前世を見る能力その2

「満足したか姉貴。じゃあとっとと自分の教室に……」

「万里は見てもらったの?」

「いや、見てもらってはないけど……」


 そもそもハザマと会話した記憶すら無い。


「じゃあ万里も見てもらいなさいよ」

「ええいいよ。もうすぐチャイム鳴るし」


 時計はもう予鈴の5分前を差していた。


「まだ時間あるわよ。ごめんりんちゃんもう一回だけ良い?」

「かまわない」


 ハザマは俺の方をチラッと見ただけで答える。


「良いってさ。時間無いんでしょ」


 姉貴は強引にさっきまで自分が座っていた席に俺を座らせる。


「手を出して」


 俺がさっきの姉貴のように手の平を差し出すとハザマは両手をその上に置いた。

 ハザマは目を閉じる。


「…………」


 しばらく沈黙が続く。

 おかしいな姉貴の時はすぐに見えたのに。


「どう?」

「…………」


 ハザマは答えない。


「焦らないの、時間のかかる場合もあるんだわきっと」

 そうかもしれないがもう予鈴まで時間がない。担任が入ってきたら注意される。


「……見えました」

「見えたの?!」


 俺より先に姉貴が口を開く。そっちのほうが待ち遠しかったんじゃ無いのか?

「どんなやつだ?」

「…………」

 また沈黙。


「何で黙るんだよ」

「こら、万里。きっと言いにくい理由があるのよ」


 言いにくい理由って何だよ。褒められない容姿とかか?


「もしかしてものすごい不細工とか?」

「不細工ではないと思う」


「そうかそれなら良いじゃないか。男か、女か?」

「分からない」


「どっちか判別し辛い顔ってことか?」

「そんなところ」


「名前聞いたら分かるんじゃないの?」


 姉貴がそう提案する。

 しかし、日本人ならともかく外国人だと判断しにくいかもしれない。

 だが聞いてみる価値はあるだろう。


「うすば……」

「うすば?」

 日本人だろうか、それとも外国人?


「かげろう……」

「かげろうか。名前からして日本人か?」


 でもなんか聞いたことのある名前だな。

 その名前が出た途端、教室がざわめき始めた。


「なんだ、なんだ、皆知ってるのか?」

「……万里、それってさ言いにくいんだけどあれじゃない?」

「あれって?」

「ほらあの虫の」

 虫?!その単語を聞いた瞬間思い出した。


「うすばかげろうってウスバカゲロウの事かよ!!」


 ウスバカゲロウ、トンボみたいな見た目をしたアリジゴクの成虫である。

 なんてこった俺は虫だったのか……


「ハザマさん、からかってるだけだよね?」

「違う、本当」


 ポンと、誰かが俺の肩を叩いた。

「万里、辛い現実を認めたくないのは分かるが受け入れろ」

 常磐の野郎……。


「そんな事言ったって確かめる方法は無いじゃないか」

「疑うのはりんちゃんに失礼よ。彼女は嘘をつくような子ではないわ」

「今日会ったばかりの子の事を何で姉貴が分かるんだよ」

「私、人を見る目は自信あるのよ。でないとこの仕事務まらないわ」


 でも姉貴の言うことは間違ってはいない。

 同じクラスになってからそんなに長くはないが彼女が人を騙したりして喜ぶような性格じゃ無いのは知っている。

 俺は反省した。


「ハザマさん、ごめん。ショックのあまりつい」

「気にしないで、そう思うのは普通のことだから。疑われてるのも慣れてる」


 ハザマはこっちに顔を向けず淡々と答える。


 怒らせてはいないだろうか少し心配になった。


「そうがっかりしないの、きっと前世ですごい徳を積んだんだわ。誇っていいのよ」

 姉貴の苦し紛れのフォローが入る。


 こんな辛い思いをするのなら、人間になんか生まれたくなかった。


 ちくしょう。

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