おじさん、大魔王やってるんだけどさぁ

闇谷 紅

第1話「ある日の魔王城1」

「悪いことは言わんから帰りな」


 掌を片目と額を隠す様にあてたまま嘆息した俺は敵意むき出しで剣の切っ先をこっちに向ける少年に忠告した。


(まったく、ごく普通のオッサンがどうしてこんな目に遭わないといけないのやら)


 声には出さず一人言ちたが、所謂臨戦態勢の少年はお引き取り頂ける様子もなく、寒色の石床を真っ二つに割って玉座まで伸びる血の様に黒みを帯びた暗赤色の絨毯を踏みしめ巫山戯るなと喚いた。


「巫山戯るなって言ってもねぇ……おじさん、どうせなら笑えるような話の方が確かに好きだよ? けど、これはまともな忠告のつもりなんだ。俺の方からも帰り道で襲いかかる様な真似はすんなと言っとくからさ、ね?」


 グロ耐性もない俺としては斬ったり斬られたりのバトルなど御免被りたい。もちろんゲームみたいに血が流れずダメージが数字になって頭上に表示されれば良いとか言う類の話でもない。


「まぁ、ゲームだとしたらとんだクソゲーだろうけどね、魔王城に侵入したのに雑魚敵は一切出現せず、いきなり大魔王戦なんて」


 下手に配下を差し向けて犠牲者を出すより最強戦力をぶつけてお帰り願う。そんなコンセプトで改築された魔王城には自称推薦関わらず幾人もの勇者がやって来る。今にも斬りかかって来そうな少年もその一人であり。


(本来なら俺の様なさえないオッサンではなく邪悪なカリスマというか他者を畏怖させる迫力のある巨漢なり魔神なりが迎え撃つべきだと思うんだけどねぇ……)


 適正がないとかで結果的に俺が侵入者撃退のお仕事をしてるのだ。もっとも俺は乗り気ではなく。


「プログラム起動、適合者ニ戦闘能力ヲ付与、大魔王モードへ移行サセマス」

「あー、どうあってもやるってことね」


 まごついてると業を煮やしたのは剣を向ける少年ではなく、この城を防衛するシステム『大魔王』の方だった。


「こう、変身するのは日曜日の朝にテレビ出演してる小中学生のアニメキャラだけで良いと思うんだが」


 ボソッと零す俺の意見などスルーして集まりだした闇が俺の身体に貼り付き、姿を変えて行く。本当に変身するアニメキャラにでもなった気分だが、良い年した男が変身とか全く誰得なのだろう。


(ごく普通のオッサンを万夫不当のチートキャラにするんだからこの城の防衛システムが凄いってのはわかるんだが)


 むろん、この防衛システムにも欠点はある。力を発揮出来るのがこの魔王城玉座の間に限定されていることと、可動に時間制限があると言うこと。


「はぁ」


 歎息しつつ俺は変身と言う名の大魔王モードへの移行が終わるのを待つのだった。

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