第10話「ラザーニャ」
ジルベスターの町を出て森の峠道。
俺はユフィ王女殿下に困らされていた。
「いい!スタン君。
次に私を呼ぶ時はユフィ、って呼び捨てにしてくれないかな?」
「そ、そんな呼び捨てなんて「できる!!」
俺の言葉を遮る様に王女殿下は言葉を被せる。
「後、敬語も禁止!
これができなければ処罰するからね!」
口を膨らませる王女殿下は可愛いらしくも自分がどれだけ俺に酷な事と恐怖を感じさせているのか気づいているのだろうか?
いくら辺境伯の息子とはいえ、息子は息子。
それに三男坊だ。
そんな俺が気安く「ユフィ、元気?」などと軽々しく言える筈もない。
ましてソレを何処ぞの貴族に見られでもしたら最早大事になるのは間違いないだろう。
だが、そんな事を王女殿下に言っても聞いてはくれないだろう。
「わかりました。
では、条件をつけましょう。
2人きりの時のみ敬語は無し、名前は呼び捨て、では如何でしょう?」
ユフィ王女殿下はプクーと口を膨らませながら目線を上に向け考える。
「わかった。
周りの目もあるししかたないか。
じゃぁ、その条件でのもう。」
ちょっと威張り気味に俺の条件をのんでくれた。
「じゃぁ、早速。
ユフィ‥。」
「はい‥。」
俺がユフィと名前を呼ぶと、ユフィは頬を赤くし俺を見つめる。
「野営の時は食事どうしてるの?」
俺はソレを軽く流し、気になったことを聞くと、何やら不機嫌そうにまた口を膨らませプイっと向こうを向いた後、答えてくれた。
「食事は、食事当番の騎士が作るの。
作るといってもスープか干物系だけどね。
あっ、でも最近フィッシュミールっていう食べ物があるんだけど、それがすっごく美味しいんだよ。
食べたことある?」
「もちろんあるさ。
俺の領地が発祥の地だからね。」
ユフィは目を見開き反応する。
「あぁ!そうだったさっきお父様とお話しさせて頂いた所にトランテスタの領主って紹介して頂いてたんだった。」
「そうか、意識を失ってる間に父上と母上は自己紹介ずみなのか。
そうだよ。
それにしても原産地の住民として王女殿下のユフィにも気にいってもらえてる事に嬉しく思うよ。」
フィッシュミール、順調にこの世界に広がってるようだな。
だけどやっぱりまだそれぐらいがこの時代の野営ではそれぐらいが限度なんだろうな。
「ユフィ、今日は最後の野営だろ?
俺が飛びっきり美味しい料理を作ってやるよ。」
「え?料理ができるの?」
「うん。
俺は将来自分の居酒屋を作るのが夢なんだ。
けど、今回作ろうとしてるのは居酒屋メニューじゃないけどな。
まぁ、楽しみにしててよ」
俺はそう言って笑顔をユフィに向けるとユフィも笑顔を作る。
「うん!楽しみにしてるね。」
夕方。
森の中にある川辺に辿りつくと、日がなくなる前に騎士と御者は馬車に積んであるテントを取り出し最後の野営の準備に取り掛かる。
勿論俺も参加し皆で協力し、火おこしやテント張りをした。
そして夜。
「じゃぁみなさんの晩御飯は今日はぼくが作りしょう。」
焚き火の前でいきなり俺がそう発表すると、俺のことを知らないユフィ側の騎士達は子供が何を言ってるんだ?と言わんばかりの表情をしていたが俺側の騎士が賑わうのを見て俺に任せてくれることになった。
〇〇
いざ料理開始。
まず、そこらに落ちている大きめの石を集め、釜を乗せる土台を作る。
そこへ湧き水を多めに注ぎ入れ、塩を0.8%(1ℓに対して8g)、オリーブ油適量、(湯1ℓに対して大さじ2~3杯が目安)を入れる。
それを真横でユフィと母上が見つめる。
「今日は何を作ってくれるの?」
母上がウキウキしながら俺に問いかける。
「今日は俺が王都に行く前に乾燥させて作っておいた、ラザーニャを使ってラザニアを作るからね。」
ユフィはその料理名を聞いて驚く。
「ラザニア!?こんな所で作れるの!?ほんとにラザニアってあのラザニア?」
ユフィの問いかけに皆がいる前なので敬語で返す。
「はい、ラザニアです。
ホワイトソースとミートソースで食べるあの料理ですよ。」
【ラザーニャ】
板状のパスタで日本ではラザニアと呼ばれている。
ラザニアといえばホワイトソース、トマトソースで食べる料理を思い浮かべるが、本来ラザニアという命名はパスタの形状のことである。
古くは手打ちの生パスタであったが、現代では乾燥物が主流になっている。
「まぁ、また企画外なことね。
楽しみだわ」
母上は飛ぶように喜びを表現する。
「スタン君はいつも料理を?」
ユフィが母上に尋ねる。
「はい。
たまに「新開発だ。」と言って屋敷の皆に企画外な料理を持て成しています。
それに私達の領地が有名になった#魚粉__フィッシュミール__#もスタンの発案なのですよ。」
「フィッシュミール!!?」
ユフィは目を見開き大きく驚いた。
「フィッシュミールってあのフィッシュミールですよね!?
まさかスタン君がその開発者だなんて‥。」
「今晩の料理は期待できますよ。」
母上はニッコリと笑いユフィを従者が用意したテーブルへと案内しようとするとユフィは思わぬ発言をする。
「スタン君。
私も手伝いたい。」
母上と俺は目が点になる。
「え!!?
いやいや!それはまずいでしょ!?」
「そうですよ、王女殿下にそのような事はさせれません!
私がここは‥。」
「いいの!
私もやる!!
私も作りたい!ラザニア!」
どうやら言っても聞いてくれなさそうな雰囲気だ。
しかたない。
「それじゃあ母上。
3人で一緒に作ってみない?
この人数だ。
丁度人手が欲しかった所だよ。」
「何いってるのよスタン。
分かってるの?
このお方は王女様なのよ?」
「うん、わかってるさ。
だけど、調理場に立てば俺が料理長だ。
俺の指示は絶対。
勿論姫様とて同じですよ。」
俺はユフィを見てそういうと、ユフィは静かに頷いた。
「さて、みんなの美味しい笑顔を求めて、始めますか!」
まずはミートソースを作ろう。
塩を少々ふりかけておいたミンチ肉(ジルベスターの町でペルシアが購入した物)塩をかけているので余分な水分がでていたらペーパーでふき取る。
この世界にはペーパーがないのでガーゼでふき取る。
タマネギ
ニンニク
トマト水煮
乾燥ポルチーニ(前世では椎茸でも可)
乾燥ポルチーニの戻し汁(乾燥ポルチーニは予め千切りにし水に浸けておく)
1、タマネギをみじん切りしニンニクは縦半分に切り芯を取り除く。
2.フライパンにオリーブ油をたらし、ニンニクを入れできるだけ撒き火を少なめにし弱火でじっくり焦がさないよう炒める。
香りがでたらニンニクを取り出し、ミンチ肉を投入し撒き火を増やし強火で炒める。
3.肉から油がでてきたらまたガーゼで脂をふき取る。
4.肉にしっかりと焼き色がついたらフライパンの端に肉をよせフライパンをかた向け肉からさらに出る油を下に溜める。
そこえみじん切りしたタマネギを加えさらに塩コショーを用意少々ふる。
(タマネギは塩を加える事で余分な水分が飛んで旨味が引き出される。
また肉の油で炒めるとさらに風味も抜群にあがる)
そしてしばらく炒めて肉とタマネギから水分が出なくなったら端に寄せ、トマトの水煮を粗く潰し入れ、一煮立ちしたら混ぜ合わせる。
5.ポルチーニの戻し汁を入る。
焦げつかないように端から中心にむかって空気を含ませる様に混ぜ合わせ、中心までしっかに煮立たせ、残ったポルチーニを入れる。
煮汁が2/3ぐらいになるまで10分程さらに煮込み、ジャムのように照かりがでたら味をみて塩少々で整え、火から下ろす。
本来は一日寝かしたほうが味が馴染み美味しいが今回はそのまま食べてもおいしいのでそのままだ。
1.ホワイトソースを作る。
鍋にバターを入れ溶かし、強力粉を加える。(バターと強力粉は一対一)
焦がさないよう木べらで混ぜ合わせ粉にしっかり日を通す。
この時にちゃんとしておかないと粉臭くなるので注意しよう。
2.牛乳を入れる。
牛乳は予め人肌の温度にしておき1.へ少量ずつ流し込む。
この時はまた撒きを調整し弱火。
途中中心が煮立ったらダマにならないよう混ぜ合わせながら10分煮る。
3.トロりと滑らかになったら木べらを伝せるよう生クリームを加えて混ぜる。
クリームは香りが飛びやすいので火は決して入れる。
1.ラザーニャを茹でる。
乾燥させたラザーニャを始めに作った熱湯に入る。(大体4、5分茹でる)始めはくっつきやすいので混ぜるといい。
ラザーニャは茹で時にひっつきやすいのでオリーブオイルを少し垂らせばつきにくい。
茹で上がったら。
冷水に入れ冷ます。(ご家庭なら氷水)
冷めたら取り出しタオルで水気をふきとる。
そしてお次はオーブンを作ろう。
最近自宅の屋敷の庭でせっせとお手製のアースオーブンを作ってから築いたのだが、ふと最近になって気づいたが、別に一から釜を作る必要性がないんじゃないか?
この世界では前世の世界の常識は通用しない。
だから魔法でアースオーブン作れるんじゃねーの的な考えで土魔法を応用し作ってみたら1分とかからずてきてしまった。
これを見た母上とユフィは驚き「凄い!」と一言。
それに加え、俺の事を大分と過大評価し凄い魔法もつかえるんじゃないのか?とも聞かれたのだが、俺の魔法使いとしての才能は恐らくこの世界では並以下で成長がずば抜けて遅い。
いわゆる最低ラインだ。
だが1つ自慢できることがある。
それは魔法適正だ。
本来この世界の人間は魔法適正というものがあって上から右、円の図で書くと
、火、土、水、風、雷のどれかが主な主体属性となる。
あと、闇と光もあるのだがこの2つは例外で主体属性とは別だ。
それに加え適応者はかなり希少である。
そして大体の人が主体属性の右隣までが適応可能だ。
2つ隣、左隣にいたっては魔法すら発動しない。
だがしかし、俺は成長がずば抜けて遅く皆より才能が劣る代わりに全ての魔法が驚くことに適用していたのだ。
だけどその分1つの属性を使えるようになるまでにはかなりの時間はかかったのだが‥。
それでもコレだけは俺の特権だ。
それに、俺は練習を重ねることで全ての主体属性の魔力操作を駆使し新しい魔法を編み出した。
それが【#錬金魔法__アルケミックマジック__#】だ。
そのお陰で知識と材料があれば、ある程度の物はその場に作り出せるようになった。
その例がアースオーブンだ。
因みに何故作り方をしっているかというと、小学校の課外授業で1度作った体験があったからである。
はてさて話は長くなったが本題にもどる。
皿にバターを塗り、ラザーニャを2枚程引き、ホワイトソース、ミートソース、その上にパルメザンチーズ、ナチュラルチーズを交互に挟んでいく。
大体三層でその上にまたホワイトソース、ミートソースを垂らし、パルメザンチーズとナチュラルチーズ、バターをちぎって散らす。(本当はここで、冷蔵庫に入れ30分ぐらいおき、ラザニアに馴染ソースを馴染ませてから焼けば更に美味しい。)
あとはアースオーブンに入れて、何度か確認後、出来上がり。(ご家庭でやる場合は200度に温めたオーブンで20分が目安。)
「さぁ!できた!」
釜からラザニアを取り出すと、一気に湯気があがり辺り一面にいい匂いをかもちだす。
それを見た母上とユフィは目をキラキラと輝かせ両手を前に合わせた。
「わぁ!!凄い!凄いよスタン君!!
宝石みたいに輝いてるよ!」
「匂いだけでこんなに食欲がそそられるなんて‥。」
「はいはい、
まだ仕事は残ってるよ。
母上、姫様取り分けて皆に配ってくれ!!」
母上とユフィは小皿一杯にラザニアを盛り付ける。
それを見た騎士達は、姫様に母上が動いているにも関わらず座っていることが出来るはずもなく、慌てて強力しあい配分した。
騎士達はまさか野営で出るはずのない料理に目を輝かせ、いい匂いの立ち上るラザニアに涎を垂らす。
「よし!皆に回ったね。
どうぞ召し上がれ!!!」
その味は皆に感動と喜びをあたえ雄叫びを上げるものなど様々で、この瞬間が俺にとって最高のご褒美で、やり甲斐を感じる瞬間だ。
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