終章――

 これが楓の鉛筆で書く最後の書き物。小説ではない。

 もしかしたら楓は残念がるかもしれない。そう思うと心が痛いが、今は別の感情で一杯だ。


 俺は手紙を何度も書き直した。楓への相応しい言葉を探している。書いては消しての繰り返しだが、その時間も嬉しかった。


 ――4.2cm


  二回程鉛筆は削る。

 しかし、思いは絶えない。

 書く度に溜まっていた鬱憤も不安も飛んでいく。

 楓に正直になれたことがそんなに嬉しいのか、心が晴れていく。


「……できた」

 ついに手紙が完成した。

 よかった……

 思いは消えていない。





 楓へ


 東京での一人暮らし、どうだ?

 親のありがたみをつくづく感じているかもしれないな。

 急に手紙を書いたのには理由がある。

 楓に謝らなければならないことがあるんだ。

 俺は、小説を書けなかった。

 貰った鉛筆で書いてみたけれど、上手くいかなくなった。

 ごめん。

 楓には「未来の小説家」なんてを期待させて。


 それと。

 唐突だけれども、楓に伝えたいことがある。

 俺は、楓のことが好きだ。

 本当に突然で、驚いてるかもしれない。

 小説を書いている内に気付いたんだ。

 物語を、自然と楓に重ねていた。楓との思い出も小説に入れていた。

 十二年間気付いていなかっただけで、

 俺は恋心抱いていたんだ。


 やっぱりもう一度楓と会いたい。

 同窓会まで待たずに、今度どこかで直接会わないか?

 忙しいんだったら俺から東京に行く。

 まだ幼馴染としてでもいいから、関わっていたい。情けない楓の幼馴染だけど、いいか?

 俺もまた小説家に向かって歩み始めるから。


                                 拓馬より


 恥ずかしくもう読み返したくないため、すぐ便箋を折った。

 しかし気持ちは本当。


 幸せな春だった。



 残りの鉛筆は、財布にでも入れておこうか。

 なけなしの思い出と、思いを、

 これ以上忘れないように。

                                  (了)

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scraping memories 根暗 稲愛 @neonekura

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