魔女の落し物 〜呪われし子供達と銀の英雄〜
里見零
終わりの始まり
第0話『世界の終わり』
「魔女と聞き、諸君等は一体何を思い浮かべるだろうか。やはり、歴史通りの災いを齎す災厄の化身だろうか?
それとも、諸君等がよく読んでいる……えーと」
「ライトノベルよ」
「そうそう! ライトノベルだ! そこに出てくるような、どんなに人間に蔑まれようとも人間の為に善行を好むような、
少なくとも私達はこう思っている。
魔女は決して悪い者ばかりではないと。
あぁ、確かに悪い魔女もいるだろう。どちらかと言えばこれから話す物語はそういう話だ」
「それで、貴方が言いたいことは何なのかしら? 」
「我ら。いや私が君達にわかって欲しいのは一つだけだよ。
先入観だけで物事を決めつけないで欲しい。他人は関係ない。君達自身のその目で悪か善か確かめ、見極めて結論付けて欲しいんだ。
一つ分かりやすい例で言えば、君達はジャンヌ・ダルクを知っているかい?
彼女は神からの啓示、つまり神様からの伝言を受け、それに基づき母国の為に命がけで戦い、そして勝利した。
しかし、人々は彼女を恐れた神の声を聞いたなどと言うジャンヌが恐ろしかったのだろうね。
そして異教徒の魔女として、ジャンヌは火刑に処された。
さて君達は、今少しでもジャンヌが悪者だと思ったかい? そんな事よりも母国の為に命がけで戦ったジャンヌが人々の勝手な思い込みで殺された事について可哀想だ、などと思ったんじゃないかな、
要するに私が君達に言いたいのはそういう事。最初は恐ろしいかもしれないが、蓋を開けてみればそんな事はない。
これから話す物語は、人々の勝手な思い込みで世界から居場所を奪われた子供達と、そんな世界を変革したいと思う青年のお話。
私はこの物語が君達に少しでも影響を与えてくれればいいと心の底から思っている」
「よくできました。でも途中から所々素が入っていたのだけれど? 」
「まぁそれは置いといて。随分時間をとらせてしまったね、申し訳ない。
今日はここに集まってくれてありがとう。
それでは始めようか。私と彼女。創世の語り部たる我々がこの目で見てきた、世界変革の物語を」
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気がつけば周囲は火の海に包まれていた。目が焼けるように熱い。鼻につく異臭は焼死体の放つものだろうか、たまらなく不快だ。せり上がってくる胃液をこらえる。耳を狂わせる阿鼻叫喚の声。
ビルは倒壊し、住宅は瓦礫と化していた。道路を舗装しているアスファルトにはヒビが走り、それら全てが発生した炎の苛烈さを物語っていた。地獄絵図。そんな単語が脳裏によぎる。
「一体、どうして……」
こんなことになってしまったんだ。言葉にならない憤りを飲み込んだ。
自分はいつも通りの生活を送っていただけなのに。緑の木々、水色の池、淡い色の空。そして笑い合う家族。
周囲を見渡す。紅蓮の業火の中で今、生きているのは自分だけ。かつて人であったものが炭化し、燃え残った手足だけがかろうじてそれらを人間であったと立証することが出来た。
「お、おぇぇぇぇぇ」
思わず昼に食べた物を吐き出してしまう。猛烈な血臭と目の前の光景に少年の体は耐えることができなかった。
辺りが火の海という事もあり、今自分のいる周りは酸素が極限まで減り、二酸化炭素が充満した空間である。そして今は7月。夏という事に加え、あたりの炎のせいでで夜であろうと、かなり暑い。
(苦しい、誰か、水を……)
からっからっになった喉を潤すものもこの状況では手に入ることはなかった。
グォォオォオォン。
夜ということもあるが、それ以上煙が立ち込めた暗い空を何十機もの戦闘機が少年の上を通過する。そして戦闘機の進行方向の遙か先にいたのは、
「ば、化け物……! 」
異形の形をした巨大な化け物が空に浮かんでいた。スライムのような体に人間の腕の様なものが何本も生えている。しかし驚いたのはそれだけではない。
自衛隊の戦闘機から発射された何発ものミサイルをまともに食らっても尚、そのグロテスクな体には傷1つついていなかった。
「グギヤァアォァォオォォォ! 」
不気味な鳴き声とともに、魔女の周囲にいくつもの魔法陣の様なものが展開され、そして、
ピィィィィィィィィン。
突如発生した光によって先程飛んで行った戦闘機も、化け物の下にあった街も全てが文字通り、消滅した。
爆風は少年のところにまで届き、小学3年生の小さな体は軽々と瓦礫の山まで吹き飛んだ。
「ガバァッ! 」
衝突の勢いで血塊が口から溢れる。
(誰か……助けて……)
そこで少年の意識は途絶えた。
西暦2036年7月7日。 織姫と彦星が会う事の出来る唯一の日に人類は、《魔女》と呼ばれる事になる化け物と出会い、そして蹂躙された。
魔女の落し物 〜呪われし子供達と銀の英雄〜 里見零 @satozero7724
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