第7話
競艇でスった後、パチンコでもスった。吉野は何年も前から自分に博打の才能がないのがわかっていたが、今まで負けた分を取り戻すまでは止められないと思い、また負ける、そんな日々を送っていた。
周りにいる人間はいつからかカメラを持った人間から鬼ころしやワンカップを持った人間に変わった。初めて借金した日に感じた絶望や不安も、夜を越えていく度に無くなっていき、少しずつ自分で自分の限界を下げている自分がいた。そして、気づくとしがないポルノ写真を撮ることが自分の仕事になっていた。
秋谷から貰った金はもう半分近く消えている。誰もいない公園に入り、ペンキの剥がれたベンチに腰掛けて自分の手を見つめる。先日ビルの屋上で汚い親父の裸を撮っていた時の興奮を吉野は思い出していた。
ファインダーを覗いていた時、カメラに夢中だった頃の自分に戻ったような気がした。
砂場には忘れられたスコップが半分埋まっていた。青い柄だけが見える。酔っているのはわかっているが、吉野は両手の人差し指と親指で長方形を作って、スコップの青い柄をその中に収める。
何も起きない時間が流れた。
酔っていたはずなのに、両手で作った四角の中に被写体を収めると、酔いが醒めた。
復活できるのだろうか。
吉野は思う。人生はもう折り返し地点に近い。コネもなければ、技術もない。同年代は家庭を築き、会社では重要な仕事のマネージャになっているものも多い。
だが自分は未だに使われる人間で、未来のなく、あるのは借金だけ。
そんな自分に、あの希望に燃えていた頃のように再びカメラに向き合えるのだろうか。
両手で作った四角いファインダーを解くと、吉野は溜め息をついて公園を後にした。
彼は借りているビルの一室に向かって歩き出す。スタジオから独立したときに借りた作業場と住居を兼ねた部屋だった。ビルと言ったら聞こえはいいが、単なる雑居ビルでその周りに建つものに比べて圧倒的に狭くて小さい三階立てだった。その時はまさかこの歳になるまで住むとは思わなく、自分の人生のただの中継地点としか思っていなかった。
吉野は途中で、コンビニに寄りチューハイを四缶買う。余計なことを考え始めた自分の心をもう一度酔わすためだった。
エレベーターもないビルの階段を上がり二階にある部屋の扉を開けようと、鍵を鍵穴に差し込んだ。鍵を回して見るといつものような感触がない。既に部屋に鍵は空いていた。出るときに閉め忘れただけだろうと思い、吉野は扉を開けて中に入る。玄関には出し忘れたゴミ袋が幾つも重なっていた。部屋には鳥小屋のような匂いが充満している。
かつて応接間で現在は吉野の生活スペースの拠点となったリビングに行くと、見覚えのある人間がソファに座っていた。
ある日、誰かがどこかで 大芝燐 @oshiba_rin
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