第2話「ある日の魔王城2」


「よいしょっと」


 軽く床を蹴った、俺の認識としてはその程度。だが、傍から見たなら縮地とでも言うべき動きになるらしい。


「監視や偵察用の魔法で観戦してた魔物さん談だったかな?」


 申し訳ないが、名前の方は覚えてない。種族が違うと個々の見分けがつきづらいのだ。魔王軍に所属してるそれなりに格が上の人型の魔物ってことでお揃いの装備つけてるってこともある。


「ごつくて怖いのもあってあんまり交流してないってのもあるんだろうけどさ」


 所謂テンプレになるが俺と頻繁にやり取りをしてる者となると最高幹部である四天王の面々か身の回りの世話をしてくれるメイドさんとかみたいな使用人ポジの魔物くらいだ。

 もちろん、そちらの方は顔と名前をちゃんと覚えてる。


「さて、と」


 ちなみにブツブツ呟いてる間も俺の身体は動いていた。自分で言うと嫌味っぽいがあまりの速さに対応しきれず立ち尽くす少年の横を抜けて後ろに回ると、もう襟首をつかんでいて。


「力加減ってのがなぁ」


 一番気を遣うのが死なない様に手加減するという奴だ。今の大魔王モードの俺が全力で投げ飛ばせば漫画的表現みたいに空の彼方へ飛んで行け的なことも可能ではある。

 だが、その場合、地面に叩きつけられて俺の知らない場所でつぶれたトマトみたいになって死ぬだろうし、その辺の壁とかにぶつけるのも当たり所が悪ければやっぱり死ぬ。壊れた壁を誰かが修理しないといけないということもあるし。


「がっ」


 だから、俺はそのまま少年を床に引き倒し。


「はい、死んだ」


 いつの間にか手の中に生成されていたなんかやたらごつい杖の石突を少年の喉元に突きつける。


「このまま突くことも出来るけど、床の掃除が大変だからさ」


 格の違いを見せつけて、わからせ、帰らせる。


◇◆◇


「はぁ」


 戦意を失った少年にお引き取り頂いた後、俺は玉座に腰を下ろしてため息をついていた。


「お疲れ様です、魔王様」

「あぁ、うん。今回の子は素直で助かったよ」


 労いの言葉をかけてくれるメイドな魔物さんに頷いて、俺は天井を見上げた。


「『舐めるな、これで勝ったつもりかよ?!』だったっけ、この間のは」


 時々聞き分けもないのとか頭の悪い自称勇者も居て、あれで終わらないこともある。そういった場合、めんどくさいので魔法で拘束し、身動きが取れないようにした上で魔物の皆さんにご足労頂いたりするのだ。

 

「こう、負けを認めるまでくすぐり続けたわけだけど」

「あれは傑作でしたね」

「いや、血生臭い展開避けたくてああしてるだけなんだけどなぁ、おじさん」


 生き恥を晒した自称勇者の半分くらいは二度とやってこない。

 中には手段を択ばず復讐しようと魔王城に火をかけたり水源に毒を混入しようとした輩までいたが、成功者はゼロだ。


「あの人間の子供にもいつもの処置を?」

「うん。監視といつでも行動不能に出来る術式を組み込んだ魔法は引き倒した時に、ね」


 念のために追跡調査と抑止を出来るようにしてあるので、負け勇者の被害報告は今のところどこからも上がっていない。

 放火犯や水質汚染を目論んだ輩の処置に関しては魔物さんたちに丸投げしてしまったのでどうなったかは知らないけれど、俺の精神衛生上もこの方がいいのだろう。


「まぁ、ここまで単身でやってこれるんだからあの年齢にしては異様に強いはずなんだけどなぁ」


 人の話を聞かなかったから集団行動が無理だったのか強すぎて同行者が足手まといにしかならず単身なのかは知らないが。


「戦力の逐次投入とか、人間ってアホですね」

「あの、おじさんも世界違うけれど人間なんだよ?」

「失礼しました。では、この世界の人間はアホということで」


 形だけは恐縮する魔物のメイドさんに俺は苦笑を返したのだった。

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おじさん、大魔王やってるんだけどさぁ 闇谷 紅 @yamitanikou

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