部活を作ろう!

「姉貴、風呂空いたぞ」


 1番風呂から上がりさっぱりした俺はリビングでテレビを見ながらくつろいでいる姉貴に声をかける。


「は〜い」

 気の無い返事が帰ってきた。


 それを聞き流し冷蔵庫から牛乳パックを取り出す。


 うちの家は姉貴と俺、両親の4人暮らし。

 両親は共働きの為普段は帰りが遅い。

 だから夕方は姉貴と2人きりになる事が多いのだ。


「あのさ万里、テレビ見てたら思いついたんだけどさ」


 姉貴の視線はテレビの方を向いたままだ。

 テレビの画面では見慣れた中堅の芸人が見覚えのない(恐らく新人であろう)芸人を弄っている。

 姉貴の思いつきだ、どうせろくでもない事だろう。


 俺は姉貴の言葉を無視し食器棚からグラスを取り出す。


「部活を作ろうと思うの」


 ほらね。


「そう、頑張って」

 俺はグラスに牛乳を注ぐ。


「あんたまだ部活入ってないでしょ?」

「入らないよ」


 即答した。


「まだ誘ってないじゃない」

 テレビに釘付けだった姉貴がこちらを振り向く。


「姉貴の思いつきには付き合ってられないよ」

 小さい頃からその思いつきで散々ひどい目にあってきた。高校に入ってからも付き合わされてなるものか。


「とりあえず内容聞いてよ、あんたのためでもあるのよ」

「俺のため?」

「万里、あなたDランクでしょ?」

「……!」


 Dランク、その言葉を聞いた瞬間心臓が跳ね上がった。


 うちの学校、最古学園は超能力者である生徒をその能力の有用性でA~Dでランク分けされている。単純に上からAが1番高くDが一番低い。

 最も有用な能力を持つとされるAランクは学校内で1番少な、く生徒だけでなく教師からも一目置かれている。能力者探知の能力を持つ姉貴はそのAランク保持者の一人だ。

 逆に一番多いのはCランク。次にBランク、Dランクと続く。

 そして、俺は最低のDランク。

 手からからあげを出す能力は、はっきり言ってしまえば役立たずと判別されているのだ。


「……何で知ってる」

「端末で見たのよ」


 JEDAに所属している姉は学校の教員と同じく学校の情報端末にアクセスする権限が与えられている。

 だが、私的利用するのはもちろんご法度だ。


「最低だな人の個人情報を勝手に見るなんて」

「家族間のプライバシーなんてあって無いようなものよ」

「学校にチクってやる」

「まぁまぁそう怒んなさんな、ランク上げたくないの?」

「上げられるのか?!」

「食いついたわね」


 通常最初に認定されたランクは変動しない。だが、選定の規準が変わったり、個人の努力次第でランクを上げることは出来る。

 規準なんて滅多に変わらないので基本的には努力で上げるしか無い。


 しかし、努力で上げるのは相当難しい。なぜなら能力は人によって千差万別、能力を向上させる方法も千差万別だ。方法がある程度確立されているのは能力者の人口が多い、念動力や透視能力くらい。特に俺の手からからあげを出す能力なんて超能力者の歴史上自分が初めてとか言われてる始末だ。どうやって上げたら良いかなんて皆目検討もつかない。


 だが、JEDAに通じている姉貴ならランクを上げる裏技みたいな方法を知っていてもおかしくはない。


「そりゃ最低ランクは嫌さ」

「でも残念、簡単には上げられないわ」

「何だよそれ。期待させやがって」


 がっかりだ。


「だからそれを見つけるの、部活でね」

「はぁ?」


「部員全員で自分の超能力を鍛え上げるのよ。そのためにありとあらゆる方法を模索する」


 姉貴は立ち上がり握りこぶしを作る。

 彼女は燃えていた。


「模索するって……自分たちで方法を探すってことか?」

「そうよ!私達でみつけるの」


 んなあほな。

 全世界の研究者が血眼になって探求している方法を高校生でしか無い俺たちで見つけるだって?

 そんなもん無理に決まってる。

 砂漠でコンタクトレンズ見つける方が簡単だろう。


「姉貴流石にそれは無茶だ」

「無茶じゃないわ。方法の目星もつけてるもの。これを見て」


 姉貴はどこからか一冊の分厚い本を取り出した。


「おーるおぶいーえすぴー?」


 表紙は全て英字で書かれていてタイトルらしき以外のものは読めない。


「All of ESP、これは伝説の超能力者ヤード・ポンドが残した著書よ。これに能力を向上させるヒントが記されていたわ」


 ヤード・ポンド……超能力者なら誰もが耳にしたことがある伝説の超能力者だ。学校の授業でも習う。何でも複数の超能力を操ることが出来たとか。

 だが300年も前の人物であるため伝説には信憑性の薄い部分も多い。


「この本にはね超能力をパワーアップさせるヒントが書かれていたの。だからこれを参考に超能力のトレーニングを行う部活を作る。名付けて超トレ部!」

「ちょうとれぶ……?」


「あんた以外の誘う子ももう決めてるわ。図書室の右隣に使われてない部屋あったでしょ?放課後そこに集合ね」


「ちょっと待て、俺はまだ入るとは」

「おっふろ、おっふろ~♪」


 姉貴はそのままリビングから出ていってしまった。

 俺は一人取り残される。


 はぁ~また姉貴に付き合わされるのか。

 大きなため息が出た。

 Dランクか、まぁ仕方ないわな。今はこれしか使えないんだから。

 右手を開いたり閉じたりさせながら思う。


 だが姉貴は知らないのだ。

 いや、正確には覚えていないと言ったほうがいいか。


 俺たち姉弟が命の危機に晒された時のことを。

 その危機を俺が超能力を使って回避した時のことを。

 それは手からからあげを出す能力じゃない。

 もっと別の何か。


 だが今は使えない、それが何だったのかも覚えていない。

 覚えているのはその事実だけ。

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手から唐揚げしか出せない俺は超能力を鍛えることにした。 乙間椎 @otomasin

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