第11話 初依頼の前に魔剣を手に入れるという事案発生
シトリの怒りから逃げるようにギルドを後にしたキュウとノルン。
二人の姿は今、東門近くの武具屋にあった。
「ノルンちゃんは剣を使うんだよね? じゃあこのミスリルソードとかいうかっこいい剣を……」
「待て待て待て。主、待ってくれ」
金貨二十枚と書かれた値札を完全に無視して、白銀の剣を手に取るキュウに、ノルンが縋りつくようにして待ったをかけた。
「アホか? アホなのか? 主はとんでもないアホなのか?」
「なんかすごい罵倒されてる……。どうしたの? あ、もしかしてこれじゃ嫌だった? じゃあ、あのアダマンタイトブレードに……」
「そうじゃないわ! あのなぁ、主よ。どこの世界に奴隷にそんな高価な剣を渡す主人がいる? 普通なら武器すら持たせてもらえないんだぞ?」
「嫌だった?」
「……嫌なわけないだろうが。もう一度剣を持てると喜んだぞ? だがな…………限度というものがあるわ! 主の常識知らず!」
ふがーッ! と憤慨するノルン。対するキュウはどこまでものほほんとしている。
「でもさぁ、ノルンちゃんが良質な武器を使うのと、粗悪な武器を使うのって、どっちがより実力を発揮できる?」
「それは……まぁ、良質な武器だな」
「でしょ? ノルンちゃんが本来の実力を発揮してくれた方が、ギルドの依頼の効率も上がる。効率が上がれば、その分報酬も増える。それに、良質な武器ならそう簡単に買い替える必要もないでしょ? 長い目で見れば、その方がもったいなくないの。分かった?」
「……その通りだな。ああ、主の言っていることはとても正しい。まったく反論できないくらいだ。だが……」
ノルンは「くっ……」と、まるで敵に捕らわれた女騎士のように悔し気な表情を浮かべる。
「それを、主に言われたという事実に納得できん!」
「そんな風に言われてる僕の方が納得できません。というわけで、ミスリルソードとアダマンタイトブレード。どっちがいいか早く選んじゃってね」
「軽くあしらわれただとぅ!?」
目を見開いて驚くノルンを放置して、キュウは武具屋の店内を見て回る。壁や棚にぎっしりと剣や槍などが並べられている光景は、武器とは縁遠い日本出身のキュウとしては、ちょっとしたテーマパークのように思えていた。
(まぁ、テーマパークなんて、行ったことないんだけどね)
かる~く、全く持って軽くないことを思いながら、陳列されている武器を見て回るキュウは、店の隅に奇妙なモノを見つけた。
それは、台座に置かれた剣。大きさはショートソードサイズで、やたらと禍々しい装飾がされている。
あからさまに普通じゃない雰囲気の剣を見たキュウは、キラキラと目を輝かせた。すなわち、「面白そうなものがある!」ということだ。
その見るからに怪しい剣に、キュウは【鑑定眼】を発動させる。
================================
名前:魔剣ノワール・テンペスト(
スキル:【ノワールヴェンター】【暴風の加護】【極風の斬撃】【刀身自在】【人化】
================================
「おー」
思わず、感心の声を上げるキュウ。目のキラキラがさらに強くなっている。
魔剣、
「お客様? そちらの剣が気になりますか?」
「え? あ、うん」
と、背後からかけられた声にとっさに返事を返す。振り返ってみると、そこには腰まである黒髪をツインテールにした少女が立っていた。瞳はまるでエメラルドのような輝きを湛えている。口元に刻まれた悪戯っぽい笑みは、どこか気まぐれな猫のような印象を与えた。
いつの間に背後にいたのだろう? と不思議に思いつつも、キュウは剣を指さしながら
「丁度剣を探してて、この剣がいいなぁって思ったんだけど……。値札が付いてないみたいだけど、これ、売り物じゃないの?」
「その剣はですね、魔剣ノワール・テンペストっていう名前なんですけど。ちょっと特殊な剣なんですよ」
「特殊な? 魔剣って言うくらいだから、何かすごい力を持ってるとか?」
「それもありますね。でも、それだけではなくてですね、この剣は持ち主を選ぶんですよ。剣に認められない限り、持ち主となることはできない。そう言われています。この店に古くからあるんですけど、いまだに誰も認められたことがないんですって。どうです? お客様も試してみますか?」
「……うん、そうしてみようかな。でも、その前に……」
キュウは口元に笑みを浮かべ、得意げに剣の解説をしていた少女を、ピッと指さした。
「君は、僕を認めてくれる?」
「……どういうことですか? お客様」
こてん、と首を横に倒し、不思議そうな表情を浮かべる少女。まったくもって自然で、当たり前の反応。しかし、それを見てもキュウは口元の笑みを崩さずに、自信満々な声音で告げる。
「だって、この剣がほしかったら、君に認めてもらわないといけないんでしょ? ノワール・テンペストちゃん?」
「……な、何を言ってるんですか? そ、その名前はそこの魔剣の……」
「
「なっ!」
「所持スキルは【ノワールヴェンター】、【暴風の加護】、【極風の斬撃】、【刀身自在】。……そして、【人化】」
「………………あの、お客様。もしかして、【鑑定】の上位スキルとか持ってたり……?」
「【鑑定眼】ってスキルを持ってる。さっき君のステータスを鑑定してみたんだけど……。おかしいね? なんで君のステータスは剣のステータスと全く一緒なのかな?」
「あはは………。さ、さぁ、どうしてでしょうね……?」
「ふふっ、どうしてだろうね?」
「あはは……」
「ふふふ……」
キュウは、にっこりとした笑顔のまま、台座に置かれた剣の柄をガシッとつかみ取ると、思いっきり魔力を剣に流し込んだ。
「ひゃんっ! にゃ、にゃによ、これぇ……。そんなおっきいの、入らな……きゃんっ! ら、らめぇ……」
途端に、少女―――魔剣ノワール・テンペストの人化形態―――が、何かに悶えるように身をよじり、艶のある声を出した。
「ふぅん、剣と感覚がリンクしてるのかな? じゃあ、こういうことすると……」
「ひゃぁあああんっ! そ、そんなとこ……あっ、あっ」
キュウは魔剣の刀身の表面を、触れるか触れないかのソフトタッチをした。ノワールは顔を真っ赤にして身もだえる。
だんだん楽しくなってきたキュウが、もう一度刀身に手をかけたのを見て、ノワールは慌てて声を上げる。
「み、認めるわ! 認めるから、もうやめてぇ~~~~!!」
「うん、いいよ」
あっさりと剣を手放したキュウ。ノワールはその場にへたり込むと、キュウをキッとにらみつけた。だが、真っ赤な顔で上目遣いをしているその姿は、すねてるか甘えているようにしか見えない。
「め、めちゃくちゃだわ……! 魔剣であるわたしを、魔力で屈服させるなんて……! あなた、いったい何者なの!?」
「何者と言われましても……。キュウです?」
「わたしはノワール……って、そうじゃなーい! 名前を聞いてんじゃないわよ!」
「違った? じゃあ、昨日ギルドに登録したばかりの新米冒険者です。とか?」
「し、新米冒険者ぁ!? わ、わたし、伝説の魔剣なのに……。新米冒険者に負けた……?」
「ただし、魔力量は百五十万です」
「なんなの一体! そんな魔力量聞いたことないわよ!?」
「なんなのと言われましても……。生まれつき?」
「………もう、何なのよぉ…。わけわかんない……。わたし、もうおうちかえるぅ……」
衝撃に次ぐ衝撃でついには幼児退行してしまったノワール。伝説の魔剣の見る影もなかった。
「えっと……。なんか僕が虐めたみたいになってない? ノワールちゃん、ほら、落ち着いて? 怖くないよー」
「うう……。はっ、わ、わたしは何を!?」
「あ、戻った。それで、ノワールちゃん、認める認めないの話はどうなったのかな?」
「う……。み、認めるわよ。わたしの正体を見破って、そのうえで完全に支配したんですもの。認めなかったら、魔剣としての矜持に反するわ!」
「魔剣としての矜持ってなに……?」
「と、とにかく! 魔剣ノワール・テンペストは、貴方、キュウのモノとなり、貴方に従います。……よろしくね、マスター!」
ノワールは、そう決意に満ちた笑顔でキュウに手を差し出す。
流されるようにキュウがその手を握ると、つながった二人の手の間で、光が生じた。
光は数秒で収まり、二人は繋いでいた手を離した。
「今の光は?」
「契約完了の証よ。これで正式にわたしはマスターのモノになったってワケ」
「へぇ、そうなんだぁ」
「そうなんだぁって……。反応薄くない? わたし、伝説の魔剣なのよ? もうちょっと喜んでもいいんじゃない?」
「でも、僕、ノワールを使うつもりはないよ?」
「…………はい?」
「だって、もう剣は持ってるもん。ほら、これ」
そう言ってキュウはチェルノボグをストレージから取り出して、ノワールに見せた。
取り出された神剣を驚愕の表情で見つめていたノワールは、わなわなと唇を震わせる。そして、ゆっくりと息を吸い込み、
「もーーーーっ!! 何なのよぉーーーーーーーッ!!!」
そう、渾身の叫びをあげるのだった。
異世界反逆のエゴイスト 原初 @omegaarufa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界反逆のエゴイスト の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます