第3話

「ただいまぁ…」


空っぽの部屋に響く自分の声は妙に虚しくて。でもほぼ毎日誰も待っていないこの部屋にただいまと言って帰ってくる。おかえりなんて言葉がこの部屋から帰ってくる筈がないのに。

仕事終わりで少しネガティヴモードに陥ってる俺はとぼとぼと短い廊下を進む。


そういえば今更気付いたけれど、なんで部屋の電気が付いてるんや?


泥棒だけは勘弁してくれ。喧嘩弱いからさ俺。抜き足差し足忍び足。まさにだ。意を決して覗いた先にはソファを占領して眠る幼馴染の姿があった。


一気に脱力した後、幼馴染に攻撃力半分程度のデコピンを喰らわせてやった。無抵抗な人間に俺は何てことをっ…!しかしまあ仕方あるまい。こいつの自業自得だ。もがき苦しみ涙目で俺を見てくるこいつはまだ夢うつつの様な感じで、そう、かわいい。ふわっとしてる。


「よ〜う、不法侵入者。よう寝れたか」


「んーーおつかれさまぁ…おはよ…」


「お疲れ。お前なんで俺んちで寝てるん?」


「鍵。お前が朝急いでて閉め忘れてんの思い出したから留守番しようおもて」


へらりと笑うこいつは寝起きのふわふわした雰囲気で留守番とか言うから何か…めっちゃ可愛いやん。なんやねん。何処にぶつけたらええの?!この溢れ出る愛情!


「俺のために…ありがとう」


「ええねんで。良かれと思って留守番してたのに寝起き一発目に思いっきりデコピンされてすっごい痛いけど、ええねんで」


「うん。それ良くないやつやね!ごめん!」



幼馴染に土下座する、情けない自分。これが惚れた弱みってやつか?いや、きっと違うだろうけど。



「ひとつ言い訳させて」


「なに」


「思いっきりじゃない。半分くらいの力」


「…え。だから?」


「えっ、ごめん」


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雨降って地固まる、時もある def @de_f2

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