第14話:剣の教示。
翌昼ギルドの奥に整備された訓練場に赴いた。採集を休んで剣を振るう練習をしよう。
金属塊である剣は外装が比較的軽い木製であろうとも振ると相応の重みを感じる。力学的に言えば慣性モーメントが大きい。練習場に設置されている大きい鉄剣は重心が柄から離れてさらに重い。柄頭に手が引っ掛かるにしてもこの遠心力は体勢を崩すには十分だ。
膝を曲げ重心を低くしても制動は取れない。
「……楽しそうだな。」
「あ、どうも。」
ブンブン振り回していると待ち人がきた。地面に剣が刺さった。
「長剣は扱いにくいだろう。短剣とまでは言わないが軽い武器が合うんじゃないか?」
「試してみていただけですよ。」
長剣を両手で地面から引き抜いて、所定の位置へ戻す。刃が潰されていようと危険性を考慮して訓練場は片付けるべきである。
「装備は何がある?」
「まだ剣だけですね。グーデントさんに訊いた方がいいかと思って。」
剣と装着具を[
「……昼からは装備を揃えに行こうか。」
「お金ないですよ。」
「初期費用を削って死ぬ奴は莫迦だ。」
「それはそうですけど。」
装着具は装着しても案外動きを阻害しない作りで身軽だ。ベルトで胴回りも調節したので戦闘中に引っ掛けることも無い。
「武器はそれで良さそうだな。防具はどうする?」
「……何を指標に選ぶんでしょうか?」
如何せんこの世はゲームでは無いので重量制限が掛かる。頑強であれば良い訳ではない。
「攻撃を受ける気があるかどうかだ。当たる前提ならば重くても硬い防具が好まれ、避けるなら軽くする。一回の攻撃が弱いなら身軽であるべきだから、軽めの防具がいいだろう。」
「いま貴方が着ている鎧は向かないと。」
「そもそも
「じゃあ革とかですか。」
「基本は革になる。余裕があるなら要所に金属を
鎧が破損するほど戦うことはないから良い物を買って長く使うべきだろう。持ち腐れては意味がない。
「死なないことを目標に頑張ります。」
このあと少し剣術について講義を受けた。グーデントには盾を薦められるのだが左で剣を扱うのは難しい。右でも難しい。
また、剣を違えた場合に最も負荷が掛かる位置は手元だ。握力が弱ければ剣を叩き落される。試しに受けてみたグーデントの剣戟は片手で耐えられそうになかった。
「
「その為の
防具屋に連れられた。
「獣魔と争うには盾よりこれの方が扱いやすいだろう。」
「人間相手ならどうなんですか。」
「攻防を同時に行えるから優位に立てる。
……相手も同様だな。例えば俺のような
「
「……できるならそれでいいが、本当なら
「ああ、衝撃を与えるんでしたか。」
「そう、重いから扱えないだろうが。
つまりフールのような技術が無く攻撃が軽い人間には相性の悪い相手だ。もし重装歩兵が敵となった時は逃げろ。」
これは自分の優位性を示しているのだろうか。それとも弱点を晒しているのだろうか。
「今の所人間と相対する予定はないので、獣相手の装備を揃える事にしましょう。」
「それがいい。」
とはいえ鎧は高価なものだ。店頭に並ぶ品はどれも金貨を要求している。限度額[300,000th](金貨3枚)ギリギリを買うべきだろうか。収支が安定していない状態は思った以上に怖い。
「せめてこの程度の質は欲しいが、どうだ。」
提示された
「……買えますけど、鎧に金貨1枚しか残りませんよ。」
「そうか。
……この辺りの討伐対象と言えばゴブリンかスライム。
「新調ですか。」
「個々人に合う物でないと動きが阻害される。それは
「靴と同じですか。」
「……まぁ。」
「判りました。身体に合う物を買うことにします。」
小さな怪我でも動きを阻害するには充分だ。たかが靴擦れで人は歩けない。
革財布がそうだが、革は使い込むと馴染む素材だ。積極的に使っていく。
夕食を終え宿に戻ると、部屋着に着替える。現状、宿ですることが無いので毎日早々と就寝する。
就寝前の読書は睡眠の導入としてとても優秀だ。個人的には電子機器で溜まった疲労が緩和されていると思う。あとは雑多な思考が一本化されてぼんやりする。
しかし今の私には金がない。この世界の書物は総じて貴重であり高価だ。よって未だ一冊も所持していない。
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あとがき。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
数年前にダラダラと、言い訳をしながら書いていた本作ですが、このまま放置し続けるのも作品が勿体なく、また自身の僅かながらの努力が勿体ないと考え投稿しました。すこしでも、すこしの時間でも楽しんでいただけたのなら幸いです。
本作を通じ、あなたに得るものがあったのならば、私は嬉しく思います。
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竜というものは。(冒頭だけ) 斜めの句点。 @constant
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