第2話 大切な人



第二話 大切な人


深澤はテーブルにコーヒー代をおき店から外に出た。


少し戸惑いながら香苗も後を追うように店を出た。


香苗は歩いていた深澤を呼び止め車に乗せた。


お互いに黙ったままの時間がしばらく続いたが…先に話始めたのは香苗だった。


香苗

「わたしが介護士になった理由…知ってたけ?」


深澤は小さく首を横に振った。


香苗

「私ね…まだ中学生の頃にお婆ちゃんを事故でなくしてるの…」


深澤は驚いた顔を見せてー


深澤

「そうなんですか?」


と聞き返した…


香苗は更に話を続けた。


香苗

「私のお婆ちゃん…認知症で夜になるとよく家から出ていたきり帰ってこないことが良くあってね…いつも家族総出で捜してた…でも、お婆ちゃんは遮断機のおりた踏切に入って電車にはねられて死んじゃった…」


深澤は一度つばを飲み込んだ。


香苗

「お婆ちゃんが死んじゃったって分かったとき…私はかなり取り乱してたって後から聞いた…私自身はあんまりよく覚えてないんだけど…」


深澤はもう一度つばを飲み込んだ。


深澤

「じゃあ、それがきっかけで介護士になられたんですか?」


香苗は小さく頷いた。


香苗

「お婆ちゃんの事故がきっかけで認知症の怖さを知った…同じ用な悲劇を誰にも繰り返して欲しくない…そう思って介護士になったの…私にとってお婆ちゃんは大切な人だったから…あっ、これ誰にも話したことないから二人だけの秘密ね」


深澤は小さく頷いた。


そのうちに職場駐車場の深澤の車の横に着いた。


深澤

「今日はいろいろとご迷惑をおかけしてすいませんでした。」


香苗

「大丈夫だよ。私の方こそ何の役にも立てなくてごめんなさい。」


深澤は一度つばを飲み込んだ。


深澤

「香苗さん。僕、仕事をやめようと思ってます。」


香苗は少し戸惑いながらも笑顔で…


香苗

「あんまり考えすぎないでね…私はそんなに責任感じる必要ないと思うよ。」


深澤

「ありがとうございます。」


と一言言い残し深澤は自分の車に乗り込んだ。


翌日、深澤は施設の最高責任者である施設長に退職願いを提出し受理された。


深澤の退職願いは受理されたものの、会社の規定で一ヶ月間は介護士として働かなければならなかった。


しかし、深澤は落ち込む様子は見せず必死に施設利用者と向きあいつづけた。


いつも笑顔を絶やさず紳士に仕事と向き合う姿は介護業界を去ろうとしている者とは思えない程だった。


そしてー1ヶ月がたち、深澤が施設を去るときがやってきた。


いつものように仕事を終えて職員専用の出入り口から外に出ると…そこには朝倉と由佳の姿が有った。


あの日、三階で夜勤をしていた二人。

朝倉が一つため息をつき話し始めた。


朝倉

「本当にやめちゃうんだな…」


深澤が小さく頷く。


朝倉

「とりあえずお疲れ様!次の就職場所とか決まってんの?」


深澤

「いや…決まってないです。とりあえず実家に身を寄せようかと思ってます。」


すると、由佳が少し笑顔で言った。


由佳

「じゃあ、時間はたくさんあるってことですよね!」


深澤は少し不機嫌そうにー


深澤

「まぁ、そうなりますね。」


朝倉が深澤に近寄り手をさしのべた。握手かとおもい深澤は朝倉の手を握ろうとしたがー朝倉は手に持っていたメモを深澤に渡した。


深澤

「これは?」


とー深澤が朝倉に訪ねるとー


朝倉

「香苗さんから預かった。深澤君に渡しておいて欲しいって。」


深澤は一瞬ドキッとした。


朝倉

「まぁ、とりあえず頑張って。」


由佳

「頑張って下さい。」


と二人は言い残し施設の中へと戻っていた。


メモに書かれていたのは明日の日付、時間、待ち合わせ場所だった。


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fact-真実 萩原義和 @daidogeibonds

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