第11話「夜襲」
皆で王都に着く前の食事を終え、深夜。
騎士達は変わり交代で4人ずつ辺りの見張りを行なった。
他の騎士達はテントに入り暫し仮眠をとる。
父上と母上も馬車に入り仮眠し、ユフィも馬車に入るよう説得し馬車に入らせた。
そして今俺はペルシアと焚き火の前にいる。
「ペルシア。
あのシャク‥チャコールのことなんだが。」
真剣な俺の顔にペルシアが察し、ペルシアは辺りに神経を研ぎ澄ませ、敵の気配を察知する。
「どうやら、スタン様の思っていたことは間違いなかった様ですね。
うちの騎士達には注意を促していて正解だったようです。」
俺は予めペルシアにシャクレが怪しいと注意を促し、騎士達に伝えるよう頼んでいたのだ。
さらにペルシアの話は続く。
「偵察部隊ですかね?手前に4人程いて、更に離れた所で多人数が待機している様です。
乱戦になりそうですね。
気を引き締めなければいけません。」
引き締める。
この言葉が無性に重く感じる。
この場合の言葉は戦闘になる可能性が大きくあるということだ。
つまり、また殺すか殺されるかの戦いが始まる。
今でもグレイインプをダガーで突き刺した感覚が手に滲むように残っていて、思い出すだけでも吐き気を催す程だ。
それに#グレイインプ__あいつ__#は敵とはいえ殺されたくないのは当たり前だったのだろう。
だから必死に抵抗し俺を殺そうとした。だから俺は#グレイインプ__あいつ__#を殺した。命を奪ったのだ。
皆がたかが1匹の、況してや殺されかけた相手に同情するなど可笑しな話だと思うかもしれないが、俺の前世いた世界で普通に生きていれば考えられないことだ。
それに今まさに起きようとしている戦いは魔物ではなく人なのだ。
魔物でも殺すのを躊躇してしまう俺に人を殺せるのだろうか?
それに、俺が大掛かりで威力のある魔法が放てる訳でも特別戦闘力が高い訳でもない。
主体属性が全て適応していたとて、この世界での俺は弱いのだ。
「思い悩んでいる様ですね。」
ペルシアが俺の表情を察し話しはじめる。
「始めは、誰もがそうです。
私も始めはスタン様と同じく戸惑いました。
そして今でも、‥戸惑わない訳ではありません。」
「え?」
意外だった。
ペルシアの戦いを間近で見た俺にはそんな戸惑いのある様には感じられなかった。
それに加え凄まじい程の戦闘力。
そんな師匠でもあるペルシアに今の俺みたいな時があっただなんて‥。
ペルシアはそのまま話を続ける。
「殺すことに躊躇のない人は人ではありません。
唯の殺人鬼です。
スタン様の感情は人として物凄く大切なことです。
‥ですが、忘れないで下さい。
その感情は戦いの最中、ほんの僅かの隙を与え大きく勝敗が入れ替わる場合だってあります。
味方全てを危機に晒してしまう可能性だってあります。
私は今、スタン様に厳しいことを言っています。
それでも、これは肝に命じていて下さい。
これは専属メイドとしてではなく師匠として告げておきます。」
ペルシアの言葉はズッシリと俺の心にのしかかり、喉が詰まる様な感覚に陥るが、ゆっくりと俺は頷き、心に刻みこんだ。
「あぁ、わかったよ。」
〇〇〇〇
スタン達の入る馬車から少し離れた場所。
「いいか、良く聞け。
姫は生け捕り、姫意外は殺せ。これが尾頭の命令だ。
皆準備はいいか?」
暗闇の物陰に隠れる全ての者が一斉に頷くと、その指揮官が手で物陰の者達に合図をおくる。
すると皆が暗闇の中を駆け出した。
〇〇〇〇
リンリンリン!!
少し離れた見張り役の警報のベルがなる。
「来た‥ようですね。」
ペルシアは手に光を集め槍を出現させる。
「スタン様はグラド様に報告をお願いします。」
「ペルシア一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫です。
こう見えて私、元Sランクの冒険者ですよ。
それに敵の気配は反対側にも迫って来ています。
王女殿下が心配です。
いってください。」
「確かに。
じゃぁ任せるよ。
父上を起こしたら直ぐに加勢するからね。」
「えぇ、お待ちしています。」
そういってペルシアはニコっと笑うと暗闇の中へと走り去り、俺は父上のいる馬車へと走った。
コンコン。
父上と母上のいる馬車の扉をノックする。
「誰だ?」
「父上!スタンです。
王女殿下に狙いを定めた野党の襲撃です!」
バタン!!!
勢いよく馬車の扉が開かれる。
「誠に来よったか!!!相手の人数と戦況は!?」
「今、ペルシアが多人数の野党と交戦中です。
それに多方向からも野党が迫り来ています。
その数の方は今は分かりません」
「わかった!急ぎ支度する!
お前は王女殿下のお側にいき王女殿下をお守りしろ!
俺も直ぐに行く!!」
「分かりました。」
俺は急ぎ隣に並ぶユフィの馬車へと走った。
父上は馬車の周りのテントで仮眠をとる騎士達を大きな声で目覚めさせる。
「夜襲だ!!皆の者!戦闘準備をせぇ!!!」
父上の声で一斉にテントから騎士達が飛び出してきて、急ぎ戦闘準備に取り掛かかった。
コンコン。
俺はまた馬車の扉をノックする。
「誰?」
「俺だよ!スタンだ」
扉がゆっくりと開かれ、ユフィは俺の顔を見るなり何かあったことを直ぐに察した。
「スタン君?
何かあったの?」
「今ちょっとややこしいことになっててね。
それより今はユフィが無事でよかった。
ユフィは俺が何がなんでも守るからね。」
「え!?な、何?いきなり!」
ユフィは顔を赤くし慌て出すが今はそれどころじゃない。
「いいかい、ユフィ。
ここから出ちゃダメだよ。
さぁ、中に入って」
俺はユフィをまた馬車の中へ入れ、俺も腰のダガーを抜きとり戦闘準備をとると、ペルシアがいる方の逆方向から斧や剣、松明を灯す野党供が「「おぉぉぉぉぉ!!」」」という雄叫びを上げ、俺達の野営地に襲いかかる。
見れば分かる。
凄い数だ。こっち側だけでも20はいる。
それに対しこちら側が戦える人数は10人といない。
なかなか絶望的な状況だ。
騎士達の顔色もその圧倒的な数に青ザメていく。
そんな中、父上は馬に跨ると直ぐに声を張り上げ騎士達に怒気を送る。
「者共!怯むでないぞ!!!
共に敵を薙ぎ払い打ち勝とうぞ!!!!
俺が先陣を切る!!
騎士達よ!俺に続けぇ!!」
そういって父上は先に先陣を切り、馬を走らせ行動を見せると、さっきまで青ザメていた騎士達の顔つき一変にして変わっていき、先陣を走る父上に続くよう馬を走らせ怒号を上げた。
「「「おぉぉぉぉぉ!!!!」」」
父上のその後ろ姿はまさに辺境伯として相応しい姿だった。
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異世界で俺は居酒屋をだす! @Kaito1227
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