わたし、ドキドキしてます
「秋瀬。放課後ちょっとええか?」
「い、イッキくん!? はい! 大丈夫です!」
朝礼前、わたしは神妙な顔をするイッキくんに呼び出しを食らった。
イッキくんが席に戻ると、入れ替わるようにせっちゃんとタンちゃんが走りよってきた。
「え、えぇ?? なにいまの。チャコ何したん?」
「わたしもわからんよ。どど、どうしよ.....」
「なにしたって、チャコちゃん色々したやんな?」
「どうしたらええの? ツンデレはこういうときどうすんの??」
「落ち着けチャコ。ツンデレはとりあえず捨てろ。素でいけ、素で」
心臓が張り裂けそうなほどドキドキしている。怒られるのか、それとも.....。
「あかーん! 落ち着かへん!」
「ステイ! ステイ!」
「だから犬ちゃうわ!」
定規でせっちゃんをシバく事で、何とか思考を回復させる。
放課後のことを考えると、胃がキリキリした。
放課後はあっという間に訪れた。生徒は部活をしている者を残してみんな帰ってしまい、せっちゃんとタンちゃんも気を使って先に帰った。何かあればすぐに行くからと、それだけ言って。
校門の前にはすでにイッキくんが到着していて、わたしが決意した時と同じ夕日が彼の輪郭をより強くした。
「秋瀬.....」
「イッキくん.....」
そこから会話が始まるまで数秒。それは、何時間も経ってしまったかのように長く、長く感じられた。激しい心音だけが耳を打ち、彼の顔すらまともに見れない。
静寂を終わらせ、先に声を発したのはイッキくんだった。
「最近、なんかあった?」
「ぅえ?」
あまりにも大雑把な質問。だけど、その言葉の意味は一つしかない。
わたしの奇行。イッキくんにしか見せていないツンデレ。それしかない。
これは、怒られるか心配されるかどっちかだろう。密やかに期待していた話題ではなさそうだったので、わたしの心臓は少しだけ動きを鈍くした。
「あの、ごめん。最近、変やったね」
言葉が途切れ途切れになる。そう、あの話題にならなくても相手はイッキくん。緊張、するのだ。
「あれってツンデレ?」
「な、なぜそれを!」
核心をつきすぎるイッキくんに、わたしはたじろいだ。
逆に、イッキくんはやっぱりと目を輝かせ始めた。昆虫採集に没頭する小学生のように。
「正解やな! ごめんないままで気付いてあげれんくて。もしかしてって思っててん」
「こっちこそごめん! イッキくんツンデレ好きやのにあんな出来損ないを見せて.....」
「ええって、だいたい予想は出来てるから」
ふふんと笑うイッキくんは、私を指さして一歩近づく。
「秋瀬には好きな人がいます」
「っ!!」
その指がわたしの身体を貫いたように衝撃が走る。頭の中で何度も想像したシチュエーションがグルグルと回り始めた。
ば、バレてる.....?
「その人はツンデレが好きで、秋瀬はその人の好みの女性になろうとしていた」
一歩。また近付く。
心臓が再び鼓動を早め、頭が真っ白になりかかる。
「その人はクラスメイトで」
一歩。近い、近過ぎる。
変な汗が出てきて、わたしの目が泳ぎ始めた。
「その人の名前は.....」
一歩。彼の指が鼻先にかすりそう。
もう、だめ.............!!
「濱中 秀一くんです!」
...........................へっ?
「正解やろ? ツンデレを死ぬほど愛してるヤツなんて濱中しかおらんもんな」
まままままままま待て待て待て待て!
おるやろ! わたしの目の前に!!
「そうよな〜、考えたら秋瀬さ、濱中の椅子とかよく座ってるもんな」
それはせっちゃんの隣りが濱中くんやからやろ!!
「俺にツンデレしてたのだって、濱中と一番仲いい俺で試してたんやろ? 秋瀬、男子で話しかけてくるの俺だけやもんな」
なぜ、自分が好かれてるとは考えない!!
「事情はわかった。俺も手伝ってやるから安心しいや」
「ぁ.......ぅ.....」
声が出ない。あまりの衝撃に喉が潰されてしまった。
なんで、なんでそうなるの?
少し寂しそうな顔で、イッキくんはわたしに笑いかけた。
「ちょっと残念やけど、ちゃんと決めたから。秋瀬が幸せになるなら応援する」
勝手に話を進めないで。お願いします。
彼は背を向け、走り出していた。
「じゃあな秋瀬! また明日! 」
「ま、まっ.........」
走り去る彼を止めることも出来ず、残されたわたしは膝をついた。
告白、する前に振られたのだ。
日も落ち始めて、ようやく立ち上がることが出来たわたしは、イッキくんがいた場所を見つめた。
その心にあるのは、ふつふつと沸き上がる怒り。その全てを込めて、私は力いっぱい叫んだ。
「ツンデレ好きわぁーーーーー、お前やろぉおおおおおおおお!!!!」
こうして、わたしの初恋はあらぬ方向へ飛んでいってしまった。
だけど、諦めたわけじゃない。曲がったわたしの青春は、ここからまたスタートを切る。
いつか、彼を振り向かせる事をこの夕日に誓って。
「あ、夕日沈んでた.....」
わたし、ツンデレになります 琴野 音 @siru69
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