと同じく、

辺りは静か。小さいカエルの声だけが響く。






頭の上半分のみ水面から出している。

鼻の下から先は、沈んでいる。

まるで、顔が水面に浮かんでいるみたい。






ゆんゆんの怯えた表情は、松明でうっすらと照らされているのに。

遠くの水面から見えるあの人の表情は、

はっきりとわかります。






「帰りましょう、ゆんゆん」






「そうね、めぐみん」






「今夜はゆんゆんの宿に泊まります。朝まで語り合いましょう」






「そうね。あと、朝になったらさ、めぐみんの屋敷に行っていい? アクアさんに用事があるの」






「私もアクアに用があります。……あの、

その、アクアに、あの女の人から、私が呪われてないか聞きたくて……」






「お願い、この状況で呪いとか言わないで。叫んじゃいそう」






「と……とにかく、すぐに帰りましょう」






「ねぇ、めぐみん」






「な……なんです?」






「あの人、近づいてる」













私は、ゆんゆんがテレポートの魔法を覚えていたことに、心から感謝しています。
















ーーー


読んでいただき、ありがとうございます。



元ネタは、「おまえ、何する気だよ」です。




もし今後も描くことがあれば、

そのときはよろしくお願いいたします。

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この素晴らしい世界に、少し不思議な話を。 貞子 ~呪いの手落下~ @sada-kaya

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